カミサマ、ありがとう
(永遠の恋に の続きです。)
影山と別れてから一年がたった。
三年生だった日向、月島、山口、そして影山はもうすぐ引退。
もう影山達も引退かぁ。早かったね。
どうしても影山がプレーしている姿をもう一度だけ見たくて、こっそりと体育館へ向かったことがある。
卒業生と言えば簡単に入れてくれた。
私服だと目立つと思って、なるべくシンプルな部活着みたいな格好にした。
そんな自分の姿を見て、
「馬鹿みたい…」
そう思った。
私は大人ぶって影山に「幸せになってね」なんて言ったけれど、全然吹っ切れてなくて。幸せにはなってほしい。それは本当だけれど、今でもどうしても影山が好きで…。
体育館に近付けば聞こえてくるボールの音と部員達の声。
こっそり覗けば、影山の姿が見えた。
日向、月島や山口も大人っぽくなっていて、なんだか感動してしまった。
もちろんマネージャーの女の子達も見えて、やっちゃんと、そして他にも二人マネージャーがいた。
二人ともとても可愛くて、「ああ…どちらかが影山が好きな子なんだなぁ」なんて思ったり。
こんな惨めなことやめよう。
そう思って私は急いで学校を出た。
もうあそこへ行くのはやめよう、そう誓った。
誓った…のに、その日の夜。
「もしもしーなまえー?」
「おー菅原?」
菅原からの電話。珍しい。
「そ。明日さー大地とか旭と久しぶりに部活見に行くんだけど来ない?」
「え……んー、行こう、かな」
「分かった!じゃあまた明日連絡するなー。あ、清水にはなまえから連絡してみて」
「うん、分かった」
……行くと言ってしまった。
行かないと誓ったばかりなのに、堂々と影山のプレーを見れると思ったら、思わず口が…。
ため息をついて、でも明日を楽しみにしている私がいた。
「おおおお!大地さん!スガさん!旭さん!き…清水さん!なまえさん!お久しぶりっすーーー!」
満面の笑みでこちらへ走ってくるのは日向。
見た目は大人っぽくなったのに、この感じは昔のままだね。
「よーっす!元気かー?」
「久しぶり」
「おー、変わってねーなぁ」
懐かしい。
この楽しかった高校時代に戻りたいな、そう何度思ったか。
「うわあああやあぎゃあああん!!!!」
なんて奇声を発しながらやってきたのは、
「やっちゃん!」
「お久しぶりですうううう」
私と潔子に駆け寄ってきて、泣きながら喜んでくれた。可愛い…。
「マネージャー二人入ったのね」
潔子が言えば、勢い良く頷いた。
「二年生一人、一年生一人です!あまりにも希望が多くて…。面接して一人ずつにしたんです」
そうなんだ…。
私が二人のマネージャーを見れば、二人ともぺこりと頭を下げて、こちらへ駆け寄ってきた。
「あ、あの、潔子さんと、なまえさん…ですよね?」
「え、うん。なまえです」
「二年のマネージャーの更科です!仁花さんに凄い美人のマネージャーさんが二人いたんだよって聞いてて、写真とかいつも見せてもらってて、憧れてたんです」
「一年マネージャーの山岡です。私も一度お会いしたいって思っていて…!」
更科……影山がいつも話をしていた人。きっとーー影山が好きな人。
二人の言葉はおだててるわけでも、社交辞令でもないのがわかる。
物凄く純粋な笑顔で、なんだか辛くなった。
こんなに可愛い子、憎めない。
「潔子は美人だけど私はそんなことないよ」
なんて笑って。
「でも部員の皆がなまえさんが大好きだったって」
確かに部員達には大事にしてもらった。
だからこそ私も大事にしてた。
……懐かしいなぁ。
「じゃあゲームやんぞー」
って声がかかって、部員もマネージャーも私達に頭を下げてコートへと走った。
私達はコート傍に座って見学する。
「懐かしい…」
思わず口に出てたみたいで、潔子に「そうね」って笑われた。
影山。かっこいいね。昔から変わってないね。
「なまえ…?」
「え……」
「泣いてるの…?」
自分の頬を触れば、水に触れた。
水じゃない、涙。
「あ、はは…なんか懐かしくて」
なんて誤魔化して。
違う。本当は影山がプレーしてるとこ見たら、涙が止まらなくて。
「ごめん。私、帰るね」
それだけ潔子に言い残して、私は急いで体育館をでた。
「あ、あの!!」
振り向けばそこにはマネージャーの女の子。
二年生の……更科ちゃん。
「…どうかしましたか?」
「ううん。なんでもないの」
心配そうに私を見つめる瞳は優しくて、ああこの子となら影山はきっと幸せになれるって思った。
「影山のこと、どう思ってる?」
よくわからないけど、そう私は聞いていた。
更科ちゃんは不思議そうな顔をしている。
「あ、えっと…影山からあなたの話をよく聞いていたから」
「なまえさんと影山さんって…」
「うん。付き合ってたけど別れちゃったの。部員は皆知ってるでしょ?」
更科ちゃんは、少し困った顔をしてから、小さく頷いて私をしっかりと見つめてきた。
「あの!影山さん、いつもなまえさんの話してました」
え…?
「なまえさんがどんどん大人になっていってどうしたらいいか分からない。追いつけない。自分は子どもだ、って」
影山が、私の話……してたの?
「最近どう接したらいいか分からなくて、どんどん距離が離れてしまってるって…。だから、別れを告げられても受け入れるって。でも、なまえさんのこと大切だから……大人になったらーーーーまた迎えに行くって」
涙がとまなかった。
溢れて溢れてどうしようもなかった。
更科ちゃんは慌てて駆け寄ってきて、泣きそうな顔をしていた。
「影山はいつもあなたの話をしていて……あなたのこと好きなんだって思ってたの…」
「ええっ!?私はいつも影山さんからなまえさんのこと聞いていただけです。惚気話ばっかりでしたよ」
苦笑いで言うってことは、影山は呆れるくらい、いつも私の話をしていてくれたんだろう。
「それに私、彼氏います」
少し照れたように小さな声で、そう言う更科ちゃん。
「私……影山とちゃんと話すね。伝えてないこと、たくさんあるから」
「はいっ!今度影山さんとの惚気話、聞かせてくださいね」
更科ちゃんの笑顔に見送られて体育館へと走る。
ちょうど試合が終わり、休憩していた影山の腕を掴んで体育館の外へと連れ出した。
「ちょっ…なまえさん!?どうしたんすか?」
いきなり連れ出され、驚いたようにこちらを見つめる影山。
体育館裏で立ち止まって、私は叫ぶ。
「…っ好き!大好き!今でも影山のこと大好きだから!ずっと、ずっと前から大好き!その気持ちだけは何も変わってない!!いつも子どもみたいにヤキモチやいてたのに、大人ぶってたの…。嫌われたくなくて」
……言ってしまった。
ずっとしまってた気持ち。
年上だからって我慢してた子どもみたいな私の気持ち。
影山は目を見開いて驚いた後、ズルズルと壁を伝ってしゃがみこんだ。
「なんだよそれ…最初っから言えよ」
私もしゃがんで影山の目線に高さを合わせた。
「ごめんね。私、ちっとも大人なんかじゃない。幸せになってね、なんて言っておきながら、ずっと影山のこと考えてた。誰にも取られたくないって」
「……俺、好きな奴なんて出来てねーよ。俺が好きなのはずっとなまえだけだ。でも子どもの俺なんかなまえに釣り合わねーって思ってた」
私はゆっくり首を振ったあと、影山をしっかりと見つめた。
「ねぇ、大好きだよ」
私の想い、全部伝わった?
「おう…。俺と、もっかい…付き合ってほしい」
「……ばか。当たり前でしょ」
影山の想い、全部伝わったよ。
これからは、ずっとそばにいてね。
「影山、いつも私の話してたって?」
「……っ、なんだよそれ」
「へへ、嬉しかった」
「……うるせーよ」
カミサマ、ありがとう
(これからも二人で歩んでいける)
あとがき
切ないままで終わらすか、ハッピーエンドにするか迷ったんですけど、こんな感じの話にしちゃいました。
影山くんとなまえちゃんは、きっと結婚すると思います。
ちなみに更科ちゃんの彼氏は実は決まっています。
なぜ影山とこんなにも仲が良いのかというと、あの人が彼氏だからです。
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