こころはもう踊っている(久々鉢)


※現パロ

 温度のある空気が顔や髪にぶち当たっては弾けてゆく。でかいドライヤーの通風口に体当たりしているかのようだ、と、久々知兵助はありもしない想像をしていた。

「あはー。あー! 花粉」

 声が揺らめくほどのスピード。幻想的ですらある。

「花粉症だったか?」
「ちがう」
「……意味がわからん」

 意味がわからないのは、兵助にとっても同じだった。
 鉢屋三郎は、所謂〈能ある鷹〉、聞かれなければ答えないことがしょっちゅうだ。
 それを、今日は、ドライブだ。取ったばかりの技能(スキル)を、ひけらかすやつが、

「いい天気だ」
「……居るんだよなぁ。」
「……?」

 兵助は〈特別感〉というものに疎く、これまで、齢二十に満たない人生で何度も、周囲から顰蹙を獲得していた。しかし、こと三郎の寄越す〈特別〉に至っては、なぜかしら、わからないなりに、感じ取ることが出来るのだ。
 多分これもそうだ、と兵助は考える。状況、足す、状況で、おそらくは正答だ。

 先には緩やかに右側へたわむカーブがあり、身体より先に心が浮かぶ準備をする。

「あーーー」
「……うるさい。」

 訂正。こころはもう、躍っている。
 揺れる声を咎める声もまた、そのステップにかどわかされている。歌でも詠んで風流に、スプライトを決めてやりたいところだ。

「明日、Bは何時に終わるんだ」
「一回は18で締めだけど、副に任せて私らは」
「えー! せこい」
「いいだろう最後ぐらい。日頃真面目だったのだし」
「いいかどうかはそっちの連中が決めるんだろ」

 いいんだよ。前を向いたまま三郎が言う。まなじりから、早く卒業したくて堪らないんだろう、と読み取る。そしてそのままそれを伝えると、「バカにしてるのか」と予想通り、返ってくる。

「Aは長そうだな」
「うーん。勘右衛門、居ないと纏まらないしなあ」

 目を細めた分だけ、風景が線になって後を引く。自分はそこまで整理できていないのかもしれない、と兵助は浸っている。

「纏めなくていいんだよ。組んず解れつ、の後ろの部分さ、明日は。緩急をつけて」
「はいはい。」
「なんだと。そもそもお前、飲み物飲む? とかあるだろ、もっと」
「はいはい。飲み物飲む?」
「そこは助手の席なんだぞ。……ありがとう」

 お前から誘ったくせに、叱るなよ。と、言うことは簡単なようで、難しい。思った以上に緊張していて、相手はそうでもなかったりするんだ。

「三郎、」
「…………なに」

 明日が終わったら、正式に恋人だ。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -