ぷれぜんと | ナノ


夢を見た。とっても不思議な夢。


まるで御伽噺に迷い込んだかのような。





「それでね?・・・って匡くん、聞いてるの?」

「あー、聞いてるぜ?・・・えーと、何だっけ?崖から落ちたんだっけ?」

「何それ?!何をどう聞いたらそうなるの?!」



不知火匡は今日も、幼馴染の少女の話を聞いていた。
いや、聞いていたといっては、御幣があるだろう。
正確には、聞き流していた。



澄み渡る空は何処までも青く、光の海に自らも溶け込めるのではないかと錯覚する。
今日は冬に向かう季節にしては暖かい。昼寝にはうってつけだった。



「だから、夢の中で羊雲な羊さんと遊んだんだって!」

「・・・へぇ・・・。」



彼はまるでかわいそうなものを見るかのように目を細めた。
しかし、其処で反応なんてしてやらない。
言いたいことはあってもそっちに話を移したくはないのだ。



「そしたらね?羊さんたちが一斉に一箇所を見て言うの。」



彼女はあえて間をおいて言う。



「“向こうから貴女の王子様が来ますよ。”って!!!」

「・・・へぇ、なまえに王子様。へぇ・・・。」

「な、なによ、その哀れみのような目は!!」

「ちゃんと捕まえておかないと、千景にずっと付回されるぜ。」

「うるさいっ!!匡くんに言われたくないよ!!!」



なまえと呼ばれた少女は、ぷくりと頬を膨らます。



「なまえ、相手を考えてから言え。あと今授業中だぜ?もう一寸静にしな。」



学園内でも屈指のモテ男は、ただ家が近いというだけで纏わりついている少女の恋愛妄想には興味がない、そういいたいのだろうか。



「・・・ん、多分、お前が今思ってること当たってるよ。」

「え?なんで?!って、ええ?!それが本当なら悲しすぎるんだけ・・・むぐ!!」



突然声は、大きな手によって遮られて、声の主は寄せられた声に大人しくなった。

只声は、別段普通に、煩いと言われただけだ。



「・・・摘み出すぞ?」

「・・・ごめんなさい。」

「・・・で、王子様って、どんなやつだった・・・?」



涙目で萎んでいたなまえに対し、匡は罰が悪そうにそういった。



「・・・えっと、怒らない?」

「・・・場合によっちゃ、怒るかもな。」



匡は自分の隣においていたスポーツ飲料を手に取り、口をつけた。



「王子様ね、匡くん、だったよ。」

「・・・俺?」

「怒らない?」

「ああ。」



匡そうとだけ言って、口を閉ざした。それから暫く、怒っているのかどうかを伺っていると、名前を呼ばれた。

そうすると思ったより顔は近くにあって、耳元で声が響いた。



「だったら、迎えに行ってやんねーとな?」

「え?」

「迷子のお嬢さんを。」

「え?!迷子じゃないよ!!」

「迷子だろ。十分。」



匡は感情の読めない顔でペットボトルに唇を当てる。



「匡、それもう空だよ?」

「え、あぁ、そうだな。・・・新しいの買ってくるか・・・。」



言いながらのっそりと立ち上がると、軽く伸びをしながら屋上から立ち去ろうとした。

匡がドアノブに手を掛けようとしたその瞬間、扉は勢い良く開いた。
運動神経に反射神経、その両方ともがいいのだということを、匡見せ付けてくれる。



「ったく、あぶねーだろっ!幾らお前でも、ぶつかってたら許してねーぞ!!」

「避けたんだ、問題ないだろう?第一、当てるつもりで開けたんだ。」



そういいながら風間千景はずかずかと屋上に歩を進め、扉を閉めた。



「2人そろってサボりとは、いい度胸だ。」

「お前だってサボりだろ、まだ授業中だぜ。」



匡は面倒臭いと顔中に書いてそういう。



「そういえばね、その羊さんたちの羊飼いさんがね、ちぃちゃんだったよ。」

「は?コイツ?」

「・・・何の話だ?俺は羊を飼うほど落ちぶれては居ないぞ。」



風間は不愉快だといいたげにそういった。



「・・・なまえが馬鹿で、自由奔放だって話だよ。」

「そうか、だがそれは、今に始まったことではないだろ?」

「なに?!それ!!酷くない?!」



なまえは叫ぶ。すると煩いという声が2つ聞こえた。



「授業中だって言ってるだろ。」

「・・・ごめんなさい。」



今はまだ、単純な言葉の掛け合いにすぎない。

匡はいづれ変わることを望んだ。



羊の夢が現実にならんことを。


「王子様は、嫌だけどな。」



▼珂神夕貴様からいただきました
不知火大好き!しかし分かり合ってくれる人に中々会えません
不知火小説ありがとうございました^^b



  



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