12
伊作がふと目を覚ますと、辺りが白んでくる時分だった。地面に体を横たえるのではなく、仙蔵も中在家も潮江も、みな木の幹に体を預けていた。どうやら、ずるずると重力のままに地面に体を投げ出してしまったのは自分だけのようだ。上半身についた砂埃を払いながら、あとどのくらいで夜が明けるのだろうと空を仰ぐ。傾いた白い月が、まだ空に引っかかっていた。そして高い木の枝には例の彼女が片膝をたて、そんな空を眺めている。
「結局眠らなかったのかい?」
下から声を投げればミツは面倒くさそうに、ああ、だとか、うん、だとか、そんな返答をした。曖昧な喉の響きで言葉にはなっていなかった。だが彼女の眼差しは射抜くように鋭く、伊作は彼女がただ景色を眺めていると思っていたが、そうではないのだと改めた。五感を研ぎ澄まし危険を察知する――という紛れもない見張り役をたった一人で一晩中こなしていたのだと悟った。
「すまないね、押し付けてしまって」
伊作は心から申し訳なく思った。いくら彼女が「一人で十分だ」と言い張っても、彼女ひとりに負担させるわけにはいかないだろう、と誰しもが思ってはいたのだ。
しかし中在家とミツがカラスタケ忍者の死体を埋めてくると場を離れ、戻ってきたのは中在家だけであった。
「おい、ミツは?」
潮江の問いに中在家は無言で人差し指を上に立てた。
その方向を目で追っていくと背の高い木の枝に腰かけるミツがいた。
こんなすぐ近くの木を高く高く登っていたのに、全く感じられなかった気配。
なんだかそれだけで、彼女が自分たちの一晩分の安全を保つ力量があるような気がしてならなかった。
「じゃあ、僕らは寝させてもらおうか」
伊作はミツには思わず大きな声を出してしまったが、それを引っ張って場を乱すほど子供ではなかった。
「そうだな」
なんとなく脱力したように潮江が返す。先刻の、今は亡きカラスタケ忍者とのやり取りが、彼を重石をつけて沈ませた泥人形のように、ぐったりとさせていた。
ただ、やはり仙蔵だけが、
「……フン」
どこか腑に落ちないように鼻を鳴らしたのだった。
結局、彼らは昼間の疲労に負けて眠りこけてしまったわけだが。
(ミツちゃんは一睡もしてないんだもんなあ……)
伊作は保健委員の性分をまたもや発揮し、彼女の体の具合が心配でならなくなってしまった。
そんな伊作の思いやりとか気遣いとか、そういった類のものを、ミツは正しく受け取った。心持の良い人間なのだろうとミツは感じる。
「別に。どうせ夜、眠れないから」
(……え?)
どういうことなのか、彼女に聞き返そうとしたところで、
「…ぐぁあー」
大きなあくびと共に潮江が目を覚ました。それに伴い、中在家も仙蔵も体を起こす。
「…朝だな」
ぽつりと仙蔵が呟いた。
朝。
太陽が顔を出し始め、彼ら五人を眩しい陽光で包み始めた。
(僕たちの始まりの朝……)
(殺しあいと奪い合いの、始まり……)
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