同僚の牛のことは嫌いではない。むしろファミリーとして愛してるくらいの勢いだ。しかし毎度毎度仕事の最中や会議の最中にぼむぼむぼむぼむ身体を入れ替えられたらたまったものではない。加えて言えば、沢田さんや獄寺さんの前では入れ替わったことがある私も、実をいえば山本さんの前ではまだ10年後の姿を見せたことがなかった。だからとは言わないが、今回の件は多少あの牛を恨まずにはいれない。なぜなら私は10年前も、さらに言うなら現在でさえ山本さんが苦手なのだ。
「というわけで、未来から来ました」
「まじで」
「はい」
「すげーな、ネコ型ロボットのタイムマシン」
「山本さん相変わらずランボのバズーカ理解してないんですね」
「それで何年前からきたの?1億2千年前?」
「未来って言いましたけど」
「1億2千年も未来かよ!そりゃすげーや」
「ほんとにな」
興奮しているところ申し訳ないのですがたった10年後から来ました。
正直に言うと山本さんは見るからにテンションを下げて残念そうな顔をした。どうして私が謝らなければならない気持ちになるのかは分からないが、彼のテンションを下げてしまったことは確かなのでもう1度謝っておいた。どうしてだろう、私はただ巻き込まれただけなのに。
「でもさ、10年後って言っても今より技術はすすんでんだろ?」
「まあ、それなりには」
「も、もしかしてもう宇宙戦争始まってる?」
「始まりません。某ロボットアニメの見過ぎです」
「じゃあ荒廃が進み過ぎた地球に人間が住めなくなってるとか…」
「今日も元気に地球に住んでます」
「…気温上昇と砂漠化の急激な浸食による地下都市形成は?」
「残念ながら車もしばらく空を走る予定もなさそうです」
「あー…そう…そうなんだ。なんかアホみたいに1人で盛り上がってごめん」
「こちらこそ期待を裏切ったようですみません」
だから苦手なんだよ山本さん、と心の中で一人ごちて制限時刻をただ待った。今日は5分間がやけに長い。私から話すことも特にないので無言で自分の足元を見ていると山本さんの影が映った。相変わらず背ぇ高いなこの人。
「山本さん」
「ん?」
「宇宙戦争も地球脱出も地下移住も起こらなかった10年後ですが、少なくとも1つ変わったことがありますよ」
「へー、なんだ?」
「山本さんの身長が今より少しだけ伸びて、今より少しだけ格好よくなりました」
「……」
「よかったですね」
「…おう!」
嬉しいときにニカッと笑う癖は10年後も変わっていない。それを山本さんに伝えると、じゃあ俺も10年後も変わっていないだろうことを1つ教えてやるよと手招きされた。
「なんですか?」
「もっとこっちおいで」
「?…え、わ!」
グイッと肩を引き寄せられた先で待っていたのは軽快なリップ音。突然のことで目を見開いたままの私の視界にニヤリと笑う山本さんが映った。
「…未来のヘタレな俺によろしく、太子」
「…そうします」
10年前のラブレター
(10年後も何も変わってないとか)
(どんだけヘタレなんだよ俺)
20120427
杏莉さまリクエスト「復活の夢小説」
山本さんがヘタレだったら萌えるっていう、それだけの話。