蜜色ハニームーン

ダウンライトに照らされた指先をぼんやりと見つめる。男性らしい節くれだった綺麗なそれが、カランとグラスを回した。

「ナマエ、どうした?」

「…私もネイルとかしようかなぁ」

惚けた目線を彼の手元に向けていたナマエを案じてリヴァイが顔を覗き込んでくる。脈絡のないその返答に、怪訝な表情を浮かべた彼に苦笑を向けた。

「あっ、すみません。さっき隣にいた女性の爪がすごく綺麗だったから…」

「爪?俺にはよく分からねぇが…。そういや会社でもやたらキラキラした爪をしてる奴がいるな。ああいうのか?」

興味が無ければあまり理解出来ない世界だろう。
ふとナマエの爪に目を落としたリヴァイから咄嗟に指先を隠す。何故か恥ずかしさを感じた。

「職業柄今までネイルとかしたことなくて。でもさっき暗い中で見た爪がすごく素敵だなーって思ったんです」

飲食業を生業にしている会社に勤めているナマエに、ネイルはなかなか縁遠い話だった。今は本部勤務だから多少の融通が効くが、それでも店舗にヘルプに入ることがある以上装飾を施すわけにはいかない。

「やっぱりリヴァイさんの会社でもやってる方、いるんですね」

「その辺は緩いからな。仕事で成果あげりゃ誰も何も文句言わねぇよ」

リヴァイとしては他の女の見た目や装飾品に何の興味もない。髪色が派手だろうが爪が光っていようが、それで彼女たちのモチベーションがあがり仕事に邁進出来るなら大いに結構なことだ。
だが、ナマエが憂いた顔をしているのは気になった。彼女の悩みは出来るだけ解決してやりたいと、そう思う。

「そのネイル…?がやりてぇのか」

「…そういうわけじゃないんですけど。もうちょっとリヴァイさんの隣に立っても恥ずかしくないようにしなきゃなーって」

ボソボソと告げられた言葉に思わず言葉を失う。顔を下げたまま自分の指先を弄くり回しているナマエの耳元が赤くなっているのが、仄暗い灯りの下でも分かった。

「…オイオイオイ。なんつー可愛いこと言ってやがる」

「別に可愛くなんか無いですっ…!」

ムッとした顔を上げたその目元も微かに赤らんでいた。緩んでしまう頬を必死に耐えつつ、リヴァイはわざとらしく目を眇める。

「なんだ、もしかしてさっきのことか?」

「…そうですよ」

眉根に力を込めて不服そうな顔をするナマエに気付かれないよう、喉の奥でひっそりと笑う。
今日は珍しく帰宅時間が重なったナマエと会社近くのバーで待ち合わせをしていた。ハンジの後輩だった彼女とこのバーで偶然出会い、無茶振りで二人で酒を呑むことになったあの日のことは昨日のことのように思い出せる。あれが無ければきっとナマエは今隣にはいないだろう。そう考えるとハンジの突拍子もない行動に感謝さえしながら、グラスを傾けて恋人の到着を待っていた。
だがそんなリヴァイに一人で来ていたらしい女が声を掛けた場面をナマエに見られていたのだ。

「あんな女に俺が靡くとでも?」

「そう思ってるわけじゃないですけど…リヴァイさんの周りにいる女性、みんなお綺麗なんですもん」

適当にあしらったから女の顔も見ていなかったがナマエには思うところがあったらしい。
一気にグラスを呷ったナマエの白い喉が暗い店内に映える。そこに今すぐでも吸い付きたい衝動を覚えるのは彼女にだけなのだと、それがどうにも伝わらないことにリヴァイも苦笑を漏らした。

「そういや…ペトラを浮気相手だと勘違いしたこともあったな」

「うっ…それは忘れてください…」

気まずそうに「部下の方に申し訳なさすぎます」と続けて首を竦めた。あれがきっかけでナマエの本音を聞くことができ、同棲まで漕ぎつけることが出来たのだ。リヴァイとしては忘れられない出来事だ。

「まぁ俺としては、あれくらい分かりやすく嫉妬してぶつけてくれた方がありがたいがな」

「え…?なんでですか?」

「お前は我慢しすぎるんだよ。叔父の件もぎりぎりまで言わねぇし、俺の…元カノん時もそうだろ」

今度はリヴァイが気まずそうにフッと視線を逸らす。クスッと笑ったナマエが運ばれてきたグラスを両手で覆いながら、感慨深そうに言った。

「そう考えると色々ありましたね」

「…二度と出て行かれるのは御免だぞ」

「ふふっ、あの時はぷっつんきちゃって…ご心配お掛けしました」

「頼むからそうなる前にぶつけてくれ。ちゃんと聞くから」

そうぼやいたリヴァイの声は切実だ。
嬉しそうに大きく頷いたナマエも、芋づる式に思い出した出来事に思わず頬を緩める。

「そういえばリヴァイさん、覚えてます?付き合って初めてのデートのこと」

「…頼むから思い出すな」

苦虫を噛み潰したような表情が暗い中でも見て取れた。ナマエと恋人同士になって初めてのデートの日にやらかしたことは、今思い出しても胃が痛くなる。今考えてもあの時のリヴァイはどうかしていたと思う。だがそれほど必死だったことは分かって欲しい。
取り繕うように「何か食うか」と彼が差し出したメニューを受け取りながら、ナマエはあの日のことを思い出していた。



チラッと視線を落としたスマートフォンが21時を表示しているのを確認して、ナマエははぁっと息を吐いた。何も受信していないそれをどうしても鞄に仕舞うことが出来ず、手の中で弄ぶ。

「…さむ」

気温はそこまで低くないが時折頬を撫でる風は夜らしい冷たさを纏っていた。
今日はリヴァイと恋人同士になってから初めて、仕事終わりにデートをする約束をしていた。20時にここで、と記されたメッセージを何度も確認しているが、日にちも場所も間違っていないはずだ。だが仕事が終わってから送ったメッセージは既読にもなっていない。
先ほど掛けてみた電話は、電源が切れているという無情な案内メッセージが流れて終わってしまった。

「…仕事、かな」

自分を慰めるように呟いた声に答えるのは街中の喧騒だけだ。どこか店に入って待とうと思うものの、リヴァイのスマートフォンに電源が入っていないのなら移動したナマエと合流出来ないかもしれない。そう思うとここを移動する気にはなれなかった。

(21時半まで待とうかな…)

リヴァイの身に何かあったのか、急な仕事で連絡が取れないのか。前者なら自分が知る術はあるのだろうかと背筋が寒くなる。きっとハンジが知らせてくれるだろうが、それだっていつになるか分からない。
ただ彼が理由もなしに連絡なしでドタキャンするような人ではないことは信じている。恋人になってからはまだ数週間しか経っていないが、リヴァイはいつだって誠実だった。

(…あと5分、だけ)

結局21時半を過ぎてもそこを動けない自分は側からから見たら滑稽かもしれない。ハンジを巻き込むのは申し訳なくて連絡しなかったが、このままリヴァイと連絡が取れなければさりげなく聞いてみてもいいだろうか。
そんなことを漠然と考えていたナマエの耳に、待ち侘びた人の声が飛び込んできた。

「ナマエ…!!」

ばっと声の方を振り返ると、スーツ姿のリヴァイが肩で息をしながら立っていた。激しく息を乱している彼の額には汗が光っているように見えた。

「…リヴァイ、さん」

「わる、かった…ハァ…急な出張で、携帯も電源が…」

「…良かった」

膝に片手をつきながら途切れ途切れに告げるリヴァイの顔を見たナマエが不意に顔を綻ばせた。ホッとしたように安堵の笑みを浮かべた彼女を、リヴァイが愕然とした顔で見上げる。そんな彼に一歩、ナマエが近付いた。

「良かった…。何か事故にでも巻き込まれたのかと思ってたんです。お仕事、大丈夫でしたか?」

「…ナマエ」

気遣うようにリヴァイの目を覗き込んだナマエがそっと額にハンカチを当てた。
こんなに全力で走り汗までかいたのはいつぶりだろうかと、走り過ぎて未だ整わない息の中考える。額に触れた汗を拭うナマエの指がひどく冷えていてリヴァイは強く唇を噛んだ。

「…悪かった」

「気にしないでください。というか出張だったんですか?言ってくれれば別の日に…」

「悪かった、ナマエ」

「…リヴァイさん」

「ごめん」

瞳を伏せたまま何度も謝罪を口にするリヴァイの手をそっと握る。初めて触れた彼の手は、ひどく熱を帯びていた。

「来てくれてありがとうございます」

強く握り返された手のひらにリヴァイの熱が移った気がした。



その後小さくくしゃみをしたナマエに慌てたリヴァイがタクシーに押し込み、何故か高級ホテルへ直行したのだ。ナマエが目を白黒させているうちに、あれよあれよという間に一部屋取ってきたリヴァイが大真面目な顔でこう言い放った。

「身体が冷えちまうからまずは風呂に入れ」

ぽかん、としばらくその顔を凝視していたナマエが耐えきれずに笑いを溢す。そこでやっと己の性急すぎた行動に気がついたのか、狼狽えるリヴァイがつらつらと言い訳をするのを堪えきれない笑いと共に聞いていた。

「いや、悪い…。やましい気持ちはねぇ。ただ長時間外にいたから身体が冷えてるだろうと思って…」

「ふふっ…はい、ありがとうございますっ…」

「…その、なんだ。いきなり俺の家に連れて行くのはあれだ…ナマエが嫌がるかと…」

「あは、あはは…!でもいきなり、こんな高級ホテルなんて…」

「いや、そうだよな、悪ィ…。ここなら女に必要なモンも揃ってるかと思ったんだが…」

ロビーで笑い続けるナマエとその前で必死に言い募るリヴァイの二人の姿は、周りからどう見えていたのだろうか。
だが漸く笑いを収めたナマエがにっこり笑って渡されたルームキーをしげしげと眺めた。

「お風呂のために一部屋取るなんて…すごいです」

「…引いたか」

分かりにくいが大分落ち込んでいるらしい。
ゆるりと首を横に振ったナマエが鞄を抱え直し、ぺこりと頭を下げた。

「じゃあお言葉に甘えますね」

「っ、あぁ…!一泊分取ったが気にすんな。何なら俺が泊まる。俺はここで待ってるから風呂入ったらこの上でメシでも食おう」

ホッとしたような表情を浮かべたリヴァイが矢継ぎ早に告げるのに頷いて、そして勇気を振り絞る。こんな展開は想像していなかったが、今リヴァイと離れるのはものすごく寂しい気がした。

「…あの。リヴァイさんさえ良ければ一緒に部屋行きませんか?それでルームサービスとかでも…」

「…いいのか?」

「はいっ、せっかく会えたのにもったいないなって…」

恥ずかしそうに俯いたナマエに先ほど走った時とは違う心臓の高鳴りを覚える。だが今日は絶対に、何がなんでも自制する、と自分に言い聞かせてリヴァイも頷いた。

「そうだな。じゃあルームサービスでも食うか」

「はいっ。すごい贅沢ですね」

目尻を下げて嬉しそうに笑うナマエに暴れそうになる欲望を全力で押さえ込みながら、リヴァイも物分かりのいい大人の男のフリを貫いたのだった。



「…オイ、ナマエ。何一人で笑ってんだ」

「ふふふ…あの時のリヴァイさん、すごい慌ててたなーって」

「思い出すなって言っただろうが」

不満そうな顔のままリヴァイがウイスキーグラスをコトン、と置いた。同じようにワイングラスを置いたナマエは未だに楽しそうな表情を崩さない。

「嬉しかったんですよ?ちゃん来てくれて」

「当たり前だろ」

きっぱりとそう答えたリヴァイもナマエにつられてあの日のことに思いを馳せる。
彼女と恋人同士になれて浮ついていたことは否定しない。更に恋人になってからの初めてのデートを、絶対に遂行させたい気持ちが強かったことも認めよう。
だからその日のために仕事を調整し、なるべく定時であがれるように最大限努力していたのだ。だが、地方の支店に急遽出張しなければならなくなったことが大誤算だった。

「…エルヴィン。てめぇは俺に何か恨みでもあんのか」

「何の話だ、リヴァイ」

怪訝そうに眉を寄せるエルヴィンにチッと舌打ちを溢す。完全に八つ当たりだと分かってはいたが、一言言わないと気が済まない。

「急な話で悪いが、お前にしか出来ないことだ。頼むぞ」

「…了解だ、エルヴィン」

腕を組んで了承の意を示したリヴァイは、エルヴィンが説明するスケジュールを瞬時に頭の中で組み立てる。どんなに遅くなっても夕方には最寄りの空港に着けそうだし、そのまま直帰でも良いという言質も取った。ナマエとの待ち合わせには何の支障もなさそうで、エルヴィンには気付かれないように胸を撫で下ろす。
一瞬ナマエに出張のことを告げようかと頭を過るが、彼女のことだ。きっとリヴァイに気を遣って別の日にしようと言い出すに決まっている。
青臭いと思われるかもしれないが、この日をどれだけ心待ちにして仕事を捌いてきたか。何としてでもナマエとのデートを完遂させることを胸に誓い、リヴァイは出張に旅立った。

「…クソが。ふざけんなよ」

思えばそれが失敗だったのだ。
始めからナマエに出張のことを告げて飛行機の到着時間も伝えていれば。
聡い彼女ことだ、きっとその便が部品故障で遅れに遅れ、到着予定時刻を大幅に過ぎてもまだ着かないことを調べられたに違いない。
だが変に格好つけ、何も告げずに飛び立ったのが全ての元凶だった。しかも途中でスマートフォンの電源が切れ、更に充電器をスーツケースの中に預けてしまっていたことで運が尽きたといってもいい。貸し出し用の充電器も全て出払っていて、ナマエと連絡を取る手段は完全に遮断された。
そして漸く飛行機が空港に着いた頃には、時計の針は20時半を回っていた。スーツケースを受け取るのもそこそこに、タクシーに飛び乗ったリヴァイはそこで最後の過ちに気がついて大きく舌打ちをした。スーツケースから充電器を取らないままトランクに入れてしまったのだ。

「お客さん?どうしました?」

「…いや、なるべく急いでくれ」

タクシーに停まってもらって取り出すことも考えたが、いつ一時停止出来る場所に出るかも分からない以上、このままナマエの元に急いだ方が得策かもしれない。幸いタクシーなら30分ほどで着くはずだ。
頼むから待っていてくれ、と信じてもいない神に祈ったのは初めてのことだ。

「うーん、お客さん、この道混んでるから迂回するよ。もうちょっと掛かるけど…」

「いや、ここで十分だ。降ろしてくれ。釣りはいらねぇ」

ナマエと待ち合わせている場所の最寄駅が見えてきた頃、渋滞にはまってしまったらしい。
支払い金額よりも大分多い札をトレーに置き、スーツケースを引き摺りながらナマエの元へと急ぐ。途中でコインロッカーにスーツケースを放り込んだリヴァイは、見えた時計の針が21時半を指そうとしているのを見て全速力で走り出した。

「ナマエ…!」

結局何一つうまくいかないことに焦りながらも、彼女がまだ待っていてくれることだけを願ってただただ走った。そしてあの時目にしたナマエの笑顔に、ツンと鼻の奥が痛んだことを思い出す。

「あの時のルームサービス、すっごい美味しかったですよね」

「そうだったか」

「そうですよっ。ほら、上のレストランのものも注文出来て…」

目を細めながら懐かしそうに思い出を語るナマエの横顔を見つめる。正直言って、食べた料理の味なんてこれっぽっちも覚えていない。
リヴァイに勧められた通り、しっかりお風呂で温まったナマエが初めて見せた無防備な姿に「絶対に自制する」という強い決意は脆くも崩れ去りそうになった。化粧を落としたり髪を洗ったりはしなかったようだが、ほんのりと上気した頬を緩めたナマエは「薔薇の香りがしました」とにこにこ笑っていた。
そしてリヴァイの葛藤をつゆ知らず、運ばれたルームサービスに歓声をあげていたのだ。

「また行きたいですね」

「じゃあこの後行くか?」

「え…?」

「あの時はそんなに堪能出来なかっただろ」

恋人同士になって初めてのデート、本当なら彼女を喜ばせこれからの二人の未来を明るく照らすものにしたかったのに、リヴァイが色々やらかしたおかげである意味忘れられない日になった。
結局あの日は夜も遅くなり泊まることになったのだが、リヴァイがスーツケースを取りに行っている間にナマエが眠り込んでしまっていた。
リヴァイが目論んだ通り、女性に必要な諸々のものや下着の替えなどは購入出来たようで安堵したが、スヤスヤ気持ち良さそうに眠るナマエを前に悶々とした夜を過ごしたことは忘れていない。

「リヴァイさんって、意外と思いつきで行動したりしますよね」

「そりゃあお前…」

ナマエのことに関してだけだ、と言い掛けて飲み込んだ。どちらかというときっちり予定を立てて行動するタイプだったが、ナマエに関しては別だ。彼女が喜び、笑顔になれる最善の方法を常に探しているだけだ。

「じゃあせっかくだから…行っちゃいますかっ。ルームサービスも頼んでいいですか?」

「ふっ…ナマエも大概ノリがいいな」

「リヴァイさんと一緒だからですよ」

リヴァイが言えない言葉もナマエはさらりと告げてくれる。
付き合い始めた頃は多分に遠慮し、常にリヴァイの負担にならないことだけを考えていた彼女は今、彼と一緒に笑い合える方法を探すようになっていた。
チェックしたリヴァイに続いてバーを出たナマエの手を自然に絡め取る。寄り添う温もりに頬を緩めたナマエだが、ふと胸の奥に燻る小さな不安がチリっと痛んだ。

「ねぇリヴァイさん」

「なんだ?」

「リヴァイさんもどちらかというと、やっぱりちょっと華やかな人が好きですか?」

「…華やか?」

「別にネイルとか髪色の話じゃなくても…。ほら、リヴァイさんの会社の方ってすごく洗練されてる方が多そうですし、元カノも…綺麗な人でしたし」

何の話だと思っていると、どうやら最初の話題に戻ったらしい。咄嗟にナマエの小さな頭を見下ろすとこちらを窺っていた瞳とかち合う。

「…そうだったか?」

「もうっ、真剣に聞いてるんですよ?」

問われて思わず口を噤む。ナマエ以外の女は何も覚えていない、というのが正直なところだがそれでは納得しないだろう。

「俺はナマエが選んだものなら何でもいいがな」

「リヴァイさんはそう言ってくれると思ってましたけど…でも好きな人の好みを知りたいっていう女心も汲んで欲しいです」

甘えるように、手を絡ませたまま腕にしがみついてくるナマエ。酔ってはいないが、酒が入っている彼女はいつもよりも素直で少しばかり幼くなる。
不満そうにぐりぐりと額を腕に押し当ててくる可愛らしい仕草に、リヴァイも知らず知らず目尻を下げた。

「つってもな…考えたことねぇな」

「そうですか…」

「…だが。お前が俺の贈ったもので着飾られてんのは悪くねぇ」

撫でた小指に光るピンキーリングと胸元で揺れるネックレス、そしてリヴァイとお揃いのブランドの腕時計を身につけたナマエを改めて眺めると、満足感と独占欲が満たされていく。
彼女がどんな格好をしようと構わない。リヴァイのことを想い、選んだものならそれは何よりも輝いているはずだ。

「リヴァイさんがくれたものなら何でも嬉しいです」

「…言っておくがそれは俺も同じだからな」

愛しそうにネックレスを掬うナマエの腰をしっかりと引き寄せた。そのまま頭に小さくキスを落としたリヴァイの頬に、くすぐったそうに首を竦めたナマエが唇を寄せた。
じゃれつくナマエを愛しげに見つめるリヴァイの瞳は、どこまでも穏やかだ。スッと持ち上げた彼女の手の、何も施されていない小さな爪を甘噛みすれば熱に浮かされたような潤んだ瞳が見返した。

「…あの時と違って今日は寝られねぇぞ」

多少の意趣返しを込めた囁いたリヴァイの言葉にコクンと頷いたナマエを満足そうに見遣り、リヴァイはタクシーを止めるための手をあげたのだった。


-fin




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