ぷれぜんと | ナノ


放課後の廊下はグラウンドで部活動をする生徒の声以外聞こえない。
帰るために廊下を歩いていたのだが、グラウンドの向こうに見える夕日が綺麗でぼんやりと見ていた。



「綺麗だな」
「なまえ…!」
「一樹?」



立ち止まった私の進行方向から一樹が駆けてくる。
廊下は走るなと言いたいところだが、どこか慌てた表情の一樹を見て言う気が失せてしまった。



「なまえ…こんなところにいたのか」
「どうしたの?そんなに慌てて」
「いや、どうってことは無いんだが…
とにかくちょっと来い」



そう言いながらも私の腕を引っ張る一樹はやはりいつもと違う。
私を見つけて少しだけ安心したような顔になったが、急いでここから遠退こうとしているようだ。



「一樹、もしかして星詠みで…」
「なまえ!」



私の言葉は最後まで言われることなく、切羽詰まったように一樹に体を抱き込められた。
赤面するのも悲鳴を上げるのも間に合わず、変わりにガラスの割れる大きな音が響き渡る。

部活動をしていた生徒の投げたボールが窓を突き破ったと、すぐに理解できた。
理解して恐る恐る一樹を見上げれば、至近距離で血を流す一樹と目が合った。



「良かった…怪我はないな」



先ほどまでの慌てた表情はどこへやら。
本当に安心仕切った顔の一樹が私の頬を撫でた。
そこでようやく状況を理解できた私にふつふつとした怒りが込み上げてきた。



「ば…馬鹿!!大馬鹿!!」
「おいおい、いきなりそれはないだろ」
「うるさい!馬鹿!」



子供じみた暴言を吐きながら、震える手で一樹の傷口を見る。
幸い切り傷だけで深くもなく、ガラスが入った様子もない。



「馬鹿だよ…なんで助けたりしたの…」



本来、割れたガラスで怪我をするのは私だけだった。
けれど一樹は星詠みでこのことを知って、危険を侵してまで未来を変えてしまったのだ。

今までにも何回かあったこと。
その都度未来には干渉するなと言ってきて、一樹はもうしないと約束するが守られたことは一度もない。



「惚れた女を助けたいのは当たり前だろ」
「…え」
「好きだ、なまえ」


突然切り返された言葉に怒りも戸惑いも全部吹っ飛んでしまった。
停止する私にお構いなく、一樹は自信ありげに笑い私の頬を撫でてくる。



「お前だって俺のこと好きだろ?」



自信過剰とも言える発言。
俺様すぎる発言に私はか弱い声で答えた。



「やっぱり、馬鹿だ」



真っ赤な顔では説得力などないけど。



▼あおる様からいただきました
わたしにとって一樹は頼れる兄ちゃんです。しかし自分よりも他人の心配をするところはやっぱり年上だからなのか。それとも会長であるからなのか。一樹は深いキャラですね。わたしが書く一樹はいつも残念なのでこういうお話を読むとほっこり?きゅんとします。



  



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