同族嫌悪




しくったと思った時にはもう遅かった。暗闇の中現れたのは十数人の攘夷浪士とおぼしき輩。普段ならあり得ないことなのだが戦闘態勢に入った時にはすでに相手方の1発を浴びていた。攘夷浪士の分際で遠方射撃の名人を連れてるなんざぁいい度胸じゃねぇのと睨みを利かせたは良いものの、銃弾が入った足を引きずったままの戦闘は思ったより苛烈を極めた。なんとか相手を下し、刀傷で赤黒く染まった身体を引きずりながら河原へ出たときにはもうすでに、通りには人影すら見えないほどの深夜の暗闇が空を覆っていた。

何とかして屯所まで帰らなくては。追っ手に見つかれば今度こそ命を取られる。

そんなことを冷静に考えていたその時だった。衣擦れの音とともに俺の顔を覗き込んだ黒い影。思わず手にしていた刀を渾身の力を込めてふるうと、ひゃあ、というなんとも気の抜けた女の悲鳴が響いた。


「は、誰でさァ」

「危ない、超危ない。まさか動くなんて思わなかった…!」

「…あんた」

「あれ、なんだ沖田さんじゃないですか。こんにちは、さようなら」

「おい待てよ」


天はどうやら俺を見放していなかったらしい。そそくさと退場を決め込んだ女の手をグワシと掴むと、勘弁してください私はなにも見ていませんと小さな抵抗が返ってきた。おい何目ぇつぶってんだテメェ。
こちらの意地と命にもかかってくるので手を握ったまま両者譲らずの攻防を続けていると、不意に女が大声を上げた。


「助けてください!血みどろの警察官が襲ってきます」

「お前が俺を助けなせィ。死にそうなんだけどマジで死にそうなんだけど」

「どうぞお構いなく。死に水は取りますよ」

「生かす方向で考えてくれねーかィ」

「でもこの症状ってあれですよね、虫の息ですよね。もう助かる見込みはないじゃないですかアーメン」

「拝むんじゃねえ」

「ご安心を、真選組の皆さんには天寿を全うされたと伝えておきます」

「お前俺を助ける気1ミリもねぇだろィ」

「誤解ですよ、私は沖田さんだけでなく人命を助ける気がないんです」

「尚のこと悪いわ」


手を振り払おうと必死にねじる女の身体を、羽交い絞めにするような形で抑え込む。ひぎゃあ、と何とも女らしからぬ声をあげた女は、それでも抵抗をやめることはなかった。怪我による力の半減からかこの女の馬鹿力のせいか、一向に事態が好転することはなく時間だけが刻一刻と過ぎて行く。


「ちょ、離してください。私には旦那と夫がいるんです困ります」

「離さねぇよマイハニー」

「冗談はその地獄に半分足ツッコミかけてる状況だけにしてくださいよポリスマン」

「生きて帰ったら覚悟しておきなせェ」

「しぶといですね沖田さん、そろそろ来世のことを考えましょうよ」

「てめぇ…」


止まることなくシャアシャアと吐き出されるその悪意しか持たない罵詈雑言の応酬は、どこかの誰かを彷彿させてやまない。誰だっけ、誰かに似てる。


「っていうかいつまで私に抱きついてるつもりですか。うっかり真選組に通報しちゃいますよ」

「むしろしてくれよ」

「ちょっと、なに息荒くしてるんですか。発情ですか発情期ですか。ドSの国の発情王子ですか」

「うるせ、…貧血だ、バカ」

「ドバドバ景気よく垂れ流すからですよ」

「……う、」

「…沖田さん?」

「……」


心配したような、焦ったような。そんな声色から女の顔が見えなくとも容易に想像できた。きっと真っ青になって慌ててるはずだ。ざまぁみろ。


「南無」

「……」


否、殺す気満々だった。こいつもドSの国の住人だということを失念していた。
突っ込む気すら起きない意識のはざまで頭に浮かんだのは、同族嫌悪の4字。

そうだ、こいつは俺に似ている











同族嫌悪

(俺死ぬかも)











201206023
室井さまリクエストで「銀魂で沖田さん」
沖田隊長と顔見知りの町娘ヒロイン。この後ヒロインちゃんは意識を失った隊長をちゃんと屯所まで運んであげます。そして土方さんにあることないこと吹き込みます。