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窓硝子越しに見る風景は、いつの間にか変化していた。
つい先日までは、満開の桜がまるで粉雪のように薄桃の花弁を虚空に遊ばせていた。
今、俺の眼に映るのは、新緑の並木道。
晴れやかな五月の太陽光を弾くのは、青々とした葉だ。
知らぬうちに時が過ぎていた事実に、今さらながら気付いて苦笑が漏れた。
「いやになるな……まったく」
この学園の生徒会長に就任してから、もう半年以上が経過している。
権力に見合った責任を負うことに不満はなくても、季節すら満足に味わうことの出来な
い多忙な現状には辟易する。
来る日も来る日も、仕事、仕事、仕事。
何一つ変化のない、ルーティンワーク。
退屈で、窮屈で、変わり映えのない日常に頭がおかしくなりそうだ。
変化が欲しい。
俺は今、変化が欲しい。
「藤代 篤志」という男の人生に、一度でいいから「退屈」以外の思い出を残したかった。
馬鹿なことだ。
俺の人生はすでに決まっていて、今までも、そしてこれからも、予定調和の中でしか生きられない。
変化を望んだところで意味はなく、この平和で歪な日常を消化して行くしか道はない。
束の間の現実逃避から抜け出して、俺は窓の外からパソコン画面へと視線を戻した。
新着のメールは事務所からだ。
行事関連の申請は済んでいるし、費用の問題も既に解決済みだ。
内容の見当がつかぬままクリックすれば、ディスプレイに表示されたのは意外な文字。
一呼吸分の間を置いて、俺の唇からは笑い声が零れた。
「珍しい、俺の願いが叶うのか」
他に人がいないのをいいことに、俺は浮かれた口調で呟いた。
メールの件名は「編入生のお知らせ」。
退屈の終焉を望む俺の前に、変化の兆しが訪れた瞬間だった。
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