おちる




空から落ちてくるものは大抵決まってる。大気から落っこちてくるんだから大抵は雨とか雪とか。たまに雹も降るかもね。昔話の物語では空にありえないものが浮いていたり、女の子が落ちてきたりなんていうお決まりの絵空事が当たり前のように存在していたわけだけど、そんなのは所詮物語の中だけの話。21世紀のこの時代にそんな夢物語なんてありえないですよ非科学とか信じてないんですよと高をくくっていたほんの2秒前までの自分カムバック。

落ちてきたよ、人型の何か。


「……」

「あ、俺ラビ、よろしく」

「なんだ、夢か」

「夢じゃねぇよ」

「びっくりした、人間かと思った」

「人間だよ!」


心外だ、人権侵害だとわめき始めた彼はホモサピエンスのラビというらしい。それ以外のことは知りたくない(というか人間が空から降ってきたことすら本当は認めたくない)ので耳をふさいでシャットダウンさせていただこう。彼はホモサピエンスのラビで、これはきっと幻で、


「ちょっと聞いてよ!俺の話!」

「聞いてるよ。壮大な幻想だよね」

「幻想でも夢でもないって何回言ったらわかるんさ」

「それで、バルスはいつ唱えればいいの?」

「聞けよ」

「まじかよー夢じゃないとか面倒くさいじゃんコレ。私ただの帰宅部で今からお家に帰るところなんですけど」

「お、じゃあ俺も一緒に行くさ」

「お母さんに元いた場所に返してきなさいって怒られちゃうから駄目です」

「友達として招くつもりは毛頭ないんさね」

「いや、会って5分で友達とかちょっと冗談きついです」

「人類皆友達だろ?」

「はは、寝言は寝てから言ってください」

「飲み物とお菓子買ってから行こうさ」

「何この人図々しい」


ポテチとスプライトが欲しい、と欲望をありのまま伝えてくる彼に頭痛がした。本当に家まで来るつもりなのだろうか。そして本当に空から落っこちてきたのだろうか。考えれば考えるほどこんがらがる頭がうっとうしくて、思考を手放した。そもそも生来面倒くさがりで通ってきた私に、どこかの物語の主人公のような反応を求めることに無理があるのだ。流れに身を任せるのは私の十八番。こいつはホモサピエンス。名前はラビ。後は知らん。


「その制服、そこの高校のだろ?」

「そうだけど…着たいの?スカート着たいの?」

「ノーセンキュー。あんた3年生?」

「うん」

「じゃあ俺と一緒さね」

「え、ラビも高校生なの?」

「うん。三高ってしってる?」

「ああ、あの変態並みに頭のいいインテリ高校ね」

「俺そこに通ってんの」

「へーそうなんだー。三高ね、三……ん?」

「なんさ?」

「あんた本当にただの人間なの?」

「は?何言ってんさ?」

「だって空から落っこちてきたじゃん。古の国のどこかの王子様だったとかそういうくだりじゃないの?」

「ラピュタの見過ぎだよ」

「じゃあなんで空から、」

「木の上から落ちたんさ」

「地に足付けて生活しろよ」

「ちょっと用事があって」

「木の上に好きな子でもいたの?」

「木の上にはいないけど」

「木の下にはいたってか」

「会えないかなーと思って隠れてたらたまたま通ったんさ」

「ストーカー!おまわりさんストーカーです!」

「だって会える可能性皆無なんだもん!」

「だもんじゃないよこの変態!」


近寄らないで、変態が移るとののしるとラビは少し傷ついた顔をしてうなだれた。その様子がまるでどこかの大型犬が叱られた時のようで、なぜかこちらが悪いことをしている気分になってしまった。解せぬ。


「落ち込まないでよ、私が悪いみたいじゃん」

「だって…」

「分かったよ、協力するから」

「え?」

「好きな子、うちの高校なんでしょ?協力するから元気出しなさいよ変態」

「変態呼ばわりはやめて!本気で傷つく!っていうか、好きな子、」

「3年生?それだったらたぶん協力できるよ」

「いや、そうじゃなくて」

「なに?指ささないでよ」


「あんたなんだけど」








落ちる、おちる

(一目惚れしたんだ)











201205024
セレナ様リクエスト「ラビの片想いで、鈍感なヒロインに振り回される」
ラビ、アウトー!ラビさんって本気で恋しちゃうと周り見えなくなっちゃいそうですよねって話。たぶんアレンあたりが「木の上から見れば見晴しいいし見つけられるんじゃないですか変態」とか助言したんだと思います。…助言?