からくり時計
「質問です、腕時計とは何ですか」
「どうした」
「ただの質問ですよ」
「腕時計とは、ベルトによって腕に装着することができる小型の携帯用時計のことだけど頭大丈夫か?」
「…質問の仕方を変えますね。神田にとって腕時計とはどんな存在ですか」
「時計だな」
「そうなんですけど、そうじゃねぇ」
「はあ?」
ご飯を食べる手を止めて目の前のエクソシストはやっと顔を上げた。
「時計って仕事をする人にとって大事なものですよね」
「そうだな」
「じゃあ神田にとって時計はどんな存在ですか」
「…なに企んでんだ」
「何も」
「お前がその顔をするときはロクでもないことに決まってる」
「彼女を信用できないんですか」
「信用できる彼女になってくれよ。お前俺が任務でいない間にまたウサギとモヤシとつるんでたらしいじゃねぇか」
「それは誤解です」
「ほう」
「神田の任務がない時でも毎日つるんでます」
「お前俺に信用される気ないだろ」
それも誤解ですよ、と口に出さずに心でこぼす。誰も必要としない、頼ろうとしない君に束縛されるのが嬉しくて、などと誰が言えようか。
「それで、質問の答えは」
「なくても困らない、だな」
「…ふーん」
「お前はなんて答えたんだよ」
「ないと困る、ですね」
「そういやお前いつもしてたな、腕時計」
「神田はしてませんよね」
「戦闘で邪魔になるものなんざわざわざしねーよ」
「エクソシストと科学班とじゃ、この質問の意図はいささか変わってくるかもしれませんね」
自身の腕に巻かれた時計をなでながら言うと、彼も不思議そうに私の腕に光る黒い刻印に目をやった。
「それで」
「はい?」
「質問の意図は何だったんだよ」
「…時計って大事だねって話ですけど」
「はあ?本当に聞いただけかよ」
「最初からそう言ってるじゃないですか」
嘘。これ本当は心理ゲームなんです。その言葉はそのまま貴方にとっての恋人の存在を表すんです。面白いでしょ。
なんて、貴方が私の望む答えを出してくれたなら言おうと思ってたけど。でも、
「(なくても困らない、じゃあね、)」
あまりにも私の答えが不憫すぎて。
気が付いたら腕時計を握る手に力が入り、勝手に口を開いてた。
「じゃあ神田は時間を知りたいときにはどうするんですか?困るでしょう」
「困らねーよ」
「私だったら困ります」
「俺は困ってねーもん」
「もし時間が分からないとどうしても困るときにどこにも時計がなくて、周りに誰もいなかったら?」
「ありえないだろ」
「もしもの話ですよ」
「ありえないって。つーか聞きたいときはお前がいるし」
「……」
「なに笑ってんの」
「いや、なんでも」
からくり時計
(ズルい、ズルい)
20120727
那智さまリクエスト「神田さんで甘いの」
神田は素でタラシっぽいよね、というお話。「(時間)聞きたいときはお前がいるし」はヒロインちゃんが自分の隣にずっといることを信じて疑わないジャイアニズムからくる天然もののデレだと嬉しい。
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