スパーンと勢いよく店の引き戸が開く。ドアにかけてあった開店準備中の札は宙に舞い、ドアさえも吹っ飛ぶ勢いの余りようだ。
霞む光の先には黄色く光る髪をふわつかせる青年がふんぞり返って立っていた。
「おーい、そこの女ァ。俺の女になりなせい」
「沖田さん、まだ開店前ですよ」
「女口説くのに時間は関係ねェ」
「困ったわ。一応法律的に未成年は入れないんですけど」
「法律?こちとら警察でさァ」
「そうね。警察は普通こんな時間にキャバクラに来ないのだけどね」
少し困ったように眉を下げて微笑む。時刻は午後1時。
「今日はまたどうして?」
「パトロール」
「まだ開店もしてないキャバクラへ?」
「最近物騒だから用心するに越したこたぁねェ。ただでさえここは変態ゴリラの巣屈だからねィ」
「沖田さん」
「なんでィ」
「何度いらっしゃろうと、答えはノーですよ」
一瞬呆けた彼は、しかしすぐに眉根にシワをよせて面白くないとでも言いたげな顔を見せた。頭がキレるひとで助かるわ。店の資料を片付け自らが座るソファーの隣を2回ほど叩いた。彼が嫌う子どもを扱うような行動に眉間がピクリと動いたのを逃しはしない。それでも気づかないフリでお座りになったら?なんて声をかける私も相当。
「また今日も仕事ですかィ」
「ええ、書き入れ時ですし」
「辞めりゃあいいのに」
「あら、路頭に迷えとでも?」
「ちげーよ」
「それとも、」
沖田さんが養ってくれるのかしら?
いくら何でもからかっていることが彼にも分かっただろう。年上の、しかもお水の女などに入れ込むからこうなるのだ。あなたは私を知らなすぎる。何人もの殿方が同じように言い寄ってきたのを私がどう切り返してきたか、あなた、知らないでしょう?
「なーんて、ね」
冗談ですよ。ドキッとしたかしら?
カラカラ笑って机の上にまとめた資料を取り、立ち上がった。と同時に体が下方向斜め45度に引っ張られた。自然と男の膝に身体を預ける形になった私の耳元で、当の本人は囁く。
「上等だねィ」
「沖田さん、なにして」
「お前を手に入れるんなら養うくらいわけねぇよ」
「は、」
「その代わりお前もそろそろ見せろよ、本性」
表情を伺うように振り向けば、三日月を描いた口元が楽しそうに笑った。
Sの攻防
20110923