喧嘩するほどなんとやら




攘夷志士、高杉晋助の仲間




彼の中の私の見解はきっとこんなんだろうと思う。
何度私と高杉が同じ組織に所属してないことを説明しようとしても、その前に彼の刀がコンマ一秒の世界で私の喉元に突きつけられるのだから説明しようもない。ぶっちゃけあんな人間離れしすぎてもはやお前らが天人だろ的な攘夷志士達と一緒にされては困るのだ。私たちは歴とした人類で、人よりちょっと運動神経と生命力が強くて、テロとかも出来ればしたくないんだけどな的な組織なのだ。いわゆる草食系攘夷志士なのだ。


だからさ、困るんだって。




「ただ道端歩いてるだけなのに刀突きつけられてもさぁ」

「うっせぇ黙れ」

「本当の本当に何もしてないんだよ。うちの組織今日自主練日だし」

「部活かよ」




彼が小さく舌打ちし、大きくため息をついたのが聞こえた。


つい数十分前に喉元を脅かしていた鋭い鉄の固まりは今はどこにあるかも分からない。ただ分かるのは隣にいる世間的に見れば敵である幕府のわんちゃんの吐息とそれから




「あったかー」

「あ?」

「や、副長サンの背中あったかい」

「てめ、くっつくな!」

「血が通った人間だったんだ、マジクソびっくり」

「……喧嘩なら買うぞ」



真っ暗な部屋で背中合わせなため見えはしないが、彼の瞳孔は今はんぱなく開かれてること間違いない。縄で縛られて自由の利かない身体でなんとか彼のその顔を見て笑ってやろうと身をよじった。



「おい」

「はいな」

「動くんじゃねーぞテメェ」

「なんでよ」

「いいから動くな」

「何もよくないんだけど。こちとらこれから副長サンの顔見て大笑いして高杉への土産話にするんだから」

「いい度胸だ。ここから出る前にブッタ斬ってやる!」

「あらあら物騒ね。その前にここから出られるんですかね」

「……」

「私はこんなんでも攘夷志士の端くれだから閉じ込められるのも分かるけどさ、」

「……何が言いたい」

「まさか真選組の副長サンまで天人に捕まるなんて」

「だから何が言いたい!」



「クソダッサーイ!」




ギャハハハハと涙が出るほど笑った瞬間、耳の横を生暖かい風とザシュッという身の毛もよだつ音が通りすぎた。違う意味で涙が出た。




「……てか、縄外れ……」

「このくらいすぐ外れるに決まってんだろ。それをお前は動いて邪魔しやがって」

「縄取れたんならさっさと教えてくれればいいのに!そんでさっさと私の縄外してくださいお願いします!」

「なんでだよ」

「大体副長サンが白昼堂々刀なんて振り回すからこちとら応戦するはめになったんだからね。そんなことターミナルでやったら天人に捕まるの当たり前じゃん!」

「いや、違うだろ」

「どう違うんだよ」

「あれは天人がお前に仲間意識を持ってだな」

「へー知らなかった。ナメクジ天人に仲間意識持たれるほどナメクジに似てたんだ私!」

「今さらだろ」

「マジぶっ潰す。真選組ぶっ潰す」

「その前に検挙するからな。テメェの組織潰してやる」

「ちょっと何おおきく振りかぶってんですか。やめてくださいよ某野球漫画じゃないんですから刀にそんな勢いいりませんよ!」

「うっせぇ黙って捕まれ!毎度毎度会う度にちょろちょろ逃げやがって」

「毎度毎度私のこと追っかけてるなんて暇なんですかファンなんですかストーカーなんですか!サインなら事務所を通してください!」

「お前はそろそろ自分が凶悪指名手配犯っつー自覚を持て」

「何言ってんの高杉んとこの地球外生命体組織じゃあるまいし。私らは草食系攘夷志士ですから」

「世間じゃテメーらも立派な地球外生命体組織だよ。やる気がない過激派って言われてんぞ」

「過激なことなんて1つもしてない」

「残念ながら真選組が焚き火してるところに爆竹投げるやつらを穏健派とは呼ばねーんだよ」

「あれ焚き火だったの?キャンプファイアに火が足りないのかと思ってちょっとしたサプライズプレゼントだったんだけど」

「素敵なサプライズだったよ。監査の頭がアフロになるっつーな」

「礼はいらねーよ」

「遠慮するな、たっぷりくれてやる」



ジリジリと迫ってくる敵に、私もズリズリとお尻で引き下がる。

と、

彼が勢いよく刀を振り下ろした。
しかしそんな攻撃をただ傍観してるほど甘っちょろい私ではない。だてに十数年高杉とつるんでないし、攘夷志士もやってない。残念なことにトラブルには慣れっこなのだ。



「ほっ!」


バシュッ!


「あ、テメェ」

「ラッキー!ありがと副長サン」



副長サンの刀に縄だけ当てて体の自由を取り戻した。同時に床を思いっきり蹴飛ばして天井の排気孔にぶら下がる。

後は煙幕はって逃げれば私の勝ちだ
所詮真選組なぞ幕府の狗に過ぎないわ、キョホホホホ





…なんて余裕がいけなかったのだろう。


ガゴン、




「あ、れ?」

「は?」




















***












「ったく、なーんで俺が土方コノヤローの救出に行かなきゃならねぇんでさァ」

「オマケに小町も一緒ってか。どんだけ仲良いんだよあいつら」

「旦那、小町は俺が捕まえるんで手ェ出さねぇでくだせェよ」

「うーん、どうかな」

「捕まえて調教してやるんでィ」

「あいつの幼馴染みとして全力で止めるぞそれは」



カンカンカン



なぎ倒した天人で出来た階段をただひたすらに突き進む。

最後の一人をなぎ倒したところで沖田くんを振り返れば、彼もちょうど敵への攻撃を終え刀を鞘に戻すところだった。



「なんでィ」

「ん?」

「旦那ニヤニヤしてる」

「いやちょっとね」

「気になんだろ」

「いやさ、こんな薄暗いところに閉じ込められてるなんて、案外ヤることヤってんじゃねって」

「……なに馬鹿なこと言ってんでさァ」



あの堅物に限ってそりゃあねぇだろ

そう言った沖田の顔にいつものニクったらしい自信は見当たらなく、心なしか焦っているようにさえ見える。なにお前ら。思春期の青春白書ですかときめきメモリアルですか。おっさんには甘酸っぱくて堪えます。



「おっ、あそこじゃね?」

「……、」



言うが早いかドアへと駆け寄った茶髪の若者は、一旦息を吐いてから扉を開いた。



キィ、




そこに広がっていたのはなんてことはない、




「…いってぇな、」

「土方さんのヘタクソ!ちゃんと受け止めなさいよ」

「ああ!?そもそもオメェが勝手に落ちてきたのが悪いんだろが!俺が受け止められるのは女だけだ、猿は無理」

「女に夢見てんじゃないわよ良い年こいて」

「んだとコラ」

「一生独身ザマァw」

「良い度胸じゃねぇか、犯すぞ」



「何やってんでさぁ」



床に寝転ぶ男の上に股がる女。女の腰には男の手。良からぬことを想像するには十分な要素が揃っていた。


「、そう、ご!?」

「銀!助けに来てくれたの?」

「警察が強姦なんて外聞が悪くていけねぇや。よし、殺ろう」

「ちょ、待て待て!人の話聞け総悟」

「小町、大丈夫か?」

「銀ちゃん怖かったよー」

「嘘つけこのアマ!」

「土方さん逮捕」

「はあ?!」

「俺の幼馴染みに手ェ出すなんて良い度胸じゃねぇか。拷問に処せ!」

「がってんでい」

「ふふ、土方ザマァ」

「お前ら絶対ブッ殺す」








喧嘩するほどなんとやら

(あー土方さんイジんの楽しい!)








20100806


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