「どうしたんでさ、その格好」
「ん、げ!隊長!」
「……げ、とはなんでィ。俺の顔にマヨネーズでも付いてんのか」
「いえ今日も素晴らしいドS顔です」
「ふん、当たり前でィ」
「(誉めてないんだけど)」
襖を開けた瞬間に音もなく目の前にいた上司を見て、「あ、今日も素敵なドS加減ですね隊長♪」とか言える隊士がいたら是非みて見たい。むしろそいつの爪の垢を煎じて飲ませてほしい。
いつもなら着もしない淡いピンクの着物に身を包んだ今日の私は、どこからどうみても男所帯に混じって剣を振り回してる女には見えないだろう。
それもそのはず。今日は人生初の合同コンパ、略して合コンなのだ。この日のために銀さんを通じて歌舞伎町ナンバーワンホステスと名高いお妙さんにコンタクトを取り、男受けする服装から化粧の仕方までみっちり教えていただいた。(ちなみにテーブルマナーと称してキャバクラの席でのブランド品のねだり方までご教授くださった)
「お前なに教わりに来てんだよ」
「銀さん、合コンは努力次第でいくらでもモテる、言わば実力社会のサル山なんだよ」
「お願いだから日本語喋ろうか。……つーか、いいの?」
「なにが」
「お前が合コンなんざに出かけたら、瞳孔かっぴらいて斬りかかってくる奴がいるんじゃねーの?」
「ははっ誰それ?銀さんだって知ってるでしょ?うちの隊に人並みな思考ができる動物はいません」
「俺おまえの上司が不憫に思えてきた」
「なんでよ」
「とにかく合コンなんか行くなよ。俺が殺される」
「なんでよ」
そんな話をしたのがつい昨日。そして今に至る。
「で?どこ行くって?」
「え、だから合コンに……」
「勝手に発情期迎えてんじゃねーぞ雌豚」
「雌豚?!だいたい発情期なんかじゃ、」
「ふーん、それでいつもは着もしねぇ着物着ちゃって化粧までして?下心が丸見えだぞ雌豚」
「隊長には関係ないじゃないですか」
「関係あるやい。俺の可愛い奴隷……げふげふ、部下だからな」
「取り繕えてませんから。何一つとして取り繕えてませんから!」
腕時計を見やれば既に約束の午後6時まで後5分。
上司の気まぐれに振り回されている場合ではなかった。
「隊長、私本当にもう時間がないんです」
「おーいおい、それじゃあまるで俺がお前を引き留めてるみたいじゃねぇかィ」
「その通りでしょ」
「ちげーよ」
「兎に角行きますからっ!どいてくっだっさっい!」
行く手を阻む目の前の上司の胸を押しながら言えば、ヤダ、激しいわね、とニマニマしだした。
やはりろくな動物がいない。
「なんで邪魔するんですか」
「行って良いなんて誰が言ったんでィ」
「オフの時まで隊長に指図される筋合いありません」
「ははっなにこの生意気な雌豚(笑)」
「うるさいクソ餓鬼」
もう一度、一際強い力で隊長の身体を押せば、今までの抵抗が嘘のようにすんなり身体が後ずさった。いやでも急にそんな力抜かれてもこっちは力一杯押しちゃってるんだけど!
「えう、」
「バーカ」
抱き上げられた……というより首根っこを掴まれた状態で、吊り上げられた。これでもかというほど首に食い込んだ着物によって首が絞まった。
「たいちょ、私今、爪先しか着いてないんですけどえぐふ」
「しるか」
「横暴!」
「お前これからあれな、首輪つけるから」
「意味分かりませんよ」
「奴隷があちこちで発情したら飼い主の俺が困るんでィ」
「部下と上司の間違いですよね。つーかもう取り繕う気もないんですね」
はあ、とため息をついて時計を見れば時すでに遅し。もう6時を10分ほど過ぎていた。やられた。
曖昧ミーマイン
20101231