増援
::
戌の面をつけた男とツキーもとい玲ーは屋敷の一室に侵入した。
『…大広間のような所でぶつかってますね。大乱闘の予感。』
あたりを物色しながらツキは呟く。
男も頷けば慎重にチャクラがぶつかる気配のする大広間へと足を進める。
『…ゆっくりしている暇は無さそうです。4人のうちの1人のチャクラが弱まった。』
その時。
「誰だァこんなとこにいるのは」
霧隠れの額当てに一本の横線。
「抜け忍さんのお出迎えってわけか。」
戌の面をつけた男はチッと舌打ちをする。
1人の抜け忍を筆頭に後ろから3人着いてきたようだ。
「おーおー、これは木ノ葉の暗部さんかい?俺らと会っちまうとは運がねえこと。」
「さあ…運がねえのはお前らの方だろうよ。ツキ、お前はあっちの援護だ。ここは俺に任せろ。」
『御意。』
走り出そうとしたツキの前に1人の抜け忍が立ちはだかる。
「おーっと、どこに行こうとしてるんだいおチビちゃん。そう易々と逃がすわけねえだろうが。」
その言葉にツキはぴくりと反応した。
『…逃げる?お前達から逃げて何になる?』
ツキは素早く印を組めば、抜け忍はぴし、と動かなくなった。
「な…何を…」
くるりと踵を返せばツキは言った。
『お前らに答える義理はない。…ここはお願いします。』
そう残すとそそくさと大広間の方へ走って行った。
ツキが去ったあと部屋からは、無残な断末魔が聞こえた。
ツキは、壁に背を預け大広間の中を伺った。
黒髪の男の子を庇うように立つ女の子、そして5人の抜け忍に対して二人で応戦する影。
『(…あれは。)』
はたけサクモの息子…確か、カカシと言ったか。それに上忍の波風ミナト。
『(成程。任務帰りに奇襲にあったということか…そして抜け忍達のお目当てはあの巻物。)』
ミナトの腰にしっかりと括りつけられた一本の巻物を見遣る。
二人とも見るからにチャクラの消耗が激しい。
考えるよりも先に、動いていた。
『巻物が欲しいなら、私を倒してからにしな。』
素早く印を組むと、カカシとクナイを交わしていた抜け忍を一人幻術にかける。
「あ、暗部?」
立ち竦んでいた女の子が気の抜けたような声で呟く。
『どうも、木ノ葉の暗部です。…状況は?』
「このフォーマンセルである巻物を受け取るっていう任務に出たんだけど、ここの屋敷の近くを通った時に中から悲鳴が聞こえてね。里の近くだし、こうも人数がいるとは思わなくて…恥ずかしながらこちらが劣勢だ。」
ミナトは敵と対峙したままそう告げる。
『成程。状況はわかりました。あなた方のチャクラ切れが今一番起きてはまずい状態ですので、ここは私に任せてください。』
「だらだらと何を話してんだっての。こんなクソガキを暗部にするとは、木ノ葉も落ちぶれたものだなぁ!」
話している間がチャンスだと思った抜け忍はツキに襲い掛かる。
しかしツキは鳩尾に思い切り肘を入れる。
『五月蝿い。これからこのクソガキにお前らは殺されるんだよ。…ミナトさん!カカシさん!下がれ!』
と大声で叫ぶ。
弾かれたように二人は後ろにいた二人の傍へ飛ぶ。
『獅子結界!』
ツキの手から獅子が赤い光を纏って飛び出たかと思えば、その光は四人を守るように結界を張った。
『その結界の中ではチャクラが回復します。おまけに怪我まで治ってしまう優れものなので、その中にいてください。一歩でも外に出たら命の保障は出来ませんよ。』
驚いたように四人は結界を見る。
「チャクラの回復に傷の治癒…これは…」
「あの子は凄い技を持っているようだね。」
結界の外で5.6人の抜け忍を相手する小さな影を目で追う。
「あの暗部は一体…」
カカシの小さな呟きに、ミナトは外を見たまま言った。
「彼女は飛び級に飛び級を重ねて暗部に入隊した子だよ。上忍の間でも噂になっていてね。…まさかここまでの強者だったとは、思わなかったけど。」
ツキは抜け忍達の攻撃をのらりくらりと交わしていく。
「なんだぁ嬢ちゃん。交わすだけじゃ俺らは倒せねぇぜ!」
その言葉にツキはハッ、と笑う。
『こんな事にも気付かないとは…よくお前達抜け忍になれたな。』
彼女の言葉に目を見開く抜け忍。だが時すでに遅し。抜け忍達の攻撃を避けるようにして、彼女は抜け忍達をある場所に誘導していたのだ。
「う、うわぁあぁぁああ!」
いつの間にか床に書かれていた陣へ誘導された抜け忍達。その陣からパキパキ、と小さな音が響く。
『秘伝、氷結龍』
足元の奇妙な紋様から龍頭のようなものが抜け忍達の足を這い上がっていく。
『さよならだ。』
龍頭は抜け忍の首元まで這い上がる。
パチン、とツキが指を鳴らしたその時。
からんころんと氷が転がるような軽快な音だけが大広間に響いた。
「秘伝…だと?先生、彼女は、「カカシ、彼女は僕より強い。」
目の前で秘伝を見たカカシは驚いたように声を上げるが、ミナトに止められる。
三人は目を見開いた。
「先生より強い…って!どういうことですか?!」
その言葉に驚いた少女、もといのはらリンは叫ぶ。
「そのままの意味だよ。見たところ、彼女のチャクラは一ミリも減っちゃいない。秘伝を使う上あの身のこなし方…只者じゃないよ。」
降参、とでも言うようにミナトが両手をあげる。
それと同時にツキが結界の方へ戻ってきた。
『お待たせ致しました。皆さんお怪我は?』
結界を解除しながら四人に問うが、全員首を横に振った。
『良かった。では私はここで失礼します。…巻物、火影様へしっかりと届けて下さいね。よろしくお願いします。』
ぺこりと効果音が聞こえてきそうなお辞儀に四人が同じようにお辞儀で返す。
顔を上げた時には、そこにはもう彼女の姿はなかった。
「ツキ…か。」
カカシはうわ言のようにぽつりと彼女の名を呟いた。
prev /
next