06


カラスタケ城までの道のりは遠い。
徒歩の速さで行けば、ゆうに三日はかかってしまう。
五人は鍛えられた足腰を存分なく使い、小動物が木々を移動するように
素早く道中を走りぬけた。


その身のこなしは
今まで何度と無くこなしてきた実地学習の賜物であろうが
ただ、違う点がある。



背中に背負っている刀。



これを使わねばならない状況に遭遇するのかと思うと、
伊作は憂鬱になる。


――誰かを助けることはできても
誰かを傷つける側にはなれない――


伊作は、そんな男である。



そんな彼とは対照的に、潮江は心が踊っていた。

己を鍛えることだけが趣味の潮江ではあるが、
よもや人殺しなどという練習は、ついぞしたことはない。

とはいえ
刀捌きだろうが何だろうが 武術に自信は十分にある。


(いよいよ、俺の努力が発揮できるのだ)


なぜか今の今まで 日々積み重ねてきた能力を出せる機会がなかったが、今回は違う。
やっと自分の努力を見せしめられるのだと思うと
潮江は どうしようもなく わくわくしてくる。



各々に思うところは違えど
それを口に出すほど
彼らは この任務を甘く見てはいなかった。


始終、無言である。


ただひたすらに目的地へ到着することだけを考え、右足と左足の交互運動に全ての集中力を注ぐ。


自分の正体がバレれば、即ゲームアウト。



深い木々に隠れ移動するうちに もう一日が終わろうとしていた。

夕闇が迫る。
完全に陽が落ちては互いの姿を見失い、厄介なことになるだろう。



仙蔵が歩を遅め四人に目配せをし、全員の足が止まった。



「今夜はここに暖をとろう」



仙蔵の言葉に頷き、誰ともなしに開けた木立の合間に腰を降ろした。




一夜明ければ、いよいよカラスタケの領地へ入ることができる距離。



潮江が落ちていた枯れ木を集め、あっという間に焚き火を起こした。


五人はそれを囲んで円になり懐から握り飯と水の入った竹筒を取り出す。

食べ物を租借する音、水を喉が伝う音
そして
ぱちんと火の粉の弾ける焚き火の音。


それだけが五人を包んでいた。

あたりは静寂そのものである。


相変わらず言葉を発する者はいない。



五人は、ゆらゆらと揺れる炎だけを
ひっそりと見つめている。


――これから待ち受ける試練で
何が起こるのか。


伊作は血のイメージをどうしても振り払えない

潮江は妙に嬉しげにそわそわしているが

仙蔵は あくまで冷静沈着に
あらゆるアクシデントの対処法を頭に並べていた。

そして 自分に与えられた任務と
私見を交えずに向き合っている中在家長次。


ミツはというと、頭の中で学園長の一言が終わり無く繰り返されていた。





それぞれの想いで見つめる灯火が
また一つ 乾いた音をたてた。










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