コンビニ
「温めますか?」
びっくりした。何にびっくりしたかって彼女の言葉にだ。アタタメマスカ?あたためますか?温めますか?って言っちゃったよこの子。俺が買ったのソーダのアイスよ?深夜のコンビニバイトで疲れているのはお察しするが、なんていうかさー、こうさー、もっと真心を込めて接客してくださいよ。
そんなことをほんの2秒間の間に考えた俺は、特に気にしてませんけど?というスタンスを崩さずに彼女に言った。
「結構です」
「なんでですか?」
「え?」
まさか返ってくるとは思わなかった質問にまたびっくりした。
今日は驚いてばかりで俺の小心者の心臓は大丈夫だろうかと胸のあたりを少しさする。前に妹分である緑のあの子に膝かっくんを食らわされた時なんて、30分くらい心音がスピーカー音量大で鳴り響いていた。そのくらい小心者の俺の心臓だから、今回の些細(なのだろうか?)な事件にもびくびくしていることは言うまでもない。
「いや、あの、」
「私の後ろにある電子レンジが頼りないからですか?」
「違います」
「大丈夫ですよ。ちょっとさっき生卵温めて爆発させちゃったけど、動きますから」
「いや、そうじゃなくて…。というか何やってんですか」
「温めましょうよ。こんな世の中だからこそ」
「温めませんってば。世の中とか関係ないですから」
「そんな悲しいこと言わないでください。社会の輪から外れた冴えないニートでも、温める権利はあるんですよ?」
「君俺のこと馬鹿にしてるよね」
「まさか!」
「…そう」
「馬鹿になんてしていません。冴えないニートだとは思ってますが」
「それが馬鹿にしてるっていうんだよ」
小腹の足しになるものを求めてコンビニまで来てみただけだというのに、なんということだろう。コンビニに伏兵がいた。いやむしろ魔王か。ラスボスか。この後もやらなくてはならない仕事が鬼のように溜まっていることを考えると、ここでのタイムロスが首を絞めるだろうことは確実だ。そもそも今、俺はこの子の暇つぶしの材料にされているだけなのだろう。そんなことで俺の貴重な時間を使うのはたまったものではない。暇なのは分かるけど働けよアルバイト、と心の中で呟いてからコンビニ袋を手に取った。
「じゃ、ちょっと急いでるんで」
「いってらっしゃいませ。お帰りは何時ですか?」
「セリフ間違えてるよね?ここはメイド喫茶か何か?」
「帰ってこないんですか?」
「むしろ今からお家に帰るんですよ」
「仕方ないですね、一緒に帰ってあげますよ」
「何が仕方ないの?何も仕方なくないよ」
「後10分で上がるんで」
「現実味帯びちゃったよ」
「待っててくださいね、カイトさん」
「待っててって…ん?」
何かシフト票のようなものに印をつけ始めた彼女は、俺が訝しげな眼で見ていることに気付いたのか、意地の悪そうな顔で笑った。
「待っててくださいね、アパートの隣にお住まいのカイトさん?」
コンビニ
(どうして気づかないの)
20130201
バナジウム様リクエストで「ボカロのKAITO」
ボカロ初めて書いたら無意識に現パロになっていた件
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