カミングアウト
「うーんと、どこから説明しようか」
施錠の時間が近づいていたので高遠さんは3年生寮へ帰って行った。今は縁と二人きり。気まずいムードの中、向かい合わせでなぜか床に座って話している。
「あの…さっき出て行った人は一体…」
「ああ、小林は僕と同じ2年生で高遠とは中学のときの後輩なんだって」
「いやプロフィール的なことじゃなく…」
部屋の中から聞こえてきた声は確かに、間違いようもなく喘ぎ声だった。なのに部屋の中には、その…小林さん?っていう人と高遠さんと3人ってことは。
「ごめん、鷹臣いない間に僕らの部屋でこんなことされてたら不快だよね。」
「いや…それは別に…。つまり3人でしてたってこと?」
「厳密に言うとちょっと違うんだけど」
「違うって?」
「高遠はね、自分の目の前で僕が他の男に犯られてるのを見ると、死ぬほど興奮するんだって」
なに、それ。
えええー…。すごいことさらっと無表情で言ったよこの人。
「いつもは他の人とした後にちゃんと高遠ともするんだけど。今日は時間なさそうだったからやめておいて良かったね、って……鷹臣聞いてる?」
聞いてる。聞いてるけど頭の中で消化できない。何言ってるのか全然わかんない。
「縁は嫌じゃないの?だって高遠さんのこと好きだから付き合ってるのに、そんなの酷いじゃん。」
「ああ、うん。そうだね……。うん」
せっかく心配して聞いたのに。縁は一拍おいて、やっぱりなんでもないことのように、
「僕もさ、他の人に犯られてるところを高遠に見られてるって思うと死ぬほど興奮するから」
と言った。
そうなんだ。うん。じゃあ問題ないね。魚心あれば水心ってやつ?お似合いカップルだね。
…………ってなんないよ!
全然無理。童貞の俺には全然理解できない。
けどまぁ。広い世界にはいろんな性癖があって俺に理解できないからってそれを否定していい理由にはならない。縁と高遠さんがそれで成り立っているなら俺が口出すなんてもってのほかだ。
俺が頑張って頑張って振り絞って出した返答は、
「そっか…」
だった。これでも渾身の一言だったんだよ。
「でもやっぱりごめんね。部屋ではしないようにするから。今度から気をつける」
「それはいいよ、びっくりはしたけど全然気にしてないし」
俺も最後までしていないとはいえ勝威さんとのことがあったから。お互い様といえばお互い様だろう。
「鷹臣は本当に優しいね。これでも自分たちが少し異常だっていうのはわかってるつもりだし、ひいちゃうかと思ったんだけど。それにさっき怒ってくれて嬉しかった」
そう言って縁には珍しく自然な笑顔を浮かべる。何回見ても慣れない、いつも少しドキっとしてしまう。
「鷹臣には隠し事しないでちゃんと話したいんだ。僕のこと嫌わないでいてくれる?」
「…っ!嫌いになるわけないじゃん!そんな性癖のことなんかで…」
「僕がボコボコに殴られたり乱暴にされたりするのでガチガチに勃起するような変態でも?」
それは初耳です。
それどんなカミングアウト…?。そんな可愛い顔で言わないでよ…。そうなの?そういう人なの?意外とかそんなレベルじゃないんですけど…
「だ、大丈夫。縁のことも高遠さんのことも、嫌いになんかならない」
縁の目をまっすぐ見つめて答えると、縁は嬉しそうな顔で俺に抱きついて「ありがとう」って言った。
何がきっかけでそんな性に目覚めたのかものすごく気になったけど、結局怖くて聞くことはできなかった。世の中には知らない方がいいことも沢山あるよね。
それにしてもあんな優しそうな高遠さんにそんな趣味があったなんて。どんな顔して次に会えばいいのかなぁって、そんなことをずっと考えていた。
[ 11/56 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]