炭酸コーラ




「注文してきますよ。何がいいですか?」

「俺ポテトドМ」

「私コーラドS」

「ビッグマックセット2つですね、分かりました」


颯爽とレジへ歩いて行ったアレンを横目にもう1人の相方ことティキを見ると、そいつも私と同じ顔でアレンを見ていた。ビッグマック食べれるほどお腹空いてないんだけど、と呟けば、嘘つくなよブラックホール胃袋と貶し文句を吹っかけられた。


「君たち今日は何のために集まったんだっけ?私の傷心会じゃなかったっけ?」

「お前もう元気じゃん」

「心の傷は治りにくい!byドナルド」

「ドナルド絶対そんなこと言ってないから。「バーガーうめぇ」くらいしか言ってねぇよあのピエロ」

「言ってないかもしれないけど言ったかもしれないじゃん。それにドナルドの名言は「ランランルー」だよ!」

「どうしたんですか猿共。騒ぐなら自然に帰しますよ」

「わあ、本当にビッグマックのセット買ってきたよこのドS!」

「しかも自分だけ優雅にアイスコーヒー頼んでやがる」

「合計で1400円です。どちらが払うんですか?」

「なにこれ、ジャンケンなの?」

「なんでお前のコーヒー代まで入ってるんだよ」

「100円くらいでグチグチ言わないでくださいよ、上野動物園に通報しますよ」

「さっきから失礼だなこの似非紳士」

「太子が払うって」

「僕にもそう聞こえました」

「ちょっと、今日は私の傷心会でしょ」

「だって貴女もう元気じゃないですか」

「心の傷は治りにくい!byカーネルサンダー」

「ここマックだぞ」


泣く泣く財布から千円札と五百円玉を出すと綺麗にアレンの財布へ消えていった。百円くらい返せよ。
GWでごった返すファストフード店の店内は、良く見れば私たちと同じくらいの年代のカップルも多い。あいにくの天気のおかげというか、せいでというか、今日のファストフードチェーンは売上上々に違いない。


「大学生がマックデートとかワロス」

「太子も良くしてたじゃないですか」

「別れ話もマックだったんだっけ?」

「もっと遠まわしに聞こうよそういうの」

「僕イギリス人なんでジャパニーズエアーとか読めないんです」

「俺ポルトガル人だから」

「人種の問題じゃなくて人間性の問題だと思う」

「つまり人間性が壊滅的だったから太子は振られた、と」

「自己紹介乙」

「なにこのドSの巣窟」


腹いせに目の前のドでかいハンバーガーに噛みついた。別れた日にも元彼が立ち去った後に同じものをやけ食いしたっけ、なんて思い出したら急に緩くなった涙腺が視界をゆがませる。哀しいんじゃない、別れた後にも元気にマックを食べてた自分に呆れたのだ。まだ炭酸のきついコーラを一気に吸い上げると、喉の奥に炭酸の塊がぶち当たって咳き込んだ。


「ごほ、げほ」

「何してんですか」

「マックくらいではしゃぐなよ」

「は、はしゃいでない!」

「ほら、目から何か垂れてますよ。早く拭きなさい猿」

「泣いてる女の子にそんな台詞吐くか普通」

「仕方ないなー、俺の分のピクルスやるよ」

「それティキが嫌いなだけじゃん」

「君なら大丈夫でしょ、どうせまたすぐに新しい彼氏ができるんだから」

「そして1ヶ月ですぐ別れる踏んだり蹴ったりのデフレスパイラル」

「ティキ、私の分のピクルスあげるよ」


言うが早いかバンズの下から引っこ抜いた2つのピクルスをティキの顔に投げつけた。明らかに怒りマークの飛んでる表情に輪切りピクルスが2つ。そのミスマッチな状況に噴出した瞬間、目の前にポテトが舞った。


「痛い!目が、目がぁああ!」

「ざまぁ」

「ポテトに謝れ!」

「じゃあお前もピクルスに謝れよ」


「2人とも、言いたいことはそれだけですか?」


ドスのきいた声の方向に目をやると、顔にケチャップ、頭にポテトを乗せた同級生がにこやかに笑っていた。よく似合ってるよ、と震える声で賞賛すれば、ありがとうございますという言葉とともに鉄拳が飛ぶ。


「食べ物で遊ぶな、猿共!人間界から追放するぞ」

「痛い、」

「なんで太子がチョップで俺はゲンコなんだよ」

「ごめんなさいは?」

「「ごめんなさい」」


振り上げられた拳に即座に下げた頭。その痛む頭にまた涙が出た。もちろんさっきとは違った意味で。


「お腹空いたからなにか買ってきます」

「ポテトドSだな」

「アンハッピーセットかもよ」

「太子のおごりですか、ありがとうございます」

「なんでよ」


またもや颯爽とレジに向かう後ろ姿に中指を立てる。それを見ながらケラケラ笑っているティキを恨めしく思いながらコーラをすすった。


「元気になったじゃん」

「2人共もともと元気だって言ってたじゃん」

「だってお前、元気ないねって言われるの苦手じゃん」

「そんなこと、ない、じゃん」

「あるじゃん」

「……」


コーラをすすると、少量になったとき特有の水っぽい味がする。いつもなら史上最悪と感じるその味を、不思議と不味いとは感じない。それはたぶん今日、ここに、こいつらといるからなわけで。


「コーラって炭酸抜けても美味しいんだね」

「不味いだろ、史上最悪の砂糖水だよ」








炭酸の抜けたコーラ味

(しばらく恋はお休みしよう)









20120505

椿さまリクエスト「付き合ってた彼氏に振られて苛苛してたらアレンかティキが慰めてくれる」
慰め…てるか?大学生設定:アレンは法学部、ティキは経済学部、太子は文学部。高校からの仲良し3人組