小さい頃、俺は何にだってなれた。悪の組織と日夜戦うスーパーヒーロー、巨万の富を築く億万長者、世紀を股にかけた大怪盗。
何にだってなれると信じた。何にだってなれると疑わなかった。
しかし現実と言うのは怖いもので、成長と共に俺の可能性を1つずつ奪っていった。空が飛べないと気づいたとき、俺は無敵のスーパーヒーローを諦めた。世の中の不景気を知ったとき、俺は世界に輝く億万長者を諦めた。怪盗が犯罪者として実刑判決を受けると知ったとき、俺は世紀の大怪盗を諦めた。
諦めてひねくれて妥協して。
その繰り返しの集大成が俺というホモサピエンスサピエンス、つまりは日本のカブキ町に住まうしがない万事屋だ。
「お分かりかね諸君」
「すみません真選組ですか?無銭飲食で1人ショッぴいて欲しいんですけど」
持てる限りの最速の速さで電話線を引っこ抜いた。
「おま、なんちゅーことしてんだよ!」
「お前こそ何してんだよ。大人しくショッぴかれろ!」
「はあ?嫌だよふざけんな!ごめんなさいもうしません許してください」
「だが断る」
ひとしきり不毛な言い争いを続けた後、彼女はらちが明かないと言って包丁をぶん投げてきた。俺の生命が終わればらちが明くのか。
ぐうるるるるぅうう
「……」
「……」
「なんで銀時はいつもご飯食べてないの」
「食べる金がないからお前のところ来てんでしょ」
「うちは定食屋であってボランティアじゃないんだけどね」
「お前ボランティア精神の欠片もないもんな」
「あの、もしもし真選組ですか?」
「ごめんなさい!」
いつの間にか繋げられていた電話線を瞬時に引っこ抜いた。
この女とはもう随分と長い付き合いだ。
腐れ縁という言葉を具現化したそのままが俺ら。笑えることに俺の初恋がこいつなんてことも、腐れ縁だからの一言で容易に片付くだろう。こいつが幼馴染みが飢え死にしそうでも飯を分け与えない冷酷な性格で、勝手にプリン食べただけで1週間口きかないやつで、でも料理上手いし何だかんだ言ってもこっそりタダ飯食わせてくれて暇だと言えば文句言いながらも万事屋で一緒にWiiやってくれるような奴だと知っていたら、俺はこいつを好きには………あれ?
「はい」
「え、なに?」
「銀時がお腹空かせてるってことは神楽ちゃんと新八くんもでしょ。3人前作っておいたから早く持って帰りなさい」
「……なあ」
「なに?」
「大好き」
「はいはい、私もよ」
苦笑しながら返ってきた言葉はジリジリと何かを焦がした。
嘘だろ、まさか
「明日またWiiやるの?」
「、おお」
「万事屋そんなに仕事ないの?」
「いや、今は割とある」
「じゃあ明日はやめとこうか。久々に桂とでも遊ぶかなー」
「いやでも忙しくはねーし!」
「え、そうなの?」
「おう、だから来いよ」
「了解ー」
にへって笑った笑顔は昔から変わってない。
ああ、ヤベーなこれ。
「ヤバい死ぬ」
「なによ急に」
「いや、まあ、いつか言うわ」
「はあ?」
ヒーローや億万長者や怪盗なんかにならなくて良いと思ってしまった。
ただお前が隣にいてくれたら。
世界をかえさせておくれよ
(隣にいさせて)
(隣にいさせて)
thank you for 101010