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「他に大切な人ができたの。」




「京治」

「どうかしましたか?」

結婚して一年が経つのに、未だに先輩と後輩だった関係が残っているのか、京治は今でも敬語を使ってくる。


「あのね」

そう前置きしてソファーに座る京治の隣に腰を下ろした。
読んでいた本を置いて、こちらをじっと見つめてくる。

「いいお知らせと悪いお知らせどっちから聞きたい?」

「……はい?」

私は今、京治に伝えなきゃいけない二つのお知らせがある。
だから聞きたい方から言おうと思ったの。

「なんですかそれ」

「二つのお知らせがあるのよ」

「…じゃあ悪い方から」

ふぅ、と息を吐いてから京治を見つめれば、少し緊張した面持ち。




「あのね、京治より大切な人ができたの」




今の京治の顔を見れるのはきっと最初で最後だろう。



「なん、ですか…それ」

ごめんね。

「誰ですか…」

それはまだ言えない。

「俺は、ずっとなまえが好きです…。それはこれからも変わりません……」

京治は優しいね。

「でも、なまえの気持ちが変わってしまったなら…」

ふふ、そろそろ悲しませるのはやめてあげようかな。


「…なに笑ってるんですか」

「ごめん。いいお知らせの方教えてあげようか?」

涙目の京治の手をとり、自分のお腹に当てる。

「赤ちゃんができたの。私と、京治の。だからしばらくは京治よりこの子の事が一番になっちゃうかもなぁ」

京治は驚いた顔をした後、安心したように笑った。
そしてニヤニヤしていたらら頭を軽く叩かれた。

「ホントに悪ふざけはやめなさい」

「えへへ、びっくりさせようと思って」

すると今度は優しく抱きしめられた。


「光太郎達にも教えなきゃね」

「木兎さん、大量のおもちゃとか持ってきそうですね」

「あははっ、確かにね」

その姿、すぐ想像できた。



「……京治、パパだね」

「嬉しいです。とても」

「よかった」


京治はおでこに触れるだけのキスをしてくれたあと、


「なまえ、愛してる」


私が世界で一番嬉しい言葉をくれました。






「他に大切な人ができたの。」
(「なまえ!走るのはやめてください」)





あとがき

赤葦くんは妊娠中、過保護になりそうですね。


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