「私ごと斬って」
吐き出されたその言葉はあまりにも冷酷で、あまりにも残酷な答えだった。躊躇する俺の心を見抜いてか、囚われた仲間はもう1度その言葉を口にする。
「私ごと斬るのよ、ティキ」
「太子…」
「お願い」
「俺には…できない」
「できるわ、あなたならきっと」
微かに震えたその声を押しとどめる様に、仲間は目を閉じる。だいじょうぶ、と動いた唇は噛みしめるように閉じられた。
「だそうだ、ノア。俺を殺したかったらこいつごと斬るこったな」
「クロス・マリアン…!」
「おーおー、そんな怖い目で睨まないでくれよ。お前が俺たちを殺すのが宿命のように、俺もお前たちを殺すためにここにいるんだ」
仕方のないことだろう?
咥えた煙草から煙を吐き出しながら、その男は腕に力を込める。苦しそうに響いた女の声に愉悦の表情をもらして俺を見据える男のその一動挙手に反吐が出た。
「殺す!」
「ああ、お前の仲間を道連れにしてか?随分非情な奴なんだな」
「ティキ、惑わされちゃ駄目。私は大丈夫だから」
「お前を殺して仲間は助ける」
「俺がそれをさせるとでも?必要とあればいつでもこの女を殺せるんだぞ」
「う、ぐ!」
「太子!」
「おーおー、仲良きことは美しき哉。お前らそういう関係か」
「そういう、関係…?」
「こいつお前の女なんだろ」
痛ぶりがいのあることしてくれるじゃねぇか
更に笑みを深めた男に、女の顔が歪んだ。そして吐き出すように凛とした声が空を裂く。
「冗談はやめてください」
「あ?」
「え?」
「私とこいつがそういう関係とか、うすら寒い冗談はやめてくださいと言ったんです」
「……」
「あの、太子、さん?」
「良く見てください似非神父さん。私とあいつが釣り合いますか?天照大神の生まれ変わりたる存在自体が麗しい私と、ただのガングロわかめが釣り合いますか?ねぇ釣り合うんですか」
「いや……」
「ね、釣り合わないでしょう?釣り合うわけないんですよだって私可愛いから」
「……」
「だって私可愛いから」
「2回も言わなくていい」
神父の仲裁をよそに彼女の猛攻がやむことはなかった。たじろぎ気味の神父の手には戦意をなくしたとも取れる黒い武器。チャンスは今しかなかった。彼女が作った千載一遇のチャンスだ。これをおいて他に彼女を救う道はきっとない。しかし…
「ほら見てくださいよあのアホ面。私が私を囮に使うことを許可してるというのにこの体たらく。甲斐性なしとはこのことを言うんですよ神父さん。それに比べて私の輝かんばかりのこの美貌をみてください。貴方は私に触れられることに感謝するべきですよ神父さん。もちろん神なんかじゃなくて私にね!」
「あのさ」
「なんですか。私が可愛いですか?知ってます」
「お前の仲間が泣いてるぞ」
人質
(俺なんでこいつのために命張ろうと思ったんだろう)
20120627
家鴨さまリクエストで「ティキ夢」
仲間意識の高いティキさんと自分が地上の神と思ってるヒロインさん