浮気






「あ、連絡先…。」
「連絡先?」
「いや、なんでもない。」

勝威さんの部屋に行ってから数日たった。今日は少し風が強いので、外には行かず洋介と一緒に教室で昼飯を食べている。

携帯をいじっているときに気がついたんだ。あのとき思い切ってメールアドレスだけでも聞けばよかった。

意味もない雑談メールを送るなんてことはできそうにないけど、勉強のことで質問するとか…なにかしら口実を作ることは出来たかもしれない。


「そういえば今日の放課後って委員会の顔合わせって言ってたじゃん?あれ明日に延期になったらしいよ。」
「へ?俺なんにも聞いてないけど。」
「隣のクラスの奴から聞いた。うちの担任連絡忘れてるよ。」
「え〜…適当だなー。」

新学期の委員会決めで俺と洋介はジャンケンに敗北しそれぞれ保健委員と体育委員になっていた。どちらも身体測定のときや体育祭など年に1・2回程しか活動することはないのだけれど、最初の顔合わせだけは必ず行うことになっている。

そっか。晩飯作るの今日は無理だと思ったけど延期なら大丈夫だな。明日作ろうと思ってたハンバーグ作ろっと。

放課後になって学園の近くにあるスーパーに寄って買い物をしてから自室へ帰る。


鍵をまわし、少しだけドアを開けたそのとき。


「……あっ…。」


くぐもった声。いつもと感じは違うけど、縁の声で間違いない。


「……んっ、はぁ……。」


一瞬のうちに汗が吹き出る。


えーーーーっと、これは、あれだ。俺今日朝出るとき委員会で遅くなるって縁に言ってて。

で、委員会延期になったことは特に連絡してなかった。

えーと、で、これは。高遠さんと縁が。


ヤってる最中ってこと?


足音を立てず、それでいて高速でその場から離れる。うわぁ…どうしよう。談話室で時間潰すか…!それしかないか…

あ、やばい。動揺しすぎて鍵開けたまま来ちゃった…!

他人の部屋に勝手に入ってくる奴なんていないだろうけどもし万が一部屋間違ったりとかして誰かがドアを開けたら…

まずい、俺のせいでそれは絶対にまずい。

だからって今から鍵を閉めに行くのもなぁ…。さっきは気づかれなかったけどもし次に鍵を閉めた音で気づかれたら…

仕方なく俺は、廊下の曲がり角から覗き込んで自分の部屋のドアを遠くから見守ることにした。傍からみたら完全に不審者だ。突っ込まれたらどう言い訳しよう。

委員会の予定よりも早いとはいえ、スーパーに寄ったりもしていたからそろそろもういい時間だとは思うんだけどなぁ。頃合を見て後でメールを送ってみよう。今は…邪魔しちゃうし。行為が終わったばかりの2人と顔を合わせるのはものすごく気まずいけれど。

悶々としながらドアを見つめていると、しばらしくしてドアノブをまわす音が聞こえた。

高遠さんが出てくるんだろうと思い身を隠そうとしたとき、俺はありえない光景を目にした。


ドアを開け立ち去っていったのは、俺の全く知らない学生。


頭が真っ白になる。

なんで?なんでだよ縁。

高遠さんがいるのに、なんで他の男なんか部屋に連れ込んでんの?

縁のことを話すときの高遠さんの優しい顔が思い浮かんで胸が苦しくなった。それと同時に怒りの感情が湧き起こる。

気がついたら俺は自室のドアを勢いよく開けていた。

突然登場した俺を見て、縁はすごく驚いた顔をしている。


「ちょ…た、鷹臣!?委員会は……?」
「そんなのどうだっていいだろ!なにやってるんだよ縁!高遠さんがいるのに…!!高遠さんが……って。え?」


驚いた縁の横には、同じく驚いた顔で立っている、……高遠さん?

状況が把握できず、俺の思考は完全に停止した。





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