「すき、きらい、すき、きらい、」
花畑が見渡す限り続く広大な土地に、奴は1人佇んでいた。白い花びらをちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返す。花占いなんてやるたまじゃないだろう、なんて思いながらも声をかけるタイミングを掴めずにその様子をしばらく黙ってみていた。
「すき、きらい……」
「……」
「大変だ、神田さんが死んじゃう」
「なに占ってたんだよお前」
たまらず声をかけると、なんだ、生きてたんですか、というなんともテンションの低い返答が残念そうな表情とともに返ってきた。仮にも仲間の生還にこの表情、この台詞である。嘗めてるとしか思えない。
「生きてちゃ悪ぃかよ」
「いいえ、嬉しいですよ。ガリガリくんの当たりの次くらいに」
「お前の方はどうだった」
「どうもこうもバッチリですよ」
「そうか」
「バッチリ逃げてきました」
「逃げんなよ!」
「大丈夫ですよ、残りのAKUMAは全部ラビさんが引き受けてくれましたから」
「道理であいつがいねぇと…」
「私からのささやかなプレゼントです。余りものには福があるって言いますからね、ハッ」
「(鼻で笑いやがった)」
まあ、あいつなら大丈夫だろう。そう思い、また新しい花をちぎり始めた女から少し離れたところに腰かけた。
そもそも今回の任務は新入りである聖徳のお試し実践のようなところがあった。そのため本来ならば2人で十分蹴散らせる相手のところにわざわざ3人のエクソシストが送られた。結果として1人は働かなかったようなので同じ結末を迎えたわけだが。
「お前、今日何しに来たの」
「いやだな〜お仕事ですよ、お仕事」
「何もしてないくせにドヤ顔で言うなよ」
「してましたよ、戦場観察と戦況分析」
「……」
「すごかったですね、神田さんとAKUMAのお遊戯」
「戦闘な」
「すごい滑稽で見とれちゃいましたよ」
「(…殴りてぇ)」
「特にAKUMAに囲まれた時の神田さんの顔がもう…最高すぎてビデオに収めちゃいました。見ますか?」
「今すぐ本部に帰れ」
強制送還の4文字をたたきつけて立ち上がる。戦力になるどころか全力で足を引っ張りにかかる奴と一緒だったと考えると、兎のことが少しばかり気がかりになってきた。先程からなんの連絡が入らないのも、当初は助けの必要がないからかと考えていたが何故か今は胸騒ぎがする。兎を最後に見た方向に走り出すと、後ろから足音がついてきた。
「お前は帰れよ」
「駄目ですよ」
「使えない奴は戦場にいらねぇ。帰れ」
「使えないかどうかをそんな簡単に判断していいんですか?」
「…あ?」
「私が現地に赴けばラビさんは今の10倍…いや、100倍以上の戦闘力を手にすることができるんですよ」
「どういうことだ」
「どういうことだも何も」
何がおかしいのかクスクスと笑いはじめた女。しかし一向に後に続く言葉を言わない。こいつのイノセンスにそんな能力があるなんて報告は受けていない。それともただ報告の漏れがあっただけなのか。膨れ上がる疑問を押さえつけ、現状にもっとも適合する選択肢を選び出す。とにかくこいつを兎のところまで連れて行こう、そう思った矢先だった。
「逃げる時に間違えて持ってきちゃったんです、ラビさんのイノセンスとゴーレム」
「やっぱお前帰れ」
うっかりさんと花占い
(花占いって当たるんですね)
(当たってたまるか)
20120513
桜花さまリクエスト「神田夢」
助けに行くと泣きながら抱きついてくるラビさん。とそれに蹴りをいれつつAKUMA退治に奮闘する神田さん。からのやんややんや言いながら何もしない太子。神田の苗字呼びに悶えるのは私だけでしょうか。