箱の中身




イギリスに帰るんです


彼がそう言った時、私の顔はきっとこの世の中で1番のアホ面だったに違いない。




箱の中身





もう昼近くだというのにカーテンを閉め切ったこの部屋は、家で1番日当たりがいいとは思えないほどのジメジメとした空気をかもしだした。理由はカーテンだけではないことなんて明確だけど。日曜日、晴天。普通なら外に出ないのが勿体ない春日和なんだろうけど、私はそんな気分にもなれず少しずれた布団をかぶりなおした。


ブーブーブー


「(こんな時に、誰)」


受信メール:アレン


携帯の画面が映し出した名前に心臓が躍る。見たくないなんて頭の中では考えながらも、身体は正直にボタンを押していた。


From アレン
件名 イギリスの件ですが
本文 出発明後日なんで


From 太子
件名 だからどうした
本文 なし


From アレン
件名 飛行機
本文 12時の便です


From 太子
件名 見送りなんて行かないからね
本文 なし


From アレン
件名 そうですか
本文 お土産はなにがいいですか?


From 太子
件名 せんべい
本文 なし


From アレン
件名 分かりました
本文 なし


From 太子
件名 まじかよ
本文 なし


From アレン
件名 1年後でもよければ
本文 なし


From 太子
件名 じゃあいらない
本文 なし


From アレン
件名 他になにかお願いごとありますか?
本文 明後日までに叶えられることなら何でも聞いてあげますよ


すぐに頭によぎった願いの浅はかさを、携帯をぶん投げることで紛らわせた。じゃあ行かないでよ、なんてどの面下げて言えばいいの。


ブーブーブー

部屋に響いた受信音に身体を揺らす。まだ返信なんてしていないのに。しかし携帯の画面にはしっかりとアレンの3文字が光っていた。


From アレン
件名 なし
本文 一緒に来てよ


なんのことか分からない突然の言葉にしばし呆けた。宛先を間違えたのかと思案している最中にもう1通のメールを知らせる受信音


From アレン
件名 嘘
本文 今のやっぱなし


From 太子
件名 馬鹿じゃん
本文 なし


From アレン
件名 うるさい
本文 お土産とか考えるの面倒なんですよ


From 太子
件名 お土産いらないよ


アレンが帰ってきてくれればいいから
見たこともないこっぱずかしい台詞を打ち込んだ本文は無事に相手方まで送信された。恥ずか死ぬ、そう思いながらもどこか達成感に満ち溢れるのはそれが本心だからなわけで。手元にあった枕に顔を埋めてやりきれない恥ずかしさを発散した。


ピンポーン


「、はい!はいはい、今出まーす」


馬鹿なことをしてぐしゃぐしゃになった髪の毛を右手で撫でながら明るい光がさす玄関まで小走りに進む。火照った顔を悟られないだろうかと玄関わきにある鏡を一瞥すると、アホ毛がたくさんたったいつも通りの私がいた。緩む頬に喝を入れて扉を開いた。


「どちら様ですか〜」

「相手を確認せずに開けるな、って何度言ったら分かるんですか」

「…なんでいんの」


少し息を切らせながら汗を拭ったアレンは、私の質問など素知らぬ顔で続けた。


「飛行機」

「はい?」

「明後日12時だから」

「うん、聞いた」

「準備してくださいよ」

「うん、え?」

「来てください、一緒に」


ポカーンと口を開けて何も返せずにいると、目の前の白髪はポケットから取り出したものを開けて言った。


「一緒になりましょう」









箱の中身
(なにそれ、いつから用意してたの)
(…教えない)
(なにそれ!)










20120429
乃愛さまリクエスト「5年後設定で、大人の色気がありつつも可愛いアレンからプロポーズされる」
1年だし我慢しようと思ったアレン。我慢できなくなちゃってさらっちゃうアレン。5年後はこんな強引さがあってもいいと思う。