夢 | ナノ


▽ 8.玉こえて


こんばんは、橘由夜です。
今日の昼、なんやかんやで悪霊に殺されかけました。

もう命を諦めようとしたところ、たまたま現れた白澤さん(自称神様)によって、命の危機を救われました。

ですが、今また私は命の危機を迎えてます。


8.玉こえて


「お久しぶりです死ね白豚!!!」

「ぎゃあああああああああ!!!!」

ガッシャッーン!!という破壊音とともに、私の玄関が崩壊してる。いや、玄関自体は大丈夫なんだけど、玄関の惨状が崩壊してる。大きく私の日常から逸脱している自体が起きている。玄関で。
私の命の危機というより、白澤さんの命の危機というほうが正しいか。もう危機というか、彼の命の灯は消えるかもしれない。

私は白澤さんと共に無事に動いた電車を使って帰宅し、ラスボス・魔王の部屋に向かう勇者の気持ちでドアを開けると、やはりそこには大魔王が仁王立ちしていらっしゃった。

そして私に一瞥くれると、すぐさま私の隣に控えていた白澤さんへ向かってドロップキックをかましたのだ。
今は夜なのだ。こんな大騒ぎをしていたら今度こそ、苦情が来る。

だけど、ドロップキックを見ている側が気持ちよくなるくらいマトモにくらって倒れ込んだ白澤さんへ、追い打ちをかけるように彼の頭に蹴りを叩き込んでいる鬼灯さんに、そんな文句なんていえない。言える、わけがない。
はたから見ても見なくても、完全にヤンキーの喧嘩である(一方的)。

家に帰るまで、白澤さんは自分がどれだけ鬼灯さんのことを嫌いなのか実体験を交えて話してくれた。
どうやら彼は、私と出会った時から鬼灯さんが近くにいるらしいということがわかっていたらしい。漫画・アニメでいう妖気とかそんなんを感じ取ったのだろうか。
彼らが古い付き合いであること、お互い東洋医学の研究をしていること、なにかと反りが合わず、出会えば毎回(周りを巻き込んでの)喧嘩になる。等々。
二人の「古い付き合い」っていうのは人間の物差しでは測りきれないくらいの差がある。おそらく50、60年どころの付き合いじゃないんだろう。
それでも相容れないんだから、相当仲が悪いんだろうとは踏んでたけど…

(ここまでなるかぁ…)

「お前!!出会いがしらドロップキックしてくる奴がいるか!!しかも室内で!!」

「黙れ白豚。お前の調合した薬の件、忘れたとは言わせませんよ」

「しょうがないだろあの擬態薬はウチじゃあ取り扱ってないんだから!似せて作ってやっただけでもありがたく思え暴力官吏!!」

「眠気を誘う成分を足したでしょう、おそらく故意で」

「………………」

「おい目をあわせろよエセ薬剤師」

やはりわざと盛りやがったんですね死んで償え、ぎゃぁああああ、とまたも一方的ないたぶりが開始された。
うん、でもこれ話聞いてる限り否があるのは白澤さんだよね。

やっぱり鬼灯さんと出会った初日、異常なほど彼が眠っていたのは白澤さんの作った擬態薬のせいらしい。道理で、薬のことを突っ込んだら機嫌が悪くなったわけだ。

「…それで、由夜さん」

「は、はいぃッ!?」

他人事と少し思っていたら、いきなり私に話題が変わっていた。多少イライラが(白澤さんで)解消したのか、冒頭の魔王の雰囲気は僅かに和らいでいる、気がする。

「何故こういう事態になったのか、説明できますよね?」

はいorYES。
そんな雰囲気です、鬼灯さん。魔王のオーラは健在だった。





危うく白澤さんが外で放置される流れだったので、なんとか鬼灯さんを説得して部屋に上げてあげることにする。
ボロボロの白澤さんを廊下に一晩放置は、流石に可哀想だ。
というより、もしそのまま放置しててご近所さんの人にでも見つけられたら嫌だからだ。相変わらず純粋な好意がないなぁ、自分。
しかも今度は怪我だらけの白澤さんだ。無傷で寝てた鬼灯さんとは見つかった時の非難度が尋常じゃない。最悪、誤解を招いて警察がくるかもしれない。嫌すぎる。

とにかく部屋へあがり、私はコップ三つにお茶を入れてリビングへ戻る。戻ってみれば、ベッドにもたれるようにして二人が座布団に座っていた。ある程度二人の間に距離があるのがまた面白い。

しかしこうして並んでいる二人を見ていると、やはり二人とも似てるなぁと漠然と感じた。
これいったら二人とも絶対怒るけど、似てるもんは仕方ない。親戚と言われたほうが納得するほどだ。そういえばさっき立って並んでたときも、身長が同じくらいだった気がする。

「由夜さん」

「はいっ!」

いかなり呼ばれてまたもビビッてしまった。それを見て、隣の白澤さんが口を挟む。

「お前もうちょい優しく接することできないの?由夜ちゃん怖がってんじゃん」

「黙ってろ偶蹄類」

「ぐ…!?…あのね、仮にも由夜ちゃん女の子なんだからさぁ…」

白澤さんフォローありがとうございます、だけど一つ反論させてください、仮にもと言われなくても私は女の子です。

「……あの、私鬼灯さんにメールしましたよね?」

再び言い争いに発展しさらに喧嘩へ発展されたらかなわないので、無理やり話題をもとに戻した。
そう言えば、二人の視線はこちらを向き、居住まいを正す。
良かった、室内で殴る蹴るの沙汰になってはほんとにどうしようもないからな。

「メールというと?」

「電車が動かず、タクシーも使えず帰れないので、駅で待機してます、心配しないで…っていう内容の」

交通手段がないので、仕方なく駅にいたら悪霊に追い掛け回されて、逃げてたら林の方に迷い込んじゃって、危ないとこを白澤さんに助けてもらったと。簡潔に説明する。
聞き終わると、鬼灯さんは僅かに顔をしかめて自分のケータイを取出し操作しはじめた。
それを隣の白澤さんが覗き込み、苦い顔をして言った。

「うわぁ、なにこれ」

「え?」

なんか気味の悪いことでもあったのか、と思っていると、鬼灯さんがケータイを差し出してきた。受け取って画面をみれば、

「…うわ」

『すfj;い、電jfslrh障でl「えず8423rqp、%$R’%話も_\/:>}S24rd4f悪いsrd)P:;:]す。電wqsが;lJで○○*p@l{機し+}Lす_?_。心*}78;lいIIIIIIIIIIIIIIIlll[$%&$'$R'3444(%&&』

意味不明な文字列のメール。なんだこれ。思わずケータイから顔を遠ざける。

「それ、あなたから送られてきたメールですよ」

「嘘!?わたしこんな滅茶苦茶な文章じゃなくて、ちゃんと…」

といって自分のケータイの送信フォルダを呼び出して見せつければ、私が本来送った文章が出てくる。鬼灯さんと白澤さんがそれを見て、「たしかに」と頷いている。

「ちょいちょい原型は見て取れるね、これでも」

「ほんとに部分部分ですね…」

「由夜さん、このメールを送ったのは、ケータイに表示されてる時刻で間違いないですね」

確認してみれば、20XX.07.30.17:03。たしかにそれくらいの時間だったと思う。
頷けば、鬼灯さんは自分のケータイのさっきのメールを開いて日付を指さした。

見てみれば、5987.33.41.90.09と表示されている。

「こちらのメールの日時が滅茶苦茶なので、やはり通信障害等ではありそうにないですね」

「日付ってかただの文字列だね、ここまでくると…」

「う、うそ…」

じゃあやっぱりあの時ノイズが妙にかかって鬼灯さんに電話できなかったのも、このメールがこんな解読不能に書き換わっているのもあの悪霊の…

「それにしても、由夜ちゃんは幽霊とか悪霊とかに好かれやすいみたいだね」

と、白澤さんが言ったので、はたと思う。
そうだ、この人にはあんな状況からの出会いだから、私が霊感らしいものがあるってことは言ってなかったんだな。

「あの悪霊たちだけでなく、違う妖怪とか幽霊とかも見えるの?」

「は、はい…」

「というか、今日襲われた悪霊は一匹じゃなかったんですか」

と咎めるような視線を受けてさらに縮こまる。

「そういう重要なことは早く言いなさい」

「スミマセン」

「由夜ちゃんにとってトラウマなんだから、忘れてても仕方ないだろ?」

ここでまたも二人の間で火花が散り始める。私は学習した。この二人を並べて座らせたらダメだ。
よし、今度から私が間に入って座ればスムーズに会話が進むはず。

あれ、でももし二人が私を挟んで喧嘩を始めたらどうするの私、逆に逃げ場がないよ。巻き込まれるよ。

「…悪霊が群れで活動するのって珍しいことなんですか?」

とにかく部屋に被害が及ぶ前に軌道修正する。話題を振ればどっちかが答えてくれるからありがたい。

「滅多に…というか聞いたことがありません。そもそも群れるほど悪霊が現世の、一つの地域にいること自体稀です」

「そうなんですか…」

「ここに落ちてきたときも思ったけど、ここら辺妖しいの多すぎでしょ。僕も現世で悪霊に襲われてる人間なんてものすごく久しぶりにみたよ」

「多いという言葉でまとめ上げられる物ではありません。早急に大王へ連絡し、なにかしらの対策を行うべき状態です」

そ、そんなにここらへん危ないんですか。鬼灯さんの言葉に治安の悪さを再確認する。いや、普通の人にとって安全なのかもしれないけど、私にとっては最悪な場所という訳だ。

「というか、鬼灯さんもやっぱり現世に来たとき、ここらへんを妖しいと思ってたんですか」

「はい。それで特に違和感を感じるあたりを歩いて回っていたのですが」

眠気に負けて私のマンションの前で寝たと。
ていうかちょっと待って、今鬼灯さん「特に違和感を感じるあたり」っていったよね。
ということは私のマンション、悪霊とかがいっぱいいる地域でも特に嫌な雰囲気を放っているかもしれないってこと?
それってやっぱり、このマンションにはなんか厄介な悪霊がいるってことですかね。

「ひ、引っ越ししたい…!!」

「それが一番安全だよね」

「できればの話ですがね」

腕を組んでベッドに持たれていた白澤さんが、思いついたように続ける。

「ああでもさ、お前が感じた「違和感」っての、もしかしたら悪霊のせいだけじゃないかもしれないじゃん?」

「え…どういうことですか…」

鬼灯さんは黙って白澤さんの方を横目で見ている。続きを促しているようだ。

「つまり、由夜ちゃんだよ」

「私?!」

ビシッと指を指されて言われ、思わずのけぞった。瞬間、鬼灯さんから「指を指さない!!」という喝を平手と共に入れられて涙目になっていたが。
え、いやいや、ちがくて。
なんで私がこのマンションから二人が感じたらしい「違和感」と関係があるわけ?
しかし、私の頭も随分この手の話題に慣れたらしい。もしかして、と一つ思い浮かぶ。
それを察したように、白澤さんが頷いた。

「そ、由夜ちゃん。由夜ちゃんて、悪霊とも妖怪とも、亡者とも人間とも違う、独特な雰囲気があるんだよね?」

同意を求められた鬼灯さんもお茶を飲みながら頷く。

そういえば、たしか鬼灯さんに私が幽霊とかの類が見えるって話した時に「霊感というには強すぎる」と呟いたことを思い出した。

なんか、この人たちと話してるとどんどん自分が人間じゃないんじゃないかと錯覚してくる。
……まぁ地獄の鬼と神獣と話してる時点で人間と言い切れないかもしれないけど!!

「………。」

鬼灯さんが無言でコップをテーブルに置き、腕を組んで黙りこくる。
白澤さんは少し間を開けて、

「大丈夫だよ」

といってテーブルから身を乗り出して、向かいの私を覗いた。
視線を白澤さんへ向ければ、それよりさきにふわりと頭に優しい感触を感じる。

頭を撫でられてる。

白澤さんはにこりと私を見つめながら笑うと、

「由夜ちゃんは人間だよ。それはれっきとした事実だ」

「…え」

「だから、幽霊とか妖怪が見えるってだけで自分を責めちゃだめだよ」

安心して。と笑う白澤さん。どうやら私の考えの考えていることは筒抜けらしい。
たしか鬼灯さんにも見抜かれたことあったよな。

「…そんなに顔にでてますかね、私」

「うん」

「わかりやすいですよ」

「なんか悔しい…」

「可愛いなぁ由夜ちゃん」

「かわっ、!?」

「由夜さん、この男の口は信用してはいけませんよ決して」

「な、なんでです!?」

「これは大層な女好きですから。毎晩女性と寝ないと死ぬと公言するような淫獣です」

「えっ…」

「ドン引かないで由夜ちゃん!!そして頭拭かないで!!」

思わず近くにあったハンカチで、さっき撫でてもらったところを押さえてしまった。
うん、女性の扱い上手そうだなとは思ってたんだよ。でもまさかそんなに女好きだとは思わなかった。





彼女がお風呂に入ると言って、鬼灯と自分は手持無沙汰に待機となった。
この鬼と同室にいるというだけでも嫌気が刺すが、出て行っても行く当てはない。

鬼灯といえば、テレビのニュースを肘をついて見ている。
ふと思いついたことがあって、口に出してみた。また殴られるかとも思ったが。

「そういえばさぁ」

「なんですか」

「さっきはあんな言い方したけど。お前も優しいところあるのな」

そう切り出せば、今までニュースから動かなかった鬼灯の視線が僕へ移された。
何が言いたい、と暗に語っている。

「私はいつも優しいですよ」

「笑えない冗談。お前があの子の為を思って、何も言ってなかったことを言ってるの」

不快だといいたげに、鬼の目が細められた。

「…何を言っているのかよくわかりかねます」

「由夜ちゃんが不安になると思ってたんだろ」

ここらへんから人間とは異なる違和感を感じる。その原因は君だ。そう言えば、だれでも自分について思い直すだろう。
由夜ちゃんは特に普通の人間には見えてないモノが見えてるみたいだし、尚更。自分が本当に人間なのか疑問に思うだろう。

そう思うと、自分が何であるかを証明しようとする。しかし、いざ自分が人間であることを言葉で証明しようとなるとこれが難しいのだ。

もし、由夜ちゃんがそう考えてしまったら。彼女を人間と証明するよりも、人外であることを証明するほうが容易なことに気がつくだろう。普通には見えないものが見えること。それだけで、人外と説得するには十分らしいのだ。人間の間では。
そのとき、彼女はきっと。

「考えてませんでしたよ、そこまで」

と、鬼灯は半ば僕をにらみつつ言った。

「…そう?」

「そうです」

「そのわりには、由夜ちゃんになにも言わなさすぎだと思ったんだけど。彼女、いろいろ初耳って顔してたよ」

「由夜さんはまだご健在の人間です。必要以上にこちらの世の事情を話すことはありません」

がちゃりと脱衣所からタオルを被った彼女が顔をだし、お風呂空きました、と言う。その顔には、不安や悲しみといった不のそれはまったく感じられない。

もう話は終わったいうように、鬼灯は着替えを持って立ち上がった。
その後ろ姿を見つつ、

「おーい」

「なんですか」

「忠告。お前は黙ってれば丸く収まると思ってるんだろうけど、それ、大間違いだから」

「は?」

眉根を寄せ、わからないといった表情。あまりみたことのないこの鬼の表情に、僅かに優越感を覚えた。

「鬼灯さん、お次どうぞー」

「はい」

そう言われ、鬼灯は脱衣所へ引っ込んだ。
乾かした頭にひっかけたタオルをなびかせて、由夜ちゃんがやってくる。お風呂上りの女の子独特の、シャンプーの香りが鼻腔を擽る。
ふと自分の家を思い出した。

「いいお湯だった?」

「はい!」

ふわりと笑い、ニュースから特番へチャンネルを回す彼女はやたらと無防備だ。胸元が開いたTシャツ、短パン。男二人と同居している家での恰好とは思えない。
鬼灯はこんな精神攻撃にもう二日は耐えてるのか、すげぇ。と思わず感心してしまう。
鬼灯ならまだしも、初対面で尚且つ女好きとわかった僕にはもっと警戒したほうがいい、と他人事のように感じた。

瞬間、左顔面に強い衝撃が走る。

思わず星が瞼のうちで瞬いた気がして、暗転した視界のまま床に倒れ込んだ。

「うわぁあ白澤さーん!?」

頭上で彼女のこえがすると共に、心なしかさっきよりオクターブ低い声が響いた。

「白澤さん、言わないでもわかると思いますが、私のいない間に変な気でも起こそうものなら…」

わかってますね?といわれるが、答える余裕はない。今でも頭から血がどくどく出て行ってるのを感じる、ちょっ、待ってこれ死ぬ。
涙でにじむ視界の中、目の前にあったものを手探りで探れば、おそらく由夜ちゃんのものと思われるハンドクリームの小さいボトルだ。

「これであの威力って…」

これ以上重いものを投げつけられたらほんとにくも膜下起こして死ぬぞ。
さっきからかい半分で挑発した自分に、とりあえずしばらくは由夜ちゃんには手は出せないと思い直した。




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