「最低!!」
バチン!
「っ、」
ひときわ大きな音を放って、俺のほっぺに真っ赤な紅葉が咲いた。
さっきまで彼女だった女は、ものすごい勢いで走り去っていった。
ああ、またやっちまった。
別段痛むわけでもない胸のポケットから、チュッパチャップスを取り出してラベルを確認する。コーラ味だ。まったく今日はついてねぇ、俺はイチゴミルク味買ったつもりでいたのによ。口に含むと甘いのかさっぱりしてるのか、よくわからない味が口のなかに広がった。ちょっとシュワシュワする。
壁にもたれかかって先ほどの引っ張ったかれた頬に手をあてたとき、俺の頭上から声が落ちてきた。決して可愛いとは言えない、少し気怠げなハスキーボイス。
「バーカ」
「……あんだよ」
「今度は何したの」
「お前にゃ関係ねーだろ」
「待ち合わせ場所にきたと思ったら修羅場を始めちゃった友人を関係ないとは、私は思えないけどね。なに、またデートの約束忘れたの?」
「…忘れてねーけど」
「は?じゃあもしかして、彼女とのデートより私と遊ぶ予定優先しちゃったの?」
「……」
「バーカ」
「うっせ」
そもそも女ってのは細かいことにいちいち反応しすぎなんだよ。ちょっと友達と予定があるからデートを他の日にしてほしいって言っただけじゃねーか。それを「本当は女と会うんだろ」とか「浮気してるんだ」とか。妄想が得意なのも大概にしろよ。オマケに口が達者なくせに手も早ぇ。怒った瞬間に手が出るとかどこのジャイアンだよお前。銀さんのぷりぷりほっぺが歪んだらどうしてくれんだ。
「本当にロクでもないねぇ」
「本当にお前は慰めるってことをしないねぇ」
「慰めてほしいの?10分1000円になります」
「たけーよ」
「でもさ、彼女さんの文句ももっともじゃないの?私、女だし」
「ごめん、今すごいびっくりした」
「なにに対してだ?あ?女ってことに対してかコラ」
「そのメンチのきりかたとか女と思えないんだけど」
壁の上にある橋から俺を見下ろしてた女は、ダンっという音とともに俺の目の前に降りてきた。どーして階段を使うってことが出来ないのかなお前は。普通の女は5メートルある橋から飛び降りようとは思わないんだよ。スカートはいてたら尚更な!
「堅いこというなよおっさん」
「あのね、俺とお前、幼なじみ。おっさん言うな」
「文章しゃべれよおっさん」
「うるせェ男女」
「ふーん、男女……ね、」
目を細めながらツカツカ俺の方に歩いてきた男女は、腰に手を当ててジロリと俺を見た。怒ってる。
身長は俺の方が高いはずなのに、なんだこの威圧感。つーかいっつもこれくらいの喧嘩するじゃねーか、なに今さら怒ってんだこいつ。
そんなことを考えてたら、カツッと最後の1歩を詰め寄られ、迷うことなく胸ぐらを掴まれた。
「女らしさは"口が達者なくせに手も早ぇ"…だっけ?」
「え?」
「さっき言ってたよね?」
「あ、あれ?ちょ、暴力はんたーい」
「思い知れ」
ニヤリと笑った彼女とは裏腹に、瞬時に目をつむって歯を食いしばった。
「……」
「…、?!」
本日2発目の平手打ちを予期した俺に反し、降ってきたのはなんてことはない、
「…ごち」
「おっま、」
顔を離した途端、ニヤリとにひるに弧を描く唇に釘づけになる俺に、彼女はもう一度触れるだけのキスを落とし、囁いた。
「私は銀時のこと、男としてしか見たことないけどね」
口より身体が動く
(早く気づきなさい)
(早く気づきなさい)
20110413
thank you for embrace