戸惑いハニー




「モブリットさん、大好きですっ!」


明るくて柔らかい声がハンジの実験室に響いた。
いつ聞いても心を和らげてくれるはずのその声音は今はリヴァイの心を抉るものでしかなくて、その苛立ちと怒りを視線に込めて元凶を睨み上げる。


「てめぇクソ奇行種…どういうことか説明しやがれこのクソが」

「リヴァイ落ち着いてっ…。これには訳があるんだ!ね、モブリット」

「分隊長、本気でどうにかしてくださいよ!俺が殺されます…!」

「モブリットさん、誰に殺されちゃうんですか!?大丈夫です、私が先にそいつを殺(や)ってきますから…!任せてくださいね」


にっこりと魅惑的な笑みを浮かべたなまえを引きつった顔で見下ろすモブリットと、それを射殺さんばかりの視線で睨むリヴァイ。そしてヒクヒクと口角を動かしながらも形ばかりの反省を見せるハンジがなんとか腰を下ろして落ち着いて話が出来るようになったのは、それから小一時間が経った頃だった。





「つまり…対巨人実験用の薬をなまえに飲ませた結果がアレだと?」

「そうなんだよ。詳しくは省くけど…簡単にいえば、一目惚れする薬だね!」

「ふざけんなよクソが。何の説明にもなってねぇじゃねぇか。モブリット、説明しやがれ」

「ひっ…は、はい…実は…」


モブリットから離れたがらないなまえを何とか宥めすかしエルヴィンの元へと向かわせた後、リヴァイは小柄な身体からは似つかわしくない強大なオーラを纏いながらハンジとモブリットを睨めつけた。
なまえにはエルヴィンへ簡単に事情を説明した書類を持たせてあり、彼ならうまく言い包めてなまえを留まらせてくれるはずだ。
怯えきったモブリットが途切れ途切れに説明する話によると、巨人に飲ませて人間の言うことを聞かせる薬を開発していたハンジが悪戯心でなまえを実験台にしたという。


「クソメガネ…てめぇは後で確実に削いでやる。対巨人薬が何で惚れ薬になるんだ」

「つまりね、初めて見た人間に恋をする薬を作るのはどうかなーと思ったんだよ!もし巨人に効果があって人間に恋でもすれば、私たちの言いなりになるんじゃないかって」

「相変わらず胸糞悪ぃことを思いつくな。つーかなまえを実験台にしてんじゃねぇよ。てめぇが飲めばいいだろ!」

「だって薬の効果を見るためには既に恋人がいるコが適任だろ?心から好きな人がいるのに、ちゃんと他の人を好きになるのかなーって。たまたま飲んだ後にモブリットが来ちゃったから、モブリットのことを好きになっちゃったんだね。ほんとは私のことを……ってぇぐぇっ…!」

「てめぇがクソ中のクソだってことはよーく分かった。…で、戻るんだろうな?」


にやついた笑みを浮かべたハンジを椅子から蹴り飛ばし、その背中を踏みつぶしながら静かな声で聞く。モブリットの恐怖で震える姿を視界の端に捉えながらも、煮えくり返る気持ちを何とか抑えた。


「いで、いってぇ…ど、どんなに長くても1日で切れるよ…いででで!」

「ふざけんな。クソ長ぇじゃねぇか」

「へ、兵長…申し訳ありませんっ…」

「…はぁ」


本当に申し訳なさそうに謝るモブリットが悪いわけでないことはよく分かっている。なんなら彼も被害者のようなものだ。だが恋人が自分以外に愛を叫び、リヴァイのことが全く目に入っていない様子を思い出せば冷静ではいられない。
ちなみに薬が効いている間はモブリットの側にいたがり、全身全霊で好意を示すという。それを聞いたリヴァイは無表情の中にも動揺を示しておもむろに口を開いた。


「…今から俺はエルヴィンのところへ行く。今日一日、俺となまえは休みにするからな。その間の仕事はクソメガネ、全てお前がやっておけよ」

「えっ、さすがに無理…」

「明日、一枚でも残っていたら巨人の謎を解く前にてめぇが魚の餌になると思え」

「…了解だよ」

「モブリット、お前は手伝うんじゃねぇぞ。そしてお前は俺の部屋に近付くな」

「了解っ…!」


リヴァイの本気を見て取った二人が思わず敬礼を捧げるくらい、リヴァイの雰囲気は殺気立ったものだった。だが意外なほど静かに部屋を出て行ったリヴァイの後ろ姿が、怒りと共に少しだけ落ち込んだ空気を背負っていた気がしてハンジはぽりぽりと頬を掻いた。


「さすがに悪いことしたかな…。あんなに溺愛してるなまえが他の男に心奪われんじゃ、そりゃやってらんないか」

「…そう思うならなまえさんを巻き込まないでくださいよ、本当に…」


精魂尽き果てたようにガックリと肩を落として呟くモブリットに乾いた笑いを溢すハンジ。
エルヴィンの元へなまえを迎えに行ったリヴァイは、恐らく薬の効果が切れるまでなまえと二人自室へ篭るつもりだろう。今のなまえはリヴァイに見向きもせずモブリットへの愛を囁き続けるだろうが、モブリットに直接ベタベタされるよりはマシだと判断したらしい。


「しかし素晴らしい効果だった…。あ、せっかくだから時間と共にどう変化するか観察しにい…」

「絶対にやめてくださいよ!?今日は一日この部屋に篭って、リヴァイ兵長の仕事を処理してください!ニファに運ばせますから絶対に絶対に部屋から出ないでくださいよ!?」

「…ちぇっ。分かったよ…」


その迫力に渋々頷いたハンジ。
深々と溜息を吐いたモブリットは、この騒ぎが収まるまで絶対にリヴァイとなまえには近付かないと固く心に誓ったのだった。





エルヴィンの執務室にてモブリットの好みのタイプを聞き出そうとしていたなまえを回収し、ついでに二人分の休暇申請を机に叩きつけた。会議も訓練も入っていない日だったことが幸いして、面白そうに笑うエルヴィンはそれをあっさり受領した。


「大体の事情は把握したよ。なまえのモブリットが好きで好きで堪らないアピールは聞いていて中々悪くなかった」

「…ふざけんな」

「リヴァイ兵長っ、モブリットさんは今どちらに?」

「あー…あいつは団長命令で内地に向かった。明日帰ってくる予定だ。そうだろ、エルヴィン」

「あぁ。すまないね、なまえ。モブリットが帰ってくるまで、リヴァイの仕事を手伝ってやってくれないか?モブリットも喜ぶ」

「モブリットさんが喜ぶならなんでもやります!リヴァイ兵長、よろしくお願いします」

「…あぁ」


わけのわからない論法でもモブリットが関われば何でもいいらしい。嬉々として頷くなまえを直視出来ないまま、彼女を連れて部屋を出て行ったリヴァイをエルヴィンを哀れみを込めた視線で見送った。


自分の執務室へ入ったリヴァイは適当な書類の処理をなまえに命じた後、疲れ切った身体をソファーへと沈めた。本来ならなまえとリヴァイは休日になった筈だが、今の彼女をリヴァイの部屋に留めるためには仕事を命じなければならないのがなんとももったいなく、口惜しく感じる。


「リヴァイ兵長、お疲れですね。もし良ければ紅茶でもお淹れしましょうか」

「…あぁ頼む」


モブリットが関わらなければなまえが優秀な兵士であり、部下であることには変わりがないらしい。
そこにリヴァイへの感情が何も無いだけで、いつもならはにかんだように笑む、リヴァイだけが知るなまえはここにはいない。
キビキビと動くなまえの後ろ姿をぼんやり眺めながら大きく溜息を吐いた。なまえの愛情が自分に向いていないだけでここまで落ち込むとは、自分でも驚きだ。もしこれが薬のせいではなくなまえ自身の心変わりだとしたら、リヴァイは本気でどうにかなってしまうかもしれないと自嘲の笑みを浮かべた。


「兵長、どうぞ」

「悪ィな」

「いえ。あの、モブリットさんも紅茶はお好きでしょうか?私、紅茶の淹れ方には自信があるんです」

「…そうかよ」

「たくさん勉強したんですよ?リーブス商会に頼んで、休みの日に街の紅茶屋さんに修行に行ったこともあるんです」

「紅茶の修行?何のためだ」

「…あれ?なんででしたっけ…?」


にこにこ笑いながら自慢げに話していたなまえだが、リヴァイの訝しげな問いにきょとんと首を傾げる。
そんな話は初めて聞いた、と内心驚きながらリヴァイは紅茶を啜る。リヴァイとなまえが恋人同士になる前から、なまえはリヴァイ班の一員として常に側にいた。最初は下手くそだった紅茶の挿れ方が、リヴァイ好みのものを淹れられるようになるくらい長い時間が過ぎたと思っていたのだが、もしかしたらそれは違うのかもしれないと今の話を聞いて思い至る。


「うーん…誰かに喜んで欲しいと思って勉強したはずなんですが…。モブリットさん、そこまで紅茶が好きだったのかなぁ…?」

「…誰か別のやつのためじゃねぇのか」

「そうなんですかね?でも私、モブリットさん以外のためにそこまで頑張らないと思うんです」


もしかしたら思い出すかもしれないと、僅かな期待を込めて問いかけた希望もあっさりと砕かれる。
だが過去のなまえがリヴァイのために知らないところで努力していたことは確かなようで、それが分かっただけでも僥倖だとリヴァイは自分を慰めた。


「美味かった。確かに紅茶を淹れる腕は確かだな」

「兵長にそう言って頂けると自信になります。いつでも淹れますので言ってくださいね?」


目を細めて笑うその笑顔は上官に対する社交辞令のもので、リヴァイはチクリと痛む胸を無視して立ち上がる。今のなまえはモブリット一筋なのだ。早く薬が切れることを祈るしかない。
ハンジに今日の分の仕事は押し付けたので、本来なら急ぎの仕事は手元にはない。だがなまえだけに仕事をさせるわけにはいかず、リヴァイも一枚の書類を無造作に捲りあげた。


「あの、兵長…つかぬことをお伺いしますが」

「なんだ」

「モブリットさんって、ハンジさんとお付き合いされてるんでしょうか…?」


暫く黙って書類を処理していたなまえが、おずおずと口を開いた。不安そうに問い掛けるその姿に様々な感情が溢れ出しそうになるのを、視線を上げないことでなんとか堪える。こんな風にリヴァイの感情を揺れ動かし、翻弄させるのはなまえしかいない。


「知らねぇな」

「そう、ですか…」


しょんぼりしてしまった雰囲気を感じ取り、リヴァイは思わず額に手をやってしまう。
己の恋人が他の男に惚れ込み、恋人の有無を気にしているという拷問のような状態なのに、なまえが落ち込む姿は見たくないと思う自分こそ重症のようだ。


「まぁ…付き合ってはねぇんじゃないか」

「っ、本当ですか!?」

「…多分な」

「良かったぁ…」


パッと顔を輝かせ胸を撫で下ろすなまえの姿を視界に捉えた。なんでもいいからなまえには笑顔でいて欲しいと願っている意外と健気な自分を内心罵りながら、全く進まない書類を横に追いやった。


「…仕事にならねぇ」

「あっ、も、申し訳ありませんっ…」

「いや…お前のせいじゃねぇよ」

「あの、兵長、ご迷惑じゃなければもう少しだけお話ししても良いですか?」

「…構わねぇよ」


なまえのこういう大胆なところも変わらない。付き合う前も、リヴァイが煮詰まったタイミングでなんでもない雑談を振ってきたり、「一緒に食べませんか?」と街で買ってきたという菓子を悪戯っぽく掲げていた。
他の兵士ならリヴァイを恐れてそんな声すら掛けないのに、なまえだけは違った。そしてそんななまえを全く不快に思わず、それどころかリヴァイもそのささやかな時間を待ち遠しく感じるようになるまで時間は掛からなかったのだ。


「モブリットさん…じゃなくて、男の方って疲れてる時にどんなことをされたら嬉しいですか?」

「それは人によるだろうな」

「もうっ…それはそうなんですけどね、兵長ならどうかなーって」

「…好きな女が相手ならただ側にいるだけでもいいだろ」

「兵長…?」


意外なリヴァイの返答になまえが大きな目を更に丸くして凝視してくる。思わず漏れた本音に舌打ちをし、誤魔化すように言い添えた。


「あー…なんだ。好きなやつになら何されても嬉しいもんじゃねぇのか。疲れてる時に甘い菓子を持ってくるのでも、茶持ってくるのでもなんでもいい。ただ黙って側にいるのでも、酒を飲みながら夜通し過ごすのでも、好きな女相手なら、男はどんなことでも喜ぶんじゃねぇかと思っただけだ」


今までなまえがリヴァイに対してやってくれたことをつらつらと挙げる。驚いたように瞬きをしていたなまえだが、ふと溢れるような笑みを浮かべてしっかりと頷いた。それは先ほどの社交辞令の笑みとは違い、リヴァイが良く知るなまえの心からの笑顔だった。


「そう…そうですよね」

「…まぁモブリットが何を喜ぶかは知らんがな」

「モブリットさんならきっとなんでも喜んでくれますよ!」

「確かにあいつはそういう奴だろうな」

「はいっ。優しくて気遣いが素敵で…あのハンジさんを相手に出来るのはモブリットさんだけだと思います」

「はっ…お前、ハンジとモブリットの仲を気にしてたじゃねぇか」

「あれっ、確かに…」


自身の言葉に不思議そうに首を傾げるなまえを見ながら、リヴァイは背もたれに凭れ掛かった。なまえが他人行儀にリヴァイに接し、他の男を気にする状況は地獄以外の何物でもないが、一応休暇扱いではあるし仕事が手につかない以上は仕方がない。なまえを外に出して、モブリットに纏わり付かれるよりはマシだ。
グッと拳を握ったなまえが前のめりになりながら目をキラキラ輝かせて、モブリットの長所を述べようとしているのを死んだ目で眺めることしか出来ない。


「ええっととにかくっ…モブリットさんは素敵な方なんです!」

「…そりゃ良かったな」

「はいっ。ちょっと不器用で誤解されやすいですけど、本当は誰よりも部下思いで情に深い人なんです」

「…あ?」

「それに私が怪我をしたら直ぐに気がついてくれて、ぶっきらぼうながらも自ら手当てしてくださるんですよ」

「オイ、なまえ」

「潔癖だし細かいし、自分にも他人にも厳しい人だけど…だからこそ私が側にいて支えたいんです。その為には命も惜しくありません」

「なまえ、そりゃあ…誰の話だ」

「え?誰ってもちろん……え、誰だっけ…?」


なまえが羅列する話がモブリットに全く当て嵌まらなくて、リヴァイは思わず頬杖をついていた手を離して視線を上げた。そこには自分の言葉に呆然としたようななまえがいて、リヴァイは心臓が大きく鳴ったのを自覚する。


「なまえ、お前…」

「…兵長、わた、し………すっごく眠たいで、す…」

「は?なまえ…っ、オイ!」


咄嗟に立ち上がったリヴァイがグラリと崩れ落ちたなまえの身体をしっかりと支えた。
慌てて顔を覗き込めば、なまえはぐっすりと眠り込んでいる。ホッと息を吐いたリヴァイは、すうすうと寝息をたてるその身体をしっかりと抱き込んで、隣の部屋のベッドへゆっくりと寝かせてやる。


「…起きたら元に戻ってろよ」


目にかかる前髪を優しく払いながら発した自分の声が思ったより弱々しくて、リヴァイは眉根を寄せた。思いの外ダメージは大きいようだ。
とりあえずハンジを呼ばなければ、と名残惜しげに離した己の手を握って、リヴァイはなまえを起こさぬようにそっと扉を閉めたのだった。





それから数時間後。
なまえは困ったように眉を下げ、がっちりと抱え込まれた体勢のまま恐る恐る手を伸ばした。意外とさらりとした黒髪を撫でれば、その髪の持ち主がぴくりと反応する。


「リヴァイさん、ごめんなさい」

「…別にお前が悪ィわけじゃねぇだろ」

「それでも。ごめんなさい」


くぐもった声で答えたリヴァイが漸く顔を上げる。
久しぶりに見たその顔が迷い子のような幼さを孕んでいて、なまえはもう一度そっと手を伸ばした。


「ごめんなさい」

「…元に戻ったならそれでいい」


そう言って、伸ばした手ごとなまえを引き寄せたリヴァイの胸元に再びおさまった。
突然の眠りについたなまえを診たハンジが薬が切れる兆候だろうと告げた通り、暫くして目を覚ましたなまえはすっかりいつも通りだった。ただ記憶は曖昧らしく、ハンジから話を聞いたなまえは顔を蒼くさせたり赤くさせたりした後、泣きそうになりながらモブリットとリヴァイへ頭を下げた。
だがなまえが目覚めた後もむっつりと黙り込んだままのリヴァイを見たハンジが、これはヤバイと二人を再びリヴァイの部屋と押し込んだ。本当はなまえから色々とデータを取りたいのだが、それよりも先にリヴァイの機嫌を直すことが最優先だ。このままでは兵団は人類最強の八つ当たりによって壊滅させられるかもしれないと、ハンジは冗談では済まない危機感を抱いたのだった。
されるがまま部屋に押し込まれたなまえが再度謝罪しようと口を開く前に、リヴァイが彼女を抱き締めたまま動かなくなる方が早かった。


「…お前が」

「リヴァイさん…?」

「お前が…俺のことを全く見ねぇのがこんなにもキツいとは思わなかった」

「ご、ごめんなさい」

「はぁ…」


自分に非はないはいえ、ここまで分かりやすく落ち込んでいるリヴァイを見れば申し訳なさが募ってくる。どうにかならないか、と頭をフル回転させたなまえは、ゆっくりとリヴァイの両頬に手を当ててその視線を上げさせた。


「なまえ?」

「私がモブリットさんのことを好…」

「その単語を言うな」

「あ、ええと…私がモブリットさんに心が向いてる間の記憶は曖昧なんですが、それでもリヴァイさんのことをずっと想っていたと思うんです」

「…なんでだよ」

「記憶はところどころなんですか、リヴァイさんに私の好きな人の好きなところの話をしていた気が…」

「あぁ…確かにしてたな。不器用だとか厳しいだとか、怪我を手当てしただとか」

「あ、やっぱり。それ、リヴァイさんのことですよ?」

「…モブリットの話じゃねぇとは思ったが」

「ふふ…私がリヴァイさんのことをどう思ってるかすっかり知られちゃいましたね」

「悪かったな、潔癖で細かい野郎で」

「そういうところも含めて大好きって話です」


そうだとは思っていたが、やはりあれはリヴァイのことを指していたようだ。むず痒いような照れ臭いような、はたまた拗ねている自分が阿呆らしいようなそんな複雑な気持ちで、リヴァイはなまえの額を軽く弾いた。


「いたっ」

「大体クソメガネのクソみてぇな薬を簡単に飲んでんじゃねぇよ」

「それは…反省してます、はい」

「…罰として今日は一日この部屋にいろ」

「あ、そういえば仕事は…」

「お前も俺も今日は休みだ。エルヴィンの許可は取ってある」

「あら、棚からぼた餅ですね」

「…なまえ」


幸い薬の効果が早く切れたことで、隔離という名の休暇はまだ半日近く残っている。
嬉しそうに頬を緩めたなまえの名を呼んだリヴァイが、そっと首筋へ唇を押し付けた。


「んっ…リヴァイ、さん…?」

「お前は俺のもんだろ」

「そうですよ?私の心も身体もリヴァイさんのものです」

「それなら…命なんて惜しくねぇとか言うんじゃねぇよ」

「え…?」

「巨人相手だろうとなんだろうと死ぬことは許さん。お前の命も俺のものだ、なまえ」

「…了解です」


記憶には無いが、何かリヴァイの琴線に触れることを言ってしまったらしいとなまえは反省する。言葉は横暴だが、なまえに触れる指先と唇がどこか縋るように感じて、なまえもそっとリヴァイの頬に唇を寄せた。


「そういえば…お前、紅茶屋に修行なんて行ってたのか」

「はっ…?え、なんで知って…!?」

「ご丁寧にさっきのお前が教えてくれたぞ」


少しは回復したのか、先ほどとは正反対に楽しそうに口角を上げたリヴァイの言葉に、改めてハンジの薬を恨んで頭を抱えた。少しでもリヴァイの役に立ちたくて、その瞳に映りたくてこっそり努力していたことがこんな形で露呈してしまうとは。


「…笑うなら笑ってください」

「まさか。可愛い奴だと思っただけだ」

「っ、もうっ」


プイッと横を向いたなまえに、くつくつと喉の奥で笑うリヴァイ。機嫌は直ったようでホッとするが、知られたくなかった過去の自分の必死さが恥ずかしくてなまえは頬を染めた。


「…そんなことをしなくてもとっくにお前に惚れてたけどな」

「え?なんですか?」

「なんでもねぇよ」


小さく呟いたリヴァイに聞き返したなまえを軽くあしらい、とりあえず自分が受けた心の傷をしっかり癒してもらおうとなまえを優しく押し倒すのだった。


-fin



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