"姫発"っつったら、まぁ全国で知らないヤツはなかなかいないよな。なんたってマルキュー前でバッチリ景気良く広告出てるし!
つまりアレ。俺って今をときめく売れっ子芸能人ってやつ?
16歳でスカウトのTEEN雑誌読モデビュー。背が高けりゃ顔もいい、実は超良いお家柄。実は演技派の二世俳優。なのに気さくな親しみやすい発ちゃんってば俺のこと!
評判の恋愛相談連載も火ぃついちまってよー、ラジオでも世間に姫発旋風巻き起こったもんなー。
ハタチ目前に転身した学園ドラマで俳優デビュー。そりゃもう街を歩けば「握手して下さい」コールだもんよ!溢れるプリンちゃんの手握ってもセクハラじゃないってマジで!薔薇色だよ世界がマジで!
ふとその平和な均衡が崩れてきたのが、絶対これ。絶対コイツ。
「"僕はこれからも、あなたの味方です…"」
高学歴高身長高収入好印象。同じくモデル転身の楊ゼンさま。しかも二世俳優。歌えるんだってよ同時CDデビュー。
って!ちょっと待てなんかおかしい!俺、なんで毎クール毎クール名前3番目よ!?
ヒロイン、楊ゼン、俺。
だぁぁぁ!おかしい!絶対おかしい!いつから当て馬専用だ俺!
「そんなに言うなら僕と代わります?数字取れるとは思えないけど」
「はぁ?お前あとから出てきてよく言」
「そもそも自分のゴシップが原因でしょう?」
「ゔっ…」
なんだよーなんだよー!ちっくしょー!16から事務所飼い殺しなんだもん俺!ちょっとぐらい潤い…一回の焼き肉デートでしかも打ち上げ終わりの!二人きりになったのって5秒だけ!そこで人生変わるってマジかよ…。理不尽だ。
トリミング間違いすぎだろが…。
てか、実のとこ恋愛相談出来るほど恋愛させてもらってねぇぞー!絶対おかしい!
ってまぁ、肩落としてもしょうがねぇや!よし!
ポジティブポジティブ!!発ちゃんてそーゆーキャラ!
……ん?
なんでか知らないうちにバラエティーのオファーが増えた。うなぎ登りに増えた。それこそ寝る暇ない程に。
そっかそっか、俺の笑顔で全国のプリンちゃん元気出るって?いやーそりゃ嬉し…
「小兄様、これ以上偏差値の低さを露呈する発言は控えて頂きたい」
「バッカヤロ!ウケてんだからいいじゃねぇかよ!」
……そうかよ、そうですか…。
クイズにトーク番組に、そんでもってとうとう来た。遂に来た!今度こそ来た!デビュー十年にしてCMキングの時代がキタ!
「急いで下さい!」
「うぐっ」
ご丁寧に首根っこ引っ張って下さったのは敏腕マネージャー邑姜。
「次なんだっけ」
「シェービングと日本酒とヘアワックスです」
「え?いや、だから次が」
「ワックスはオフショット入りますから。くれぐれも妙なことしでかさないで下さいね」
「ちょっ…ちょい待ち!!なんで3本!?」
「問題ありません。スタジオ隣ですから。1スタと2スタ交代で押さえてあります」
「違―――――う!!ンな問題じゃねぇ!!」
「1テイクで終わればすぐ帰れます。」
「いやっそれも…」
マジでやるのか…3本続き!?スタジオじゃねえよ体力の問題…
「んぐっ」
「10秒チャージです。倒れられたら困りますので。野菜も食べてください。」
問答無用で口に突っ込まれた。くそ…
「そもそも野菜嫌いだし」
「子供ですかアナタは!青汁と契約して不健康では示しがつきません」
「飲みたくて飲んでんじゃねぇもん!」
逃げてやる逃げてやる絶対!!
「姫発さんオールアップでーすっ!」
「お疲れさまでしたー」
「……おう…」
油断した…逃げる体力そもそもねえんだった…。無駄に体力有り余るADの武吉っちゃんに笑顔で連れ戻されること5回。……ごめんなさい、もうしません…。
「今日こそ帰るぞ!絶対帰るからな!」
「崑崙テレビ入ってます。」
「うっそ…」
「伝えませんでした?それとも覚えてませんか?」
「う…」
たぶん後者なんだけど…もういい、誰か…安息くれ、マジで…。
「……死ぬほど眠いんだけど」
「死にませんから車でお休みになって下さい。」
「うぅ…」
お昼やっすみはウっキウキ封神!…ってウキウキするかアホ!
「ぬぅーまたお主か。呼んどらんぞー」
「馬鹿野郎!昨日電話出たろうがぁ!!」
食えねぇ童顔ジジイの司会。泣きたい…
「毎回手ぶらで番宣とは懲りんのー」
「人聞きわりぃな!楽屋に桃持ってったろ!そっち回せよカメラ!!」
「ポスターその辺に転がしといてくれー」
「転がすな!!」
「ん?…髪が…伸びたか?」
「昨日切ったよバカヤロー!」
畜生畜生ちくしょー!明日だったら!せめて呼ばれたのが明日だったら!木曜レギュラー妲己ちゃんなのに!
「明日も見てくれるかのー!?」
「勝手に終わらすな!」
「ああ、ロビーに趙公明から花が届いて」
「いやーいらねぇわ…」
……うう。俺の安息…。
「次移動です!急いで!!」
「ええぇ!?まだ碧雲ちゃんと赤雲ちゃんの番号がぁっ…!!」
「またスキャンダル撮られる気ですか?」
「電話っ!電話ぐらい…」
もーダメ。逃げてやる。邑姜が契約取ってる間に逃げてやる。人気マルチタレント発ちゃんが謎の失踪を!とか!歴史に残るニュースにしてやる…!
「次!周テレの生ですよ」
「……周テレ…?」
周テレの生。ゴールデンに彗星の如く表れた人気番組。っても結局好きでもなんでもないんだけどよ。
韋護の前説長いし!生なのに押すし!カメラなんか怖いし…!なんで!?俺なんかしたかよ!?
「んじゃゲストの姫発サン入ります」
俺、"んじゃ"扱いだし…。もう!あのフロアADのアシスタントのちびっこいの!今年からの新入りの!
眠い…あれ、ヤバい。レフの反射とスポットで目がヤバい。完全に焼けてる。うーわ、V半分過ぎた辺りから記憶ない。おーい、もうすぐスタジオにコメント振られ…だめだ、走馬灯見える…。
トントン!
つっつく音がした。……あー、わかってるわかってる、寝てません…起きてるっつの……
トントン!
俺の数メートル前の一般客観覧席のまたちょっと後ろで音がする。うるっせー…
……あ?あ、
白いスケブに黒のド下手な字で
"姫発サン大丈夫?"
って。
ああ、あの新入りのフロアADのアシスタント…の…何回見てもド下手。
スケブ抱えたまま反対の腕でカメラのコード引っ張って、音声切ったのが見えたのが最後。
「姫発サン、姫発サン」
気が付いたらあのアシスタントの膝枕の上だった。うわ、やっぱヤローの脚って固いな…。じゃねぇよ、
「…収録は」
「無理しすぎさ」
「だから収録は」
「次の番組移動したってコメントとテロップ流しといたさ」
「……だって…生…客入れ…」
「大丈夫さ。あーたちゃんと笑顔で頭下げて手振って出てきたから」
「……マジで覚えてねぇ…」
「ちゃんとウインク飛ばしたしピース作ってたし」
「おぼえてねぇー…」
「頑張りすぎさ。ちょっと休まねぇと体壊しちゃなんもなんないっしょ」
「……う」
なんで上から目線かな、コイツ…。べちべち叩くなよ、人の顔…
「ファンの子心配させるんかい」
「べっつに…」
「俺っちも心配さ」
「……え…」
え?覗き込んでるコイツの目が…あれ?こんな可愛い顔してたっけ?いやいや違うだろ、そこじゃないだろ!なんだこの妙な空気!
「ほい。水」
「……サンキュ」
差し出されたペットボトルで触れた指と指。うわ、心拍上がった。
「飲めるさ?」
「ああ、平気」
あの下手な字で"姫発サン"て書いてある。あーあ…なんだこれ…
「あ、コップ使うんならあっちの紙コップ名前書いといたから。それと弁当頼めるからさ、焼肉かハンバーグかカレーかサンドイッチ」
「……んじゃ…」
言う前にまた一気に眠気きた。やばい…あれ…
「姫発サン?」
「ちょっと膝…貸しといてくんねぇ?」
「うん、いいさ」
あーれー?
こんな優しく喋るっけ、コイツ。そういやいつもスタジオで渇飛ばしてる声しか聞いてないんだっけ。
なにこれ?
「姫発サン、CM8本にレギュラーだけで4本っしょ?崑崙の単発も出てるっぽいし」
「……そうだっけ」
俺も覚えてないんだけど、そこら辺。
「うん。俺っち毎日録画してるかんね」
「……ああー…ありがと」
仕事?だよな?仕事だろ。わかってるんだけど、
「あのさー…」
「なんさ?」
「それってファン?ライク?ラブ?なに?」
「そう言われても」
「うん?」
「好きなら好きでそんだけさ」
「うーん…?」
「ラジオで言ってたじゃん昔。発ちゃんの恋愛相談。」
「そっか…」
そっかそっか。好きなら好きなのかー。なんだ、ちゃんといいこと言ってんじゃん俺!
「…あー…もーちょい…寝かせて」
「うん。アイマスクいるさ?」
いるって言った気がしたのに言えてなかったらしい。俺のファンっぽいADちゃんの手で目ぇ塞がれてた。あっせくさー埃くさー…お、そうだ。後でスポンサーの制汗剤差し入れてやろっと。一箱丸々玄関にあるんだぜーすげーだろ!
「……ドッキリとか」
「ないない。俺っちそんな気ぃ使えねぇさ」
「……だよな。うん、…それっぽいわ…」
久々にゆっくり眠った俺の、芸能人生かけたスキャンダルの幕開けだった。
end?
どうしても一回書いてみたかった芸能人発ちゃん。
絶対茶の間人気も高いと思うんです。
2011/03/29