秘密基地





「完全に女の子になりたいの?」っていう質問をされたとしたら、単純にそうだとは答えられない。

そこの部分はもうちょっと複雑で馬鹿な俺には説明が難しいみたい。

教室の中。いくつかのグループに分かれて毎日楽しそうにお喋りしている女の子たちを眺めていると、普通に可愛いな、って思う。

"普通に可愛い"って表現はちょっと小馬鹿にしてるように感じるかもしれない。そんなつもりはないんだよ。

だって本当にそうなんだ。みんな当然のように、シンプルに可愛いって言葉が似合う。"女子高校生"だけが持っている、あの独特の存在感。


彼女たちの周りに漂うむせかえるような女の子の匂い。


その輪の中には入れない。なんていうか、絶対的に違う生き物だと感じてる。


それでも同じような姿になることで、少しだけそっち側と一体化しているような。不思議な感覚。


いつも着ている服とは違う生地。違う形。袖を通すたびに溢れるなんともいえない多幸感。可愛いって言われると嬉しいし、少しでも女の子に近づきたいと思う。


ドキドキするんだよ。その感覚が、ある種性的な何かを含んでいることも自覚している。


そうなってくると次はこんな質問かな。「恋愛対象はどっちなの?」って。


これに関して言えばもう、男か女かとかそういうレベルの話じゃなく。そもそも恋愛感情ってなんなの?って言う。そこからのスタートになってしまう。

家族も友達もみんな俺のことを子供っぽいって言うけど、それに関しては否定できないかもね。


今はまだ未熟で、なんとなく自分を持て余している。


ただこうして自分じゃない自分になれる瞬間が俺にとっての特別な時間。


そしてこの特別な時間の存在を知っているのは、今のところ友ちゃんと渡良瀬だけ。


父さん母さんや、俺の2人のお兄ちゃん。家族のこと信頼はしてる。だけど打ち明けるとなるとそれなりに勇気がいる。距離が近い分余計に。


だから友ちゃんからもらった服を、自分の家に持ち帰ることはできない。


*** * ** ***** * *


試しに着ていた白いワンピースを脱いで、綺麗に畳み直した。ウィッグもちゃんとケースにしまって。新しく手に入れた沢山の大事なものを両手に抱えて向かうのは隣の部屋。


「おじゃましまーす」


部屋の主はいない。きっとまだ1階でゲームしてる。

自分の部屋に隠していても母さんがすぐに見つけてしまうだろうから、友ちゃんから貰った服は渡良瀬のクローゼットに置かせてもらっている。

あいつ物欲が無いから服もそれ以外の物も全然持ってないんだよね。クローゼットだけじゃなく部屋の中もスカスカ。

本当に今必要だと思うものだけを厳選して残している。物で溢れた俺の部屋とは大違い。


ここに遊びに来たときは、いつも着替えて女の子の格好で過ごす。


なんにもない渡良瀬の部屋が、今の俺にとっての秘密基地だった。






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