FALL





「合コンで男を落とす方法?そんなの簡単よ」


彼女が鼻で笑いながらそう言うものだから、じゃあ見せてみろよと酒で酔った勢い任せに喧嘩を買った。なんでその勢いに任せて「俺はお前のこと好きだからそういうことしないで」とかそういうセリフが出てこないものかと頭を悩ませながら雪の積もった坂道をひたすら歩く。いつもの悪い癖で早歩きになっていた俺が気づいた時には彼女は5メートルほど後ろから必死に俺を追いかけてきていた。その姿に実家のパグを思い出したのは秘密である。いつの間にか夜景が綺麗だとか某うさんくさい地元ローカルのバラエティーが言っていた丘につき、気恥ずかしさのせいからそのまま歩き続けようとする俺のコートを彼女が引っ張った。


「わ〜、きらきらしてるぅ」


ドン引きである。体内に入っていたアルコール分をすべて飛ばす勢いで、ドン引きである。そもそもその手口というのは彼女の素を知らない人間にこそ有効な手段であり、間違っても彼女の1から10とは言わないまでも8くらいは知ってしまっている俺には逆効果でしかない。女のぶりっ子の怖さを体感しながら「まあ、星だからね。キラキラするよね」と答えた俺に、彼女は一瞬真顔になって舌打ちをした。演じるなら最後まで演じて欲しいと切に願った。


「ねぇねぇ、あのお星さまとってぇ」


強引に続けた。まさかのゴーイングマイウェイである。こちらがドン引きかつ、彼女も一瞬とはいえ素に戻ったくせにまだ続ける意欲はあるらしい。思えば小さい頃から負けず嫌いで、勝負はどんなことをしてでも勝てばいいと信じて疑わなかった彼女らしいやり方である。今回も俺が折れるまで続ける気なのだろう。そんなのはごめんである。別に俺は可愛い子ぶった彼女が好きなわけでもないし、今更落ちるつもりもない。なんてったって俺はもうこいつ以外が見えてはいないのだから。初めから勝負などあるようでなかったのである。もう言ってしまおう。素直にこの気持ちを吐露してしまおう。その方が、彼女が合コンに行くたびに疼く痛みに比べればましである。


「星とってやろうか?」


彼女は黙って頷いた。中くらいの崖があるために設置された柵に足をかけて身を乗り出す。「ほら、取れたさ」なんて、手の中には彼女が昔から好きなため常備している金平糖をセッティングして振り返る。

…いない。

途端に身体が宙に浮く感覚を感じ足元を見ると、彼女が俺の両足を抱えてにやりと笑った。


「大丈夫、下、雪だから」


グッドラックと良い笑顔で親指を立てた彼女の頭に渾身の力で拳骨を落とした。










FALL

(落とすってそっちじゃねぇ)















20130208
菊さまリクエスト「ラビとのバカらしいやり取りだが愛がある」
どこらへんに愛があるのかっていうと、下に雪があるあたりだよね!