提案という名の命令
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瞬身で彼女が現れたのは火影室の前。
コンコンとノックすると、中から入れ、と声が掛かる。
『失礼します。お呼びでしょうか、三代目。』
入ってすぐ片膝をつく彼女に、三代目と呼ばれた老人は優しい眼差しを向けた。
「うむ。ご苦労だったな、ツキーーいや、玲よ。」
『辞めてください、三代目。今の私は"ツキ"でいいのですよ。』
突然呼ばれた本名に、彼女は微動だにせず答えた。
老人は優しく微笑んだまま、顔を上げなさいと命ずる。
ゆっくりと顔を上げたツキは、先程始末した抜け忍と機密文書回収完了の報告をした。
『そうか。ご苦労じゃったの。…してツキよ。お主、もう暗部に入って何年経った?』
その問いに暫く考えると、
『…2年半、ですかね。』
正直今更何年暗部にいたかなどあまり覚えていない。微かに残る自分の記憶を辿り辛うじて出た答えが2年半だった。
「そうじゃな。もうそんなに経ったのか。お主ももうすぐ8の歳じゃ。大きくなったのう。」
老人は彼女を孫を見るような目で見つめる。歳の差からしても孫に相当するのは間違いないのだが。
「そこでわしからの提案なのだがの。お主に暗部の部隊長を任せたいのじゃ。」
彼のいきなりの提案に頭がついていかない。私が部隊長?と頭上にはてなマークすら見える。
次いでぶんぶん、と首を横に振ればそれを否定した。
『先程三代目が仰った通り、私はまだ8の歳。実力はどうにかなっても、経験値がまだまだ足りません。それに私が部隊長を務めるのはまだ早いと言い出す者もいるでしょう。』
「確かにそれはそうじゃ。だがな、わしはツキ、お前に頼みたいのだ。なに、今すぐにとは言わん。お主が自分の実力や経験値に納得いったら、その時は引き受けてくれるか?」
真っ直ぐな瞳で見詰められ、う、と言葉に詰まる。そもそも最初から拒否権などないのだ。これは提案では無く命令。猶予を与えてくれただけまだ良いだろう。
『…分かりました。何年後になるかはわかりませんが、その時は引き受けさせていただきます。』
そう答えた少女に満足げに頷いたのを見れば それでは、と瞬身で消え去る。
「…お主に守ってもらいたいのじゃよ、木ノ葉の未来をな。」
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