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何年かぶりの日本の空気をさほど楽しめずに、俺は目の前の狸ジジイの前に腰をかけた。ジジイのせいで色々と半分くらいが台無しな気分だ。無駄にふかふかな椅子に身体をどっかりと埋めながら俺は気だるげに問いかけた。
「んで?海外で養生していた俺を呼んだ理由はなんなのさ。俺としてはもう少しあっちの病院友達と過ごしていたかったんだけど」
「もうとっくに病気は完治しているだろう。そろそろ日本のちゃんとした学校に進んでも良いところだと思ってな」
ジジイとは言っているが、れっきとした俺の父親である。ただ少し性格が狡猾というかなんというか。よく俺も似ていると言われるが、ジジイほどでは無いと思っている。
「学校っつったって……、向こうの大学でも別にいいじゃねーか」
特に将来の予定が決まってない俺にはどこの大学を出ようが変わったもんじゃない。わざわざ呼び戻すなんて大げさだ。まあ多少学歴がジジイが望むようなものじゃないにしても、俺にそこまで求めてないだろうに。
「…大学?ああ、すまなかったな。言い方が悪かった。お前がこっちで通うのは高校だぞ」
俺は一瞬耳を疑った。
「あれ、おかしいな持病の難聴が……。今なんて言った?」
「病気が多い奴だな。まあいい、お前が通うのは高校だ」
おかしいな、今度は持病の頭痛が…。
「おい待てジジイ。俺はもう19なんだが?」
「それがどうした」
「高校ってーのは16から18の奴が通うとこだろ!」
「ほう、よく知ってるな」
「馬鹿にしてんのか」
そのケロっとしたような顔を無性に殴りたくなった。
「日本の最終学歴が中卒のお前には十分な処置だ。安心しろ、病気で通えなかった特別処置として入れるからな」
「海外でスクール出てるからいいだろ」
「通信制だろう」
「何が悪い」
通信制すばらしいじゃないか。今全国何万の通信制学生を敵に回したぞ。このご時世なんでもインターネットでかたずけられるのはすばらしいことだ。…いや、俺は決して引きこもりというわけではないからな。ただ病室から出るタイミングが無かっただけで…。
「大体、今の時期だと編入だろ?編入試験とかあるんじゃねーの?」
「大丈夫だ。やったことにしてある(・・・・・・・・・・)」
「……裏口かよ」
いやだねえ、金でなんでも解決するって。
「どうしても通わなきゃだめなのか?俺、家の跡取りとかにならなくていいんだろ?」
「それでもお前は満佐治(みつさじ)家の子供だからな。それ相応の学校を出てもらわなくては困るぞ伏弘」
こりゃ駄目だ。ジジイは本気で俺を学校に通わせたがっている。せっかく日本に来たから観光だけしてさっさと戻ろうかと思ったけど。
「それに……」
「あ?」
「いや、なんでもない。行けば分る」
突然含み笑いをしだしたジジイに若干引く。全体的に意味深な言葉を吐いていったが、この狸の頭のおかしさは今に始まったことではないので気にするほどでもない。
「……それじゃあ、俺が通う学校ってどこなわけ?」
「ああ、それは……」
(しばざき担当)
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