11


ミツと中在家は黙々とクナイで暗い色をした土を掘っていく。
深い木々が生い茂り、月明かりも照らされない おぼつかない手元。それでも程なくして人ひとり分を収められるだけの穴が完成した。


二人の間に会話はない。

それでも息を合わせたかのように死体を二人で支え穴に横たえる。

無駄のない手つきで土をかぶせていくミツ。


その様子を見て、


(死体を始末するのに慣れているとは本当だったのだ)


と表情のない顔の造作の奥で
中在家は思う。


カラスタケ忍者の死体に黒い柔らかな土が被されていく。
口には渇いた血がこびりつき、わずかに苦痛でしかめられている 死顔。
目がカッと開かれていた。


ミツは穴の淵から手を伸ばす。


(目を閉じさせなければ)



―――たとえ敵であっても、
死者には敬意を払いたいのだよ―――



そんな人の好いことを言ったのは
かつての彼女の主。

今は亡き、年の頃もミツと変わらないような若い殿。

ミツは彼を守るために
忍びのいろはを叩きこまれたのだ。

それなのに
使えるべき主は もういない。


自然、唇を噛んでいた。

伸ばした手は宙に留まり

瞳は後悔や自責に苛まれ
焦点を失う。

ミツが我に返ったのは
虚空で留まった右手の上を
別な腕が横切ったから。



「………」


ふと見れば中在家が
死体の両の目を そっと閉じさせていた。

無表情・無言。
そんな彼が行う使者への所作は坊主や僧に負けず劣らず
いや、それ以上に
静かで聖域じみた動きだった。


おもわず見とれた。

ゆっくりと手を引っ込める中在家が
不意にミツを見る。

死体を埋め始めて、初めて二人の目が合った。



「これでいいか」


ぼそりぼそりと、中在家特有の喋り方。



「うん」


ミツは頷き返し、再び土をかけ始める。



中在家もまた、その大きな手で土を握る。
ミツのそれより三倍はありそうな土を一度に掴み、
丁寧に穴を埋めていく。


やはり彼女らに言葉はなく
フクロウがホーと遠くで一鳴きするのが
やけに大きく響いたように感じるほど。


その深い沈黙が
何の違和感もなく 流れていった。









|




TOP


- ナノ -