「また懲りずに化粧なんてしてきたんですか。馬鹿ですね」
待ち合わせ場所についた途端、呆れたとでも言いたげにアレンが目の前の女友達に言い放った。挑発的なアレンの態度に彼女は少し眉根を下げて悲しそうに笑う。
「おはようアレン。馬鹿はお前だ」
否、彼女も喧嘩を買う気満々らしい。
天気は良好、日差しは強いくらいの真夏日だ。ピンクのTシャツにジーンズのスカート、サンダルを合わせて黒いハットをかぶる彼女は、知り合いでなければナンパしたいほど可愛い。つまり今日の彼女は文句のつけようがないほど完璧だと言えよう。化粧だって彼女の可愛さを際立てるのにちょうどいい程度のナチュラルメイクだ。俺にはクラスメートの厳しい目の理由が理解できないでいた。
「お前ら朝から喧嘩すんなさー。今日は楽しく買い物に行く日だろ?」
「楽しい買い物?血で血を洗う戦争の間違いでしょう」
「そうだよラビ、遊びに来たんじゃないんだからね!」
「俺は遊びに来たんだけど」
「さあ手始めにどこに行きましょうか。あ、太子は今すぐ水道で顔を洗ってきてくださいね。その顔で歩き回るなんて環境汚染もいいところだ」
「アレンも今すぐ髪の毛黒く染めなおしてきた方がいいよ。電車に乗って席を代わろうか迷う親切な人が可哀想だ」
「あーもー、お前らは本当に……そんで、どこに行くんさ」
「お腹がすきました」
「アレンは1人で食べ放題行くってさ。私たちは2人でデートでもしようかラビ」
「はは、なにそれお前、俺が殺されるだろ」
なんでよ、と眉をひそめるこいつは本当に何も分かってない。俺の足元に乗っかる黒い革の靴が何よりの証拠だということに気づきもしない。
「僕も行きます」
「アレン、洋服屋さんでご飯は食べれないんだよ」
「知ってますよ。君こそ洋服を選ぶ前に化粧を落としてきなさい。公害だと何度言ったらわかるんです」
「ラビ!こいつ私たちの買い物に割って入ってきたくせに生意気だよ!」
「ラビ!なんでこの女はこうもむかつくんですか!化粧も可愛くない!」
「いいから落ち着けよ」
「私はラビに洋服を見立ててほしいって頼んだんだよ。なんでこいつまで…」
「僕だってこんな厚化粧が来るって知ってたら来ませんでした」
「まあまあ、一緒に行こうさー。アレンも買い物したいっていうから今日は3人で出かけることにしたんだし」
「買い物なら1人で行きなさいよ、女々しいわね」
「太子は1人で渋谷でナンパ待ちするそうですよ。僕らは2人で原宿に行きましょう」
「だから落ち着けよ」
弱冠頭痛を訴え始めた頭を振って、2人をひきずるようにショッピングへと旅だった。
「太子、君にそっくりの人形を見つけましたよ」
「あら素敵なゾンビ!お前もゾンビにしてやろうか」
「ほら、その顔とかそっくりですよ。並べて写メりましょう」
「ちょっと、このナチュラルメイクのどこがゾンビだっていうの?」
「ナチュラルとかどの顔が言うんですか。化粧してくるなって言いませんでしたっけ」
今すぐにでも店から放り出したい。周囲の視線は今や迷惑なものを見る目から好奇なものを見る目に変わった。あの子たち三角関係かしら、可愛いわね、だなんてイケずなお姉さま方の言葉が頭に刺さるのに耐えて、口を開く。
「お前らもういい加減に、」
「普段からそうですよ。学校でもぬりぬりぬりぬり、どこぞの厚化粧に憧れた小学生のごとく塗りたくりやがって。塗装工事ですか?突貫工事ですか?」
「ちょ、アレン言いすぎだぞ。あと言い回しちょっとうまいぞ」
「突然変異とかいう下手な嘘ついて白髪で通すアレンに言われたくないよ!私見ちゃったんだからね。昔のアレン茶髪じゃん!」
「太子、そこはそっとしておいてやるんだ。きっと黒がつく方の歴史だから」
「僕のは嘘じゃありませんよ。君の嘘で固められた顔面と違ってね」
「なによ、アレンは私の顔自体嫌いなんだから化粧なんて関係ないでしょ」
「違いますよ。僕は化粧なんかしなくても君は十分可愛いって言っ、あ……」
「え…、」
「なんさこの茶番」
茶番劇場
(俺席を外しましょうか)
(ままま、待ってよラビ!)
(この状況で2人にしないでください!)
(俺を1人にしてください)
20120805
藤咲さまリクエスト「ツンツンなアレン。最後にデレっとする」
何が可哀想ってラビのポジションですよ