自分ルールって知ってる?
発売されたばかりのジャンプに夢中の白髪に尋ねれば、んーとかあーとか気のない返事が返ってきた。定春とたわむれていた(というより乱闘してた)神楽はすぐに振り返り、花のような笑顔を咲かせた。
「なんアルかそれ!食べれるアルか?」
「んー、残念ながら食べれないね。でも食べ物を生み出すことも可能だよ」
「酢昆布もか?酢昆布もアルかぁ!」
「うん、酢昆布も。そうだなぁ、お手本見せるからよく見ててね」
「ラジャー」
右手を額に添えた少女に目配せをして、いまだジャンプに食いついてる白髪の前まで歩みでた。
「あんだよ。銀さん今ジャンプ読むのに忙し、」
「自分ルールぅ!銀時のジャンプを粉々に引き裂けたら、銀時がアイス買ってくーれる」
「ちょっとぉおおお!なにこの子どこのガキ大将?!」
「そーれ!ファイトー!」
「キャアアア!ジャンプが、新刊ジャンプがぁ」
ジャンプをシュレッダーに入れると次から次へと細長い紙屑が生成された。光の早さでただのゴミと化した元ジャンプを目の前に、持ち主は怒りを露わにする。
「なにやっちゃってんの?ジャンプが可哀想だと思わないの?」
「再生紙として生まれ変わる彼に乞うご期待!」
「期待できねぇよ。真っ白になって戻ってくんじゃねぇか、絶望しかねぇよ」
「そのうちいいことあるよ。きにすんな」
「そのいいことがジャンプだった俺はどうすればいいの?お前は何様のつもりなの?」
「アイスはチューパットでファイナルアンサー」
「アンサーじゃねぇよクエスチョンだらけだよ。あーもう、お前なにそんなに怒ってんの」
ぐにゃりとほっぺを抓みながら、銀時は私の顔を覗き見た。だって、と言葉を濁せば、続きを促すように抓っていた手で頬を撫でた。
「暑くてイライラしちゃったの」
「俺は小町のサンドバックじゃないんだけどな」
「冷蔵庫に冷たいものの1つも入ってないし」
「よく考えて、俺の財布にそんなもの買う金ないだろ」
「でもジャンプは買ってたじゃない」
「あー、と」
「銀時、ジャンプにしか興味ないよね」
「なにそれ。お前妬いてんの?」
んなわけねーな
笑い飛ばした男にすり寄って着崩された着物を掴んだ。
「ヤキモチなんかじゃないもん。違うもん。銀時が私の相手してくれないのが悪いのよ」
「ちょ、冗談やめろよ」
「冗談じゃないよ、私ずっと銀時のこと、」
「た、タンマ!ちょっと落ち着け俺。この女が可愛く見えるとか末期だぞ。むしろ女に見えたら末期だぞ」
「銀時!私は、」
両手を肩の横に挙げた彼は、やめてくれとでも言うかのように、私の言葉を遮った。
「周りをほったらかしにしてジャンプに夢中になったのは悪かった。今後気をつける。だが今のは無しだ」
「なんでよ」
「俺とお前の間に今までそんな雰囲気微塵もなかったじゃねぇか」
「そんなのこれから作ればいいの。愛は2人で育てるものよ」
「やめて愛とかやめて寒い。チューパット買ってやるからもう何も言うな」
顔面蒼白で言い放つ彼に、私はゆっくりと手のひらを見せた。
「なに」
「5本ね」
「あ?」
「チューパット5本って言ったの。神楽なに味がいい?」
「ソーダがいいアル!」
「じゃあ銀時、ソーダ2本とグレープ3本で」
「ちょっと待てコラ」
なにか問題でも?と口にすれば、問題だらけじゃねぇかと彼の口が吐き出した。どうやら状況を理解できてないらしい脳足りんに一番わかりやすい説明を試みる。
「神楽、ここまでが自分ルールで食べ物を手に入れる方法よ」
「おおー、さすが姉御ネ」
「どこがだよ。最低の極みじゃねーか」
「女の涙は使いようによっては最強の武器なの。だから安売りなんかしちゃだめよ」
「私も小町みたいな女になりたいアル」
「チューパット5本のためにここまでやる女に?安売りどころじゃねーよ叩き売りだよ」
「まんまと騙された男がなに言ってんのよ」
「そーだそーだ」
「……」
「文句いう暇があったらチューパット買いに行きなさいよ。死ぬ気で走ってね」
「そーだそーだ、ヘタレ野郎」
「…お前ら本当に悪魔だな」
自分ルール
(小悪魔って次元じゃない)
20110524(小悪魔って次元じゃない)