「いつから付き合ってるんですかー?だって」
「はぁ?」
「私と銀八」
「なにそれお前と俺って付き合ってたの?」
「んなわけないでしょ。生徒が勘違いしたのよ」
ふぅと小さなため息をついて奴は丸付けをしていた答案用紙をまとめた。学期初めのこの時期、ガキ共にとっちゃあ地獄ともいえる小テストのオンパレードだ。加えてそのテストを作成し、採点する俺たちにとっても地獄であることは是非とも強調したい。先生だって暇ではないのだ。
「この前一緒にご飯行ったでしょ」
「ああ、松屋?」
「それをうちのクラスの生徒が見てたらしいのよねー。まったく、そういう情報だけは早いんだから」
「そうだなー。デートに松屋はないよなー」
言いながら煙草をくわえた俺を小町は一睨みし鼻をつまんだ。
「こんな天パが彼氏と思われてるなんて……」
「おいしっかり聞こえてんぞ。言っとくけど天パに悪い奴はいねぇんだからな!」
「聞こえるように言ってんの」
まとめた答案用紙を引き出しにしまい込んだ奴は、自分の鞄を机の下から引っ張り出して肩にかけた。既に時刻は8時をさしていて、職員室に残っているのも俺と奴のみだった。新学期始まって早々他の職員が早々と帰る中、残業というのも奴らしい話なのだが。
「じゃ、職員室の戸締りよろしくね」
「お、待てよ。俺も帰る」
「……銀、答案の丸付け終わったの?」
「い、家でやるよ」
「ちゃんとやってきてよね。いっつもZ組の子からテストの答案が返ってこないって言われるんだから」
「わぁかってるよ。それより今日は大戸屋よらね?」
何気なく、いつもと同じように尋ねた質問に彼女は即答した。
「やーよ」
「なんで?予定あんの?」
「ないけどイヤ。私と銀の住んでる地域、とくにうちの学校の子が多いんだから」
「関係ねーよ。それともなに、勘違いされたら困る奴でもいんの?」
「…そういうわけじゃないけど」
「だったら良いじゃん」
ニカッと笑い、奴が肩にかけている鞄を奪い取って歩き出す。ガキ、と文句を垂れやがった女に聞こえるように決め台詞を1つ。
「まぁ、俺は勘違いされても困んないけど」
勘違い
(え、……え!?)
(鈍いなぁ)
(え、……え!?)
(鈍いなぁ)
20111010 Happy Biryhday!