寝台へ縺れ込む二人



「ぁっ……ふ……ぅ……」
まるで仔猫が母猫の乳房に固執するようにして、発の口唇は天化にしゃぶられ妖しく光る。このどこが“待ってくれ”であるのか、発は煽られることになるわけだが。
唇が角度を変える度、天化が慣れない息を必死で求める度、秘所に性器を突き立てるようなあの官能の音がする。ぶじゃ、ぐち! とりわけ大きくはしたなく愛おしいその音で以て聴覚までもが犯される。発はこれも知っている。天化がこの舌戦を酷く好んでいることを。天化の秘めれた最奥も、既に潤み、この音を望んでいることを。
ぐるる、と天化の腹が期待の雄叫びを上げて待っている。その度に何度でも恥じらうように身を捩る天化であるが、排泄機関が性器へと、発しか知らない性器へと進化と退化を遂げた証なのだ。愛おしくない訳がないだろう。腸の蠕動は、今や女のそれと同義なのだ。二人で作り変えてしまった歴史はただ一つここにある。
「王サマ……っぁ、んぁっ……もう……」
その言葉を、待っていた。“待て”でも“嫌”でもない言葉。
その先をいわないのは、天化の最後のプライドなのだろう。腰がジーンズごとかくりと揺れた。発はごくりと嚥下する。そして聞いたのだ、ぶつぶつと聞き慣れない呪文のようなそれを。
「南無成就……」

“南無成就須弥功徳神変王如来(なむじょうじゅしゅみくどくしんぺんおうにょらい)”

「へ……?」
神術や仙術には教養の浅い発でも分かる、これは確かに祈祷の類の呪文であると。一体なぜ今、天化が? その総てが込められた疑問符も、
「……これで、王サマを護れるさ」
その一声で天化の唇に浚われた。
まさか毎回していたのだろうか。
発が天化を抱こうとする度に顔を背けてブツブツと文句を垂れていた――そう思っていたあの一連の行動は、発を護るが為だったのだろうか? 
そう問えば
「へへっ」
得意満面の笑顔が答えだ。
「王サマを護れますようにって、護身の呪文さ」
そんな声が、凛とした中に多少の甘えを孕んで返ってくるではないか。
 
愛おしい。いとおしい。
いとおしくてくるおしくてしかたがない。
 こんなにも愛されていたのか。
発の胸中は穏やかな激情に満ちて、そっと寝台に天化を横たえさせる。今更驚いたような恥じらうようなふりで汗ばんだ身体を捩る天化は、どんな高潔な女よりも扇情的で初々しい、神聖な矛盾の魅惑に満ちていた。仔猫の鼻が鳴るような甘ったれたくぐもった声を上げて身じろぐ。それは先の催促か否定か、発には一目瞭然であるが。
「なあ、これも試してみてぇんだ。この間尻が痛むって言ったろ?」
「そ、それは王サマのがデカすぎっから悪いさ!」
「褒めてもなんも出ねぇっての」
「褒めてねぇ! ぐいぐい奥まですっからッ!」
「だからな?」
発の長い指が懐から小瓶を摘まみ出した瞬間飛び上がって真っ赤な身を起こす天化が愛らしい。
「これ使えば天化のだーいすきな奥まで突いても痛くないぜ?」
不審な、訝しいものを見る目で小瓶と小瓶を傾ける発を交互に見ては肩を怒らせる。真っ赤な顔のままで。流れてる乳白色に首を傾げ、そしてくん、と麝香をひと嗅ぎ。
「……あめぇ、さ」
たっぷり十のち、瞳を瞬かせて発を射る。疑いの眼差しだ。
「だろ? お前が好きなバニラの香りも入ってんの選んで来たんだぜ」
――ふうん。いつもの興味薄な返事ではあるが、耳元を赤く染めて言われれば説得力に欠けてしまう。そのままもう二嗅ぎで、
「……ん、まぁ、……使ってやってもいいさ」
恥ずかしさに濡れてもじもじと身悶える護衛様の許可は下りたのだった。

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