「どういう関係?」
そう聞かれた事はこの高校生活で数えきれないほど。お互いどう答えるのかといえば、その答えはいたってシンプル。
「仲の良いの友達」
だって本当の事だし。ウソをつくわけでもなく答えているのに、相手の反応は決まってこう。
「ウソでしょ」
10人が10人これだとこちらもさすがにいい気分にはならないもので。噂を流されるのも癪だけど、ウソつき呼ばわりはもっと癪なので否定を諦めてから早数か月。俺らの関係は一つも変わってはいないのに、周囲の噂には尾ひれと背びれが100枚くらいついていた。
そんなことを彼女が知ってか知らずか、俺らが会う場所は校外から家の中に徐々に移っていくようになり、今日も例にもれず俺の家。家に来たって小学生の遊びに毛が生えたようなことくらいしかしてないなんて、みんなは知らないんだろうけど。
カシカシ
ピコピコ
「……」
「……」
カシカシ
ピコンタラララッタラ〜
「お、やった」
「やり、レベル上がった」
カシカシ
ピコン
「そういや今日さ、」
「うん?」
「少年にすれ違いざまに"ニフラム"って言われたんだけど、どういう意味?」
「はは、」
「何その乾いた笑い。どうせ笑うならもっと腹から笑えよ」
「ニフラムは某クエストゲームで敵を消し去る呪文です。 ようするに『消えろ』って事だね」
「穏やかじゃねーな」
「しかも経験値が入らないので、『貴様の経験値すらいらね』と言う事です」
「悪意に満ちてるな」
「きわめつけに自分よりレベルの低い相手にしか効果がないです」
「一言のくせに破壊的な嫌味だな」
「アレンに何したの、ティキ」
何もしてねーよと答えた俺を、意味ありげな含み笑いで一瞥した彼女は、再びゲーム画面に目をそらした。
いや、本当に俺は何もしてねーよ?太子に淡い片思いしてる少年が俺らのどんな噂を聞いたのかはしらねーけど。
「お前さ、」
「うん」
「好きなやつとかいねーの?」
「武闘家」
「ゲームの話してんじゃねぇよ」
「4人パーティだったら絶対はずせないよね。戦士も捨てがたいけど」
「…あっそ」
そういやこいつにこんな話するの初めてだったなと思いながら、帰ってきた返答の実のなさにやるせない思いになる。
「ティキは?」
「え?」
「ティキは好きな子いないの?」
「んー、踊り子?」
「ちょっとは現実に目を向けなよ」
「その言葉そっくりそのままお前に返すぞ」
ゲーム画面から目を離さずに言い放った俺の耳に、彼女の笑い声だけが聞こえた。
どんな表情してるかとか、見なくても分かってしまうあたり、どんだけ長く一緒にいたのかを改めて実感させられる。
「私らはなんていうかアレだね、子供だね」
「…だな」
「噂では大人の階段3歩飛ばしで駆け上がってるのに」
「根も葉もないとはこのことだな」
「全くですね」
「でもよ」
「うん」
「俺はいいとしてお前は困るだろ」
「…なんで?」
「いや」
思わず口から出た本音に、自分自身も戸惑ってしまった。後に続く言葉なんて考えているわけがないから、聞かれても困ってしまう。
ずっと思っていた。俺が良くてもきっとお前には、迷惑だろうって。
なんでかって聞かれたら、そんなの理由は簡単で。
「ねぇ、なんで?」
「あ、おま、なにポーズ押してんだよ」
「そうでもしなきゃ、」
ティキは逃げるじゃない
小さく開いた口が、意気地なし、と動いた。
「私は、困らない」
「……」
「困らないよ、ティキのこと大事だもん」
「…俺もお前の事大事だよ」
「この先どんなに良い人が出来ても、恋人が出来ても、ティキが一番だよ」
「…うん」
「だから、」
まっすぐに、俺の顔を見ながら彼女は言う。
「だから、私から離れないでよ」
寂しいじゃない。
泣きそうだった顔はもう泣き顔に変わっていて。
噂が流れてから一緒に登校しなくなった通学路とか、別々に食べるようになった昼飯とか。
なんだ、噂に過敏に反応してたのって俺の方だったのか。でも俺だって、俺だってさ。
「俺だって、寂しかったよ」
いつの間にか溢れた言葉に、涙が出そうになった。涙でぐしゃぐしゃの彼女の手を取って、重ねた。
「ずっと隣にいて」
未満の、
(スキとか、アイシテルとか、)
(そんなんじゃ伝えきれない)
20130531
もきち様リクエスト「ゲームとかしながらイチャイチャしてるティキ」
恋愛未満の2人で、大事すぎて遠ざけてしまう話