ばか




吉原で潜入捜査?軽い軽い。私を誰だと思ってんですか局長。こんな訳わからない動物園じゃなかった、ゴリラ園、も違うなゴリラ1匹だし、とにかく人類じゃない物体のたまり場でも1人で健気に仕事する女ですよ?襲われる?またまたぁ。襲われたら襲い返せばいいんです。



常々こいつ馬鹿じゃねーのと思い続けてきた女はここでもあっけらかんと馬鹿な台詞と持論を突き通した。
近藤さんも困った顔をして、じゃあお願いしようかなぁなんて言い出す始末。お願いしようかなぁじゃねーやいゴリラ。ついに脳みそまでゴリラ菌に侵されたかゴリラ。



「でもやっぱり心配だから護衛は総悟に頼もうかな」



調子乗ってんじゃねーぞゴリラァアアアア!














***










吉原の潜入捜査を承諾した私の前に現れたのは何故か普段着を身にまとった沖田総悟その人だった。1人で大丈夫ですから余計なことしないでくださいと釘を打ったのにあのゴリラ…。脳みそバナナで出来てんじゃねーの。



「おい、分かってんだろーなァ」

「分かってるわよ、攘夷志士が来たら媚び売ってマンションねだるんでしょ」

「よーし。何一つ分かってねーな!」



ため息をついた沖田は、だからあんたと一緒に仕事するのは嫌なんでィと言って私の頭に拳を押しつけてきた。



「変なことされそうになったら逃げろィ」

「イヤ」

「おま、」

「何のために潜入捜査してるか分かってる?男はにゃんにゃんしてる時が一番無防備だからに決まってんでしょ!」



口にした途端ガラリと変わる沖田の表情



「…お前そこまでやるつもりでこの任務受けたのか」

「……」

「帰れ。そんな任務許さねー。まして女のあんたがそこまで、」

「女だから、出来ることがあるって言ってるんじゃない。女嘗めんじゃないわよ」

「……」

「今日、攘夷志士の一団がここに来ることになってる」

「な、」

「手出しは一切無用よ」

「あんた1人なんて無謀でさァ。むしろ遊び相手が務まるかどうか」

「黙らっしゃい」

「…どうなってもしらねーからな」

「どうにかなったらその時考えましょ」



ニヤリと笑えば、ヤレヤレという表情を見せて沖田は店から出て行った。

もうすぐ夜の見世が始まる。












***









「イヤだわ、旦那」

「ガハハハハ苦しゅうない、近うよれ」



夜も更けた頃に現れた攘夷志士の一団は揃いも揃って図体ばかりデカいチンピラのような奴らだった。下品で横暴で、不潔な奴ばっかり。これと比べたら局長がどんなに清潔に見えることか。帰ったら謝ろう、局長あなたは清潔なゴリラです。



「んん〜お主は良い匂いがするなぁ。どれ、もっと近う寄らんか」

「旦那ったら〜」



本当のことを言えば、吉原の女になりすますなんて馬鹿な真似、やめておけばよかったと思う。いくら女じゃないと潜入できないからって、局長の役に立ちたいからって、



「ガハハハハ、可愛いのう可愛いのう」

「もうーエッチ」



好きな人の前で大見得切ってまでやることじゃない。



「(でも沖田は、いつまでも私のこと半人前にしか見ないし)」


「(いい加減喧嘩ばっかとか飽きたし)」



その時1人の男、さっきから妙なセクハラかましてるリーダー格が私の腕を引いた。



「どれ、隣の部屋へ行くかの」

「と、隣?」

「なんだ、意味が分からんわけではあるまい」

「(いいえ知りません)」

「可愛がってやるからの」

「え、」

「さあ行くぞ」



仕事と腹をくくった割に女々しい思考がイヤになる。こんな時でも思い出すのはあの小憎たらしい笑顔。





「旦那すみやせんねぇ。この女の貞操は俺のモンなんで」

「は?」

「え?」



ドガァアアン

途端、耳をつんざく爆発音と共に部屋中が煙でむせかえった。



「ご用改めでぃ!」



キン、ガキィイイン

煙のせいで見えない情勢。そこかしこに響き渡る刀音。耳を澄ませればどうやら沖田1人で乗り込んできたよう。奇襲にしたってもう少し考えないかな、あのバカ。



「おい娘、お前もグルか?!」



先ほどのリーダー格が狂ったように刀を振り回す。こちらも着物の下に隠してあった短刀で応戦するが、動きづらい着物と慣れない短刀での斬り合いに悪戦苦闘する。



「くっ、」

「許さんぞぉお!」

「許さねぇのはこっちでぃ」



ズバッという音とともに目の前の巨体が倒れた。

その向こうには栗色の髪。



「…大丈夫かぃ」

「……討ち入りなんて聞いてない」

「言ったら嫌だって言うだろ」

「当たり前でしょ!大体なんであんた1人で来るのよ」

「……」



言いよどんだ沖田を尻目に壁に身体を預けた。
さっきから足が震えて仕方ない。ヤバい、泣きそう。駄目だ、泣くな。



「おい、本当に何ともないのか」

「うひゃ、なにして」

「いいからちょっと黙りなせぇ」



ぐいっと腕を引かれて抱き寄せられた。耳に残る息づかいと着物越しに伝わる体温が、安堵と脱力をもたらす。



「あんた、あんまり危ねぇことすんな」

「だって、」




「心臓、止まるかと思った」



泣きそうな顔で笑いながら、小さな小さな声で言った彼に私の涙腺が崩壊した。










(愛しくて泣きそう)










Thanks for tunderera



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