はいとYES




「パパ、パパはどうしてママとけっこんしようとおもったの?」


5歳になった愛娘がキラキラした瞳で突然何の脈略もなく尋ねてきたのでどうしたのかと思えば、なんてことはない。テレビ画面が結婚式の花嫁を映していた。その幸せそうな様子に7年前の自分を重ね合わせながら、娘の頭を撫でまわしてその柔らかい身体を抱き上げた。可愛らしいことを天真爛漫に尋ねてくる娘に応えない理由がない。尚も頭をなでる手を休めないままで、真実をありのままに伝えた。


「脅されたからだよ」

「おど…?」

「7年前の今日、パパはママに脅されたんさ。結婚してくれなきゃ地球滅ぼすぞって」

「ほろ…?」

「ママはなー、昔はとってもヤンチャな暗殺者だったんさ。パパは何回も毒薬盛られて死にかけたんだぞー」

「へぇ〜」

「浮気なんかしてないって言ってんのに、女の子と話せばやれ死刑だの、去勢だの、本当に物騒だったんさ」

「ママ、すごいね」

「ああ、すごい鬼嫁なんさ」

「おに!」

「よぉく覚えておくんだぞ。結婚は人生の墓場だ」

「はかば!」

「可愛い外見に騙されて血迷ったが最後、あとは鬼の奴隷になるしかないんさ」

「どれい!」


だからママには逆らっちゃ駄目なんだぞ。
指切り拳万の指を作って娘に差し出すと、まだよく理解できないという顔をしながらも、素直にその小さな小指を俺のそれに絡めてきた。俺は満面の笑みで指切り拳万の歌を歌って娘をあやす。背後に近づく気配にすら気づかぬまま。

ゆびきりげんまんママにさからったらはりせんぼんのまされる、ゆびきった!


「…あら」

「…!」

「あ!ママ!」


血の気がひく、というのは言葉としては分かりやすいが、こんなにも文字通り体感するのは初めてだった。血の気だけではない。自分の背後の温度が引いていくのさえ手に取るように感じた。


「楽しそうな話してるわね?ママも交ぜて?」

「あああああの太子さん、今のはちょっとした言い間違えで、」

「パパはね、おによめさんのどれいなんだって!おどされたんだって!かわいそうだね!」

「あらあらまあまあ」

「太子さん!」

「ママ、パパをたすけてあげて!」

「もちろんよ。パパはママの大事な人だもの。パパが苦しむ姿なんて見たくないわ今すぐ楽にしてあげましょう」


言うが早いか仕事道具を手にした俺の奥さん、職業殺し屋。そのキラリと光る指紋ひとつないナイフが彼女がどれだけ優秀な暗殺者かを物語っていた。


「パパ、ママがたすけてくれるって!よかったね!」

「なんも良くねえさ!」

「そうだ、ママにこれからまもってもらえるようにゆびきりしなよ、パパ!」

「何言ってんのこの子?何言っちゃってんの?ねぇ!」

「あら、それはいい考え。指切りしましょう?ラビ」


にっこり笑って指先で踊らせていたナイフを差し出す彼女は俺の奥さん、職業殺し屋。世界一怖い、鬼嫁。


「お返事は?」







はいとYESの二択

(指切り拳万)















20130107
さこ様リクエスト「結婚してて子供がいる、ラビのギャグ甘」
たじたじしてるラビ書こうとしたら手が滑って甘さが落っこちました。