「副長私のしてることは正しいですか」
いつになく神妙な声で聞いてくる女に俺は声をつまらせた。当たり前だろ。そんな些細な言葉1つ出ない。
夕暮れの縁側と言えど日差しが強い立秋の日。女は俺に背を背けまるで表情を悟らせるまいとするかのごとく、俯いて押し黙っていた。長い髪で遮られている横顔からは表情が読み取れない。
女の隣に腰を下ろし、俺はおもむろに口を開いた
「間違ってたって言うのか」
「人を斬りました」
「それがどうした」
「友人を」
「…それがどうした」
人殺しを、だろ
そんな小さな俺の呟きに彼女が小さく息を飲む。泣くかと思いきや、女はグッと堪えたような表情で俺の目を真正面から見た。翡翠色の目が水をいっぱいに貯めて揺らぐ。
「私も彼女を殺しました」
「お前は警察だろ」
「、何が違うんですか」
「…全く違ぇだろ」
「斬りたくありませんでした」
「……」
「真選組として恥ずべきことだとわかってます。でも私は…、」
「じゃあなんで斬った」
「……、」
打ち返した問いに瞳が震えて雫が落ちた。もう一度うつむいた女は、しかし直ぐさま顔を上げた
「死なせたくありません」
「友だちをか」
「違います。仲間を」
もう瞳は揺らがなかった
「友人を斬ることに躊躇した一瞬の隙のせいで近藤さんに怪我を負わせてしまいました」
「らしいな。総悟から聞いた」
「友人が犯罪者だからとかじゃないんです。仲間を守りたくて、傷つけられたくなくて」
「……」
「そのために斬りました」
「…そうか」
「私は──仲間のためなら犯罪をも犯すかもしれません。何度も間違ったことをするかもしれません」
「ああ」
「その時はお願いです。私を殺してください」
「……」
「他の誰が許しても副長だけは許さないでください」
そしたら安心して私は仲間を守れる
強い眼差しでそう言った彼女に、俺はため息をついた。まったく損な役回りだ。
迷わず
いとわず
罪を犯す
(例え全てを敵に回しても)
いとわず
罪を犯す
(例え全てを敵に回しても)
20100818