目覚まし




嫌に耳につく甲高い声に目が覚めたのはお昼休みが始まって10分くらいしたころだった。先ほどまでは五月蠅いながらも心地よい雑音として眠りの補助をつとめていたZ組の教室内だったが、それはたった1人の生徒の登校という形をもって終止符が打たれた。

沖田総悟。
甘いマスクにドSの星の王子というなんともけしからん来歴を持つその人である。

私の隣の席にドカリと荷物を置き、かったりぃとでも言いたげに大きな欠伸をした彼に、またもや教室の外から彼を眺めていた女生徒たちの奇声が上がった。なんでだよ欠伸しただけだろ。ガンを付けるようにその行動1つ1つを目の端で睨みつけていると、本人もさすがに気が付いたのか私と女達を交互にみてから申し訳なさそうな顔をして言った。


「妬くなよ雌豚」

「頭大丈夫か沖田」

「俺の彼女ツンデレだなー」

「頭大丈夫か沖田」


きっとどこかにぶつけておかしくなってしまったのだろう沖田の蜂蜜色の頭を可哀想なものを見る目で見つめることしかできなかった。


「?なんでィ」

「いや、なんでィじゃなくて五月蠅いんだけどアレ。止めてきてよ」

「そんな目覚まし時計みたいに言われても」

「目覚まし時計は人のために働くけどね」

「分かった分かった。お前が一番だから」

「会話しよう沖田」

「身体と身体のボディーランゲージなら得意分野でさァ」

「聞いてねーよ」


不敵な笑みを浮かべた沖田に、またしても悲鳴に近い甲高い声が上がった。だから、なんで。この女達はきっと沖田が鼻をほじったとしても喜ぶのだろう。脳内フィルター恐るべし。


「そんなに嫌なんですかぃ、あの女達」

「女の子じゃなくてあの声が嫌なの。昼休みは私の大事なお昼寝タイムなのに」

「ふーん」

「こんなことなら屋上行こうかなー。どうせ高杉が鍵開けてるだろうし」

「高杉…?」

「ああ、あいつふける時は大抵屋上にいるんだよ」


知らなかった?と沖田の顔を見やるとそこにはなんとも言えない神妙な面持ちの奴がいた。良く屋上に行くんですかィと聞かれ別段渋る理由もないので、まあ教室が五月蠅い時にはねと簡潔に述べれば、神妙な面持ちがさらに渋い顔へと発展した。


「どうしたの」

「教室が五月蠅くなけりゃ、屋上には行かないんだよなァ」

「まあ、五月蠅くなければ」

「じゃあちょっと協力しろ、太子」


本当に一瞬だった。
沖田が私の名前を呼び、それに応え振り向く。たったそれだけの動作の間に起こった出来事が私には理解できなかった。理解できようはずもない。
私の唇に無遠慮に押し付けられたそれは、数秒のうちにまた元の位置に戻って微笑みを浮かべた。そんな。馬鹿な。教室は静寂で満たされ、そのことに満足したのか彼はますます笑みを深めた。


「ほら、やみましたぜィ?」


次の瞬間、その言葉に触発されたようにクラスの女子たちの悲鳴にも似た叫び声が教室中に響き渡った。


「あれまあ。余計に五月蠅くなりやがった」

「あんた、何考えて、」

「でも今は外に出ない方がいいですぜ。女の恨みは怖いからねィ」

「誰のせいよ!」

「ん、俺のせい」


顔を上げるとそこには見たこともないような表情の沖田。その顔があんまりにも嬉しそうで、下手したら泣いちゃいそうで。言ってやりたいことはたくさんあったはずなのに、何故かそれ以上の言葉が見つからなかった。


「…ドSが打たれ弱いって本当なんだ」

「なんでィ」

「こっちの話」










目覚ましの止め方

(高杉と一緒にいさせてたまるかよ)













201200706
愛花さまリクエストで「沖田隊長お相手でギャグギャグしい甘夢」