ぷれぜんと | ナノ


「ねえなまえ、本当に、ホントーに、告白しなくていいの?」
「だから良いの、わたしはここから見てるだけで幸せなの」

わたしは、斜め前の席にいる反ノ塚くんが好きです。でも、告白はしません。幸せそうに眠る彼の横顔を見ているだけで良いのだ。
だって彼はたぶん野ばらさん、という人が好きだから。野ばらさんの話をするときの彼はいつもに増して穏やかなのだ。
後悔するよ、と友達に言われたけど届くはずないんだから、後悔するような出来事が起こるわけないって思ってた。
でも、わたしが思ったより案外早くそれは訪れた。

その日の放課後、彼が嬉しそうに下校するのを目撃したのだ。しかも、とても綺麗な女の人(たぶん野ばらさん)と帰るところを。

その瞬間、世界から落っこちたような気分になった。彼をみていてきゅう、と心が鳴ることはあったけど、ぎゅう、と締め付けられるような気分になったのは初めてだった。

次の日友達にその事を話したら、「だから早く告白しなさいっていったでしょ」と一括された。

迫り来る友達から目をそらした先に反ノ塚くんがいた。彼はあの綺麗な人をまっているのかな。あ、また胸がぎゅう、って鳴った。おまけにちくちくする。

ふう、と友達が息をつく。

「玉砕覚悟でいってきなさい」
「え。っええ、ええええええ!!!?」
「大丈夫よ、反ノ塚もあんたのことすきよ」
「え、いや、それ全然、大丈夫、じゃな、い」
「ずっと好きなんでしょ?一緒にいたいんでしょ?」
「うん、・・・好きだよ、」
「じゃあ大丈夫だ。よし、行ってこい!」
「っ、うん!」

その言葉が合図だったかのように、わたしは廊下を駆け出す。彼のもとへ向かいながらわたしは思った。

「届かなくてもいい」なんて嘘。
ずっとずっと好きなのに。届くだろうか、彼に。でも、言わなきゃ。言わなきゃ、届かない。

さっき見つけたとこ、反ノ塚くんがいる場所まで走る。帰っていないだろうかと不安が頭をよぎったがそれはもう考えないことにする。

そして、黒い影を見つけその背に声を飛ばす。走ったせいで、顔が熱い。おまけに息も絶え絶えで髪だってぐしゃぐしゃ。なんて格好だろう。でも、言わなきゃ。そう思うと、また、顔が火照るのを感じる。

「そっ、反ノ塚く、ん」
「あれ、みょうじサン?帰ったんじゃ、なかったの?」
「・・っ好きです!」
「・・・・え、」
「反ノ塚くんが、すきです」

沈黙。

ああ、やっぱりフラれるのか、わたし。彼はわたしじゃなくて、あの人がすきなんだ。震えを押さえようと、きゅっと目をつぶった。怖い。聞きたくない、のに、聞きたい。

「あの、さ、」

ふ、と辺りが暗くなったのを感じてそろりとまぶたをあける。すると目の前には学ランが広がっていて。吃驚して彼を見上げると、

ふわりと彼が微笑んだ。

「俺も、好きです」

え、と目を見開く。

「ほんと、に」
「うん、ホントに、好き、です」
「・・・ふえ、」
「えっ!あ、泣っ・・・?!」

世界にわたしが戻ってきた。

(泣くなー泣くな泣くなー)
(・・・ねえ、反ノ塚く、んって野ばら、さんが、すきなんじゃ)
(え?違う違う、・・・俺はなまえがずっとすきだったよ)
(ふえ、)
(わああああ泣くなって)


***

title:恋したくなるお題

▼「ねぇねぇ。」尋さまからいただきました!
いぬぼく小説はまだまだ手を出せない流星です。いつか書きたいと思ってます。そんなわたしにプレゼントです、これは!ありがとうございます



  



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