「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいました」
「なんだお前か」
「こんにちはラビ先輩、今日も制服姿が可愛らしいですね」
「ご注文は?」
「ラビ先輩テイクアウトで」
「ねーよ」
「売り切れですか、仕方ないですね。じゃあスマイル5つ」
「なんか買えよ迷惑客」
「お客様は旦那様ですよ」
「神様さ。お前は平民だけどな」
「今日は随分とご機嫌がななめなんですね」
「変な客に絡まれてるからな」
「か、絡まれたんですか!私の先輩にそんなことするのはどこのどいつですか!」
「目の前のお前だ。もー、早く注文しろよ。他の客が来ちゃうだろ」
「先輩と私のハッピーライフセット1つ」
「ございません」
間髪入れずに言い返した。その反応に満足したのかニヤリと笑った聖徳は、アイスコーヒーで、と何事もなかったかのように注文を述べた。
この後輩、といっても委員会の後輩でその委員会も去年までの話なので直接の後輩ではないんだがとりあえず後輩、はどうやら俺のことを相当気に入ってるらしい。どう気に入ってるとかどういう意味で気に入ってるとかは聞いたことはない。だって怖いし。でも気に入られてることは確かなのだ。そうでもなかったら毎回人のバイト先に顔を出すなんてことはしないだろう。
「2ヶ月」
「はい?」
「お前が俺を付け回すようになってから」
「ヤダ、人のことストーカーみたいに言わないでくださいよ」
「じゃあストーカーみたいなことしないでよ」
「私は先輩のおはようからおやすみまでを見守ってるだけですよ」
「なにこの子超怖い」
「今日は20時にバイト終わるんですよね?」
「人のスケジュール把握すんなさ」
「てへぺろてへぺろ。その後一緒にご飯でもいかがですか」
「直帰します」
「させません」
「お前なんで予定聞いたの?最初から拒否権ないじゃん」
「結局拒まないのはラビ先輩じゃないですか」
「……」
「でしょ?」
「(こいつ、)」
食えない、と思ったことは何度となくあった。よく言えばやり手の策士、正直に言ってしまえば腹黒ストーカー。きっとこいつの本性は恋とか愛とかそういうのを鼻で笑って遊び道具にする小悪魔に違いない。だからこそ俺は断じてこいつをそういう目で見たりしないのだ。結果が悲惨になることなんて目に見えている。
可愛い顔してあの子割とやるもんだねーと
「あ、メール」
「なんつー着信音にしてんだよ」
「やっば、友達待たせてたの忘れてました」
「ほーう、お前みたいなやつでも友達なんているんさね」
「嫉妬ですか?」
「その笑い方やめろ」
ほい、アイスコーヒー
差し出したアイスコーヒーをカウンター上に置いて引き取りを待つ。しかしいつまでも伸びてこない依頼主の手を見ると、そこには何故かマジックが握られていた。
「ラビ先輩、手出してください」
「は?」
「いいからいいから」
「なにしてんだよ、俺一応飲食業だからそういうの困るんだけど」
「先輩今日はキッチンには回らないでしょ〜」
「だから人の予定を把握すんなって」
「はい、できた!」
「あ?」
「今日の待ち合わせ場所と時間です」
「口で言えば分かるさ」
「先輩最近忘れっぽいじゃないですか」
「人のこと年寄扱いしてんじゃねーさ。つーかお前の名前まで書く必要ないだろ」
「ありますよ」
「ご丁寧にフルネームって」
「先輩に変な虫がつかないように」
「は?」
「自分のモノには名前を書く主義なんです」
そういってアイスコーヒーを手に颯爽と彼女は去って行った。残されたのは俺と左手に踊る憎たらしい文字。
ああ、本当に食えない奴。
氏名記入欄
(ラビ、休憩どうぞーって顔赤いですよ。風邪ですか?)
(や、風邪ではないから大丈夫さ)
201205026
さえ様リクエスト「ヒロインがラビのことが大好きでストレート」
ストレートの言葉の意味をはき違えた結果です。ヒロインに冷たいラビさん萌え。