「なにこれ」
お昼休みが始まる合図とともにどこからともなく重役出勤をかました僕の隣人は、挨拶を交わす間もなくそう尋ねた。誰にって、もちろん僕に。
「お弁当ですよ」
「それは分かるよ。そうじゃなくて、このキリスト生誕時の行列のような女子の列はいったい何?」
「ちょっと今週お金なくて」
「お前はどこぞのヒモ男か」
鋭いツッコミを入れると同時に太子は僕の隣の席にどっかり座った。その席に僕への贈り物たるお弁当を置こうとしていた女の子は、面白くなさそうに彼女を見ながら教室を出て行った。
「なにあの子、超見てたんだけど。恋か?恋に落ちる音がしたのか?メールトとけーてーしまいそうー」
「太子は問題児のくせに良い子ですよね。あ、お弁当食べます?」
「アレンは優等生のくせに性格ひん曲がってるよね。それあの子が置いてったお弁当じゃん」
「そうでしたっけ」
「みんなアレンのために一生懸命作ったお弁当でしょ?せっかく全部食べれるだけの胃袋持ってるんだから、責任もってしっかり食べなさいよ」
「真面目ですね」
「普通だよ」
「好きですよ、そういうところ」
「私はアレンのそういうところ嫌い」
目線でお弁当をさすようにして彼女は言う。仕方ないんですよ、と笑う僕。を呆れたようなため息で一蹴する彼女。さして仲がいいというわけでもない僕と太子だが、この1言ですべてを理解してくれるほどにはお互いの生活環境というものを理解している。そう、今週はお金がないのだ。その魔法の言葉を口にしたのは確か昨日のお昼休みだったか。クラスの女の子にお昼はどうしたのかと尋ねられたのでそう答えたら、次の日にはこのような状況になっていた。女の子の噂話って回るの早いですよね、と独り言よろしく呟いたら、知ってて利用してる奴の台詞じゃないねと打ち返された。バレてたか。
「今週そんなにヤバいの?」
「バイトの給料日が金曜日で、残り23円です」
「おかしいな、今日って月曜日じゃなかったっけ」
「5日はさすがにないですよね。よくて3日ですよ」
「それもないよ」
「なんにせよ、このお弁当があれば生き延びていけます」
「ふむ、アレン」
「何ですか」
「私も何かあげようか」
平生の彼女らしからぬ言葉に頭がおいつかず、ぽかーんとしてしまった。僕のこういう性格や周りを利用するやり口を黙認してくれはしても決して手を差し伸べてはくれなかった彼女。もちろんそれを冷たいなどと思ったことは1度としてなく、むしろそうやって距離をとってくれる彼女を貴重な女友達として嬉しく思っていた。そんな彼女が、だ。
「お気持ちは嬉しいんですが」
「遠慮しなくていいよ」
「いえ、大丈夫ですよ。もうお弁当も十分にいただきましたし」
「そっか、ならいいんだけどね」
「……」
少し露骨すぎただろうか。心配になって覗き見た彼女の顔は特にいつもと変わることもなく飄々としていた。安心したはずなのに、心にはモヤが残って漂い続ける。それが気持ち悪くて理由をはっきりさせたくて、もう1度彼女を見た。
「ん?」
「(う、わ)」
「どうしたー?やっぱり欲しいものあった?」
「いや、あの」
「?」
「え、っと…その」
「どうしたの?」
「君が欲しくなっちゃったんですけど」
「は?」
WANTED!
(本気で狙っちゃってもいいですか?)
201205020
リル様リクエスト「アレン夢」
本気になっちゃったって話。相手の反応伺ってどきまぎしてる時点でもうだいぶ落ちてますよ、アレンさん