「お誕生日おめでとうございます」
「、お」
「なんですか。まるで私から聞くとは思わなかったとでも言いたげな顔ですね」
「いや、別に」
ふかしてた煙草の灰を落としながら、副長は視線を逸らした。なにこの罰が悪そうな顔。せっかく祝ってるのに嬉しそうな顔や言葉の1もないってどういうこと?
「胸に手を当てて考えてみろ」
「Cの65」
「カップ数は聞いてねぇよ」
「えぇーまったく分からないですぅ。私副長の誕生日に、目の前でマヨネーズを焼却炉に投げ込んだり、副長をバイクでひいて全治2ヵ月の怪我で入院させたりなんてしてないですぅ」
「がっつり覚えてんじゃねぇかテメェエ!」
「毎年毎年激しくて素敵な誕生日をありがとう?いえいえどういたしまして」
「お前のせいで毎年毎年誕生日が近づく度にトラウマで悪夢見んだよ。まじで殺すいつか殺す」
「毎年私のことを夢に見るって?イヤだ、ナンセンスな告白ですね。近頃の小学生でももうちょいマシな愛の言葉を囁きますよ」
「今すぐ消して欲しいらしいな」
目の前の上司が鞘を左手で抑え右手を柄にのせた。最近の若者がキレやすいというのはあながち嘘ではないらしい。というか沸点低くないかこの人。
「すぐ怒ると幸せが逃げますよ」
「誰のせいだ誰の」
「残り少ない人生笑顔で乗り切りましょう」
「なに良い笑顔で笑ってんの?なに人のこと勝手に早死ににしてくれちゃってんだオイ!」
相変わらず抜刀体制を崩さないまま叫んだ副長さんは、ジリジリと私に詰め寄ってきた。いつもよりテンションが高い気がするのは誕生日だからか。いい歳こいたおじさんのくせに誕生日ではしゃぐとか可愛いなおい。
そんなことを思いながら屯所の中庭を横目で確かめれば、カメラを構えた蜂蜜色の髪の少年と、たれ目の監査官がスタンバっていた。
作戦は滞りない。
これで副長が私に襲いかかった写真でも撮って街中にバラまけば、去年以上のトラウマを与えられることは間違いない。
1週間は屯所から外に出れないであろう副長の姿を思い描き、自然と頬が緩んだ。
「ところで今日は非番ですか?そんなわけないか、たとえ非番でも仕事以外する事ない寂しい人ですもんね」
「否定はしないがいちいち癪に障るなお前」
「それほどでも」
「……非番だがなんか用か」
「奇遇ですね、私も非番なんです」
「絶対奇遇じゃねぇだろ!お前笑い方が怖ぇんだよ小さい声で予想通りとか呟かないでお願いだから」
「デートしましょう副長」
「今年こそ俺を殺る気か」
「あはは、デートですってば」
「だから目が笑ってねぇんだって」
「どこ行きましょうか、ラブホがいいんですか。副長って見かけを裏切らず脳内が下半身ですね」
「腹の中が真っ黒なお前には言われたくねぇ」
「私初めてですけど、頑張りますから。副長が下手すぎてキスさえできなくても笑いませんから」
「人のこと見下しすぎだぞ」
「大丈夫、大丈夫。ベロチューが出来ないことも黙ってますから」
「……」
「え、手も繋げない?いろんな意味で残念ですね」
「テメェな、」
眉間をヒクヒクさせながら、副長はやっとのことでその一言を紡いだ。落ち着こうという努力の賜物だった煙草は地面に踏みつけられ、肺に残っていた煙も吐き出された。…気のせいか目が据わってる。
来る
全身が身震いを起こした。剣士の血なのかなんなのか、強い奴を目の前にした時に起こる身震い。今のはそれだ。
そう身構えた瞬間。副長が一気に詰め寄ってきて、私を壁まで追いつめた。斜め上を見やれば、見慣れた端正な顔が瞳にうつる。
「…いやん、ごめんなさい」
「全然反省してねぇな」
「反省するのは副長の方ですよ」
にっこり笑って後ろを指差せば、黙々とカメラのシャッターを切る蜂蜜色とビデオを回す黒いの。
勝った。今年もトラウマ間違いなし
「それがどうした」
「…は、」
「気付かないわけねぇだろ」
後ろに黒い空気を背負って笑みを浮かべた副長は、私の顔の真横に腕を置いた
「とりあえずベロチューからか」
その言葉に顔をひきつらせた私に対し、沖田と山崎さんは嬉々としてカメラとビデオを構えた。
……はめられたのは私か
いたちごっこ
(焼き増ししてバラまいて来まさぁ)
(俺にも一枚くれ)
(あ、隊長俺も!)
20110514(焼き増ししてバラまいて来まさぁ)
(俺にも一枚くれ)
(あ、隊長俺も!)