アイのかたまり


*R15



「や、アッ…あ、ん…!だめ、だめですっ…へ、いちょっ…!」

「っ、くっ…」

温かい白濁がお腹の上に吐き出されるのをぼんやりとした意識の中で感じた。
ゆっくり離れていったリヴァイの温もりに寂しさを感じながら、縋りそうになる手をなんとか堪える。

「…身体、平気か」

「は、い…」

なまえの横に倒れ込んだリヴァイが優しく前髪を梳きながらそう声を掛ける。
まるで恋人同士のような触れ合いに更に高鳴る心臓に気がつかないフリをしつつ、ゆっくりと目を開けた。すると吐き出したものを丁寧に拭おうとするリヴァイの姿が目に入り、慌てて静止する。

「へ、いちょう、そんなことしなくて良いですからっ…!」

「気にすんな。キツいだろ、お前は寝とけ」

起き上がろうとする腰に響く鈍い痛み。何度も求められた身体は正直で、休息を欲していた。
恥ずかしさと申し訳なさが募るが、それよりも急激に襲ってくる眠気になんとか瞳をこじ開けるのが精一杯だ。

「…いいから寝てろ」

「で、も…シャワーと、シーツと…あと…」

「あとは全部俺がやる。…おやすみ、なまえ」

そう言ってリヴァイの掌がなまえの目を覆った。その温かさにまだこの夢の中にいられるのだと安心して、素直に目を閉じる。
彼の恋人でも何でもない自分がこうして甘やかしてもらえるこの時間を、少しでも長く感じていたい。

「なまえ、俺は…」

リヴァイが何か言う声が聞こえた気がした。
ちゃんと聞きたいのに、襲いかかる眠気に耐えきれずなまえは意識を手放した。



リヴァイとの関係が始まったのは、班長を務めていた班が全滅し、なまえだけが生き残ってしまったあの日だった。
無力さと自分への怒りで泣くことすら出来なかったなまえは、灰になる仲間を見送ったあと酒瓶を片手にふらりと裏庭へ向かっていた。
茂みの中にあるなまえだけの隠れ場所には先客がおり、それがリヴァイだったのだ。

「…リヴァイ兵長」

「なまえ…?」

何をするわけでもなくぼんやりと夜空を見上げているリヴァイの姿は珍しく、なまえは目を見張りながら声を掛けた。
以前から想いを寄せていたリヴァイとポツリポツリと言葉を交わしている内に、彼もこの場所の常連だったことがわかり、なまえが持ってきた酒瓶を二人で空けるのに時間は掛からなかった。

「兵長…兵長は、毎回こんな思いをしてるんですか…?」

「…俺だけじゃねぇだろ」

誰かの命を預かる責任の重さ。
それを守れなかった時の無力感と憤り。
人類最強と持て囃され、祭り上げられた彼が勝手に背負わされた命の重さは、なまえには想像もつかない。

「兵長…私、もっと強くなります。誰も死なせないように…少しでも多くの仲間を救えるように」

「…ああ」

「もっともっと力をつけたら…兵長の背中を守れるくらいになれますかね?」

驚いたようになまえを見たリヴァイが、僅かに頬を緩めた。自分が守れずに誰かを失う気持ちを知った今、壁外調査の度にそれを背負うリヴァイの力になりたいと心から思った。

「百年早ぇよ。だが…悪くない」

そう呟いたリヴァイの声音が優しくて柔らかくて、なまえは涙を流した。
今まで泣けなかった分を全て出し切るように泣くなまえを、少し乱暴に引き寄せて腕に収めたリヴァイに縋り付く。降ってきた唇は僅かに震えているように感じてまた涙が溢れてくる。

「リヴァイ、兵長っ…」

「…なまえ」

そのあとはなし崩しだった。
少しの時間も惜しいというようにリヴァイの部屋に引っ張られ、そのまま力強く、だが甘く抱かれた。
その日からリヴァイが「今夜、部屋に来られるか」と掛ける言葉が合図になって、この関係が続いている。
すぐに終わるだろうと思っていた関係は一週間と空かずに続いていて、もう半年以上だ。

(…いつか終わっちゃうのかな)

なまえはリヴァイのことが好きで愛しくて、身体だけの関係でもなんとか繋がっていたいと思っているが、リヴァイはそうではないだろう。
もしかしたらなまえ以外にもこういう関係の女性がいるのかもしれない。

(好き、なんて今更だよね…)

なまえがリヴァイに気持ちがあると知られてしまったら、この関係は終わってしまうかもしれない。そもそもリヴァイにちゃんとした恋人が出来たらもう続けられない関係だ。せめてそれまでは、と願ってしまうのは醜いなまえの執着心からだ。

「なまえ。訓練帰りか」

「エルヴィン団長、お疲れさまです」

痛む腰を摩りながら歩くなまえにエルヴィンが声を掛けた。訓練帰りなのは事実だが、それだけではない腰の痛みにどこか気恥ずかしさから曖昧な笑みを浮かべる。

「なまえは本当に熱心だな。ナナバも褒めていたよ。次の班編成では君を班長として組み込みたいようだ」

「いえ、もったいないことです」

書類を持ったエルヴィンがにこやかに話しながらなまえの隣を歩いている。
団長という立場でありながら、エルヴィンは以前からなまえによく声を掛けてくれていて、今では穏やかに会話が出来るようになっていた。
二人で兵舎に向かう道すがら話を弾ませていたが、エルヴィンが思わぬ爆弾発言を投下した。

「そうだなまえ。リヴァイとはうまくやれているのか?」

「え…?」

「二人の休みを合わせるのが中々難しくてな。申し訳ないと思ってはいるんだが…」

「あの、団長、何の話でしょうか…?」

「ん?リヴァイと付き合っているんだろう?」

「っ、え、いえ!そんな恐れ多いっ…」

「…もしかして私の勘違いかな?てっきり二人は恋人同士だと思っていたんだが」

「いえ、まさか…。私なんかがリヴァイ兵長の恋人なはずないじゃないですか」

「だが……いや、そうか。悪かったね、変な誤解をして」

「いいえ、気になさらないでください。あ、団長、私こっちなので、これで失礼します」

「ああ」

ぎこちない笑みを浮かべて敬礼をしたなまえが去っていくのを、エルヴィンは複雑そうな表情で見送った。
己の勘違いで恥ずかしい思いをさせてしまったと反省するが、まさかの展開に顎に手をやり思案する。

(…まさか付き合ってないとは)

リヴァイとなまえの様子から、隠してはいるがそういう関係なのだと思っていた。
エルヴィン以外は気が付いていないだろうが(もしかしたらミケは匂いで気付いているかもしれない)、リヴァイのなまえを見る視線や接する雰囲気は、ただの部下に対するものではなかったはずだ。

(これは…拗らせているな)

想像でしかないが、どうせリヴァイの口下手で不器用な態度がなまえを勘違いさせているのだろう。兵士同士の恋愛ごとに首を突っ込む気はさらさらないが、リヴァイに関しては放っておけば取り返しのつかないことになる気がする。

(どうしたものか…)

「オイ、エルヴィン。廊下に突っ立ったまま何してやがる」

まさに思い浮かべていた人物の声に思わず苦笑してしまう。振り返れば、リヴァイが腕を組んで怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「てめぇみたいなやつが廊下のど真ん中で突っ立ってたら邪魔だろうが。クソでも我慢してたのか?」

「リヴァイ…まさかなまえにもそんなこと言ってないだろうな」

「あ?なんでそこになまえが出てくる」

思わずなまえの名前を出せば、リヴァイの視線が途端に鋭くなった。ピリ、と刺すような殺気さえ感じるようで、やはり自分の勘は間違っていないのだと確信する。

「いや、今までなまえと一緒だったんだ」

「…そういえばお前はやたらなまえを気にかけるな」

「優秀な兵士を気にかけるのは団長として当然のことだろう」

どんどん鋭くなるリヴァイの視線に動じることなく飄々と答えるエルヴィン。
不快そうに舌打ちをしたリヴァイがエルヴィンの隣に立ち、下から強く睨みつける。

「あいつに変なちょっかい出してんじゃねぇ」

「リヴァイ…それはどんな立場で言ってるんだ」

「あ?」

「私はてっきり君たちは恋人同士かと思っていたが…なまえに聞いたら違うと言うじゃないか」

「は…?なまえがそう言ったのか?」

愕然とした顔を見せたリヴァイに、エルヴィンは今度こそ驚いて目を見張った。二人の間に盛大な勘違いがありそうで、しかもそれにリヴァイが気がついていなかったとは。
そんなエルヴィンの様子に気がついたのか、リヴァイが不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「…どっちにしろてめぇには関係のねぇ話だろ」

「いやいや、あるさ。なまえに恋人がいないのなら色々と遠慮をする必要はないだろう?そうだ、今度の夜会に私のパートナーとして…」

「ふざけんな」

エルヴィンのにこやかな提案を言葉途中でピシャリとはねつけるリヴァイ。
その雰囲気は並の兵士なら近付くことすら躊躇う程に張り詰めたもので、エルヴィンは内心苦笑しつつ溜息を吐いた。

「リヴァイ…なまえはあの通り魅力的な女性だ。そうでなくとも壁外では何があるか分からない。伝えられる時に気持ちを伝えて、ちゃんと言葉にする必要があるとは思わないか?」

「…うるせぇよ」

憮然とした顔を隠さないリヴァイだが、思い当たる節はあるのかその声は小さい。
そのままエルヴィンの横を通り過ぎたその姿は、どこか焦った雰囲気を醸し出していた。

「…全く。世話の焼ける二人だ」

小さくなるその姿を見送って、清々しいほどの青空を見上げたのだった。



エルヴィンと別れたリヴァイは焦燥感を募らせながら自室へと急いでいた。本当なら今すぐにでもなまえの元に行き話をしたいが、今の自分では彼女を怯えさせるだけだろう。
なまえと関係を持ってから約半年間、確かに明確な言葉は伝えていなかったが、リヴァイの中では所謂特別な関係ー恋人同士だと思い込んでいたのだ。

(恋人じゃねぇのに身体の関係だけあるなんて、そりゃまるで…)

なまえがどういう気持ちでリヴァイの誘いに応じていたのかが分からない。
てっきり自分と同じ気持ちだから、リヴァイと共に過ごしてくれているとばかり思っていた。
だがよくよく考えてみれば、一度関係を持った上官から声を掛けられ、部下が断ることが出来るものなのだろうか。

(まさかあいつ…ただの性欲処理に呼ばれてるとでも思ってんじゃねぇだろうな)

思い返せばなまえを部屋に招き入れた時は、ほぼそういう関係になっていた。もちろんただ話をしたり、紅茶を振る舞ったりするだけのこともあるが、圧倒的に少ない。
なまえが側にいて触れられる距離にいると思うと、思春期のガキのようにただひたすら求めてしまう。

「…クソが」

それに思い至れば、自分に向けて呻くことしか出来ない。
なまえの存在を知ってからここにいたるまで、決して少なくない時間を掛けた。なまえが一人で泣く場所があの裏庭の隠し場所だと知った時、折を見て遠くからそれを見守ってきたのをなまえは知らないだろう。
そしてあの日、班員を失ったなまえは必ずあそこに行くだろうと確信を持っていた。慰めて元気付けたいと思った純粋な気持ちからだったが、泣きながら縋るなまえにプツンと理性が切れてしまった。なんの言い訳も出来ない。


だがここでなまえと距離を置き、健全な関係を一から築くほどリヴァイに余裕はない。
一度彼女の笑顔、柔らかさ、高すぎない声、遠慮がちに触れる指先、その全てを知った今、なまえを遠ざけることなど出来るはずもなかった。
そんなことをした日には、己のパフォーマンスに確実に影響することは分かりきっている。最悪壁外に出た瞬間、巨人に喰われるかもしれない。
それならリヴァイに出来ることはただ一つ。
今まで通りになまえと共に時間を過ごし、だが手は出さない。普通の恋人同士のように、穏やかな時間を過ごせば良いだけだ。
そしてリヴァイが身体だけが目的ではないとなまえがちゃんと理解した時に、改めて自分の気持ちを伝えれば良い。
そう決意したリヴァイの横顔は、いっそ悲壮なほどの厳しさに満ちていた。



最後にリヴァイと関係を持ってから約一ヶ月。
なまえは焦りと不安を織り混ざった表情で、今日もリヴァイの部屋を訪れていた。
呼ばれる頻度は変わらないものの、この一ヶ月は身体の関係どころかキスすらもしない日々を過ごしていた。

(兵長…ついに恋人、出来たのかな…)

呼ばれてただ日常の話をしたり、エルヴィンから貰ったという菓子を摘んだり、リヴァイ御用達の紅茶をご馳走になったり。
触れるどころかリヴァイはなまえの隣に座ることさえない。もしかしたら恋人が出来たけれど、なまえに気を遣って言い出せないのかもしれない。だからこうして少しずつ距離を取って、なまえから離れようとしているのかもしれない。
エルヴィンに恋人だと勘違いされたのが不快で、ただの上官と部下に戻るための準備かもしれない。
ぐるぐるとなまえの頭の中を巡る考えとは裏腹に、自室に招き入れたリヴァイの態度はいつも通りだ。優しくなまえの近況を聞き、困ったことや嫌なことは無かったか確認する。これは身体の関係があった時から変わらないやり取りで、リヴァイは必ずなまえを気に掛けてくれていた。

「何もありませんよ。あ、今日の訓練でオルオさんがまた舌を噛んでました」

「あいつ…噛みすぎてそろそろ舌が無くなるんじゃねぇか」

呆れたように言いながらソファーに座って紅茶を啜るリヴァイ。
こんな優しさを身近に感じて喜びを覚えた今、彼への気持ちは抑えきれない程の大きさになっている。
なまえの手元にある紅茶も温かい湯気を立てているが、リヴァイとは机一つ分の距離があった。それが妙に寒々しくて、指先が冷えていく気がした。

「兵長は何かありました?」

「いや…そうだな、ハンジがまたクソみてぇな実験を始めてたぞ」

「へぇ、どんな実験ですか?」

まるで本当の恋人同士のような穏やかで、優しい幸せな時間。だけど、なまえの中にある焦燥感は無くなってくれない。それが溢れ出しそうになって、温かい紅茶のカップを包み込んだ。

「あの、兵長…」

「どうした?」

「…隣、行ってもいい、ですか…?」

最大限の勇気を振り絞って発した願い。
驚いたのか切れ長の目を見開いたリヴァイだが、一つ頷いて、自分の隣をポンっと叩いた。おずおずと移動したなまえは拳一つ分を開けてソファーへと座る。久しぶりに近くに感じるリヴァイの清潔な香りに、身体の芯が熱くなる気がした。

「…珍しいな、なまえ」

「すみません…」

「いや…」

先ほどまでの穏やかな雰囲気は霧散し、どこか気まずさの漂う空気が流れた。ギュッと両手を握り締めたなまえは、何かを決意したように勢いよく顔を上げてリヴァイを見る。

「なまえ、どうし……っ!?」

ふわりと香ってきたなまえの甘い匂いを感じると同時に、唇に柔らかい温かさが触れる。
なまえがキスをしたのだと理解すると共に、思わずその肩を持って引き剥がしてしまった。

「へ、いちょ…」

「っ、悪いっ…」

顔を背けるリヴァイに絶望的な表情をするなまえ。
やはり自分には触れられたくもないのだと、そう確信したなまえの手が震えてしまう。それを隠しながらソファーから立ち上がった。

「…私、戻ります。すみませんでした」

「なまえ、待て…違うんだ」

「もうここには来ないようにしますね。今まで…ありがとうございました」

最後くらい笑顔でいたいと、そう笑ったなまえを茫然とした表情で見つめるリヴァイ。伸ばした手を擦り抜けて、なまえが扉へ向かう。

「なまえ、待てっ…!」

扉に手を掛けたなまえを勢いよく引き寄せ、そのまま壁に押し付けた。
優しくしようとか、なるべく触れないようにしようとか、そう決意した気持ちは全て吹っ飛んだ。今はここからなまえを帰したくないと、ただそれだけだ。

「…どうしました、兵長」

「悪かった。お前を傷つけるつもりは…」

「傷ついてなんていません。兵長、もう私との関係に飽きました?私、気にしませんから放っておいでください」

「…は?何言ってやがる」

「ですからっ…恋人か他に抱きたい人でも出来ました?私はもう大丈夫ですからっ…もう離してっ…!離してください!」

たがが外れたのか、投げやりに叫ぶなまえ。そんな姿は初めて見るもので、リヴァイは思わずその身体を抱き締めた。
ぽろぽろと涙を流しながらリヴァイを振り解こうと暴れるなまえを絶対に離さないよう、両腕に力を込める。

「なまえ、悪かった…違うんだ。俺が悪かった」

「はな、離してくださっ…い!私、もう嫌なんです…!」

「離したらお前は出て行くだろ。それだけは耐えられねぇ」

「なんで…!兵長には他にもいるじゃないですかっ…触りたくもない私なんかより…」

「違ぇ!」

リヴァイがあげた悲痛な大声にびくりと身体を震わせたなまえが、恐る恐る視線を上げた。
目に飛び込んできたのは、酷く傷ついたように顔を歪める苦しそうなリヴァイの表情だった。

「兵長…?」

「お前の気持ちも考えずに好き勝手抱いたのは俺だ。…すまなかった」

眉を寄せたまま、それでも真剣な表情でそう謝るリヴァイになまえは目を伏せる。
リヴァイだけの責任ではない。この名前のない関係に甘えて、ぬるま湯に浸っていたのはなまえの方だ。
きっとリヴァイはなまえがこの関係に傷ついて、清算したくて離れたいと泣き喚いていると思っているのだろう。最後にきちんと謝罪をするのが優しい彼らしくて、また涙が溢れた。
謝って欲しくない。謝られたら、今までの関係が全て嘘で間違ったものだったと突きつけられてしまう。

「違う…違うんです、兵長」

「違わねぇ。きちんと言葉にせずお前の優しさに甘えていた俺の責任だ。俺のエゴでなまえの時間を奪っていた。悪かったと思っている」

ああ、やはりこれが最後なのだと、自分で望んだはずなのに嗚咽ばかりで言葉にならない。
さっきまで自分から終わらせようとしていた関係なのに、まだこの温かさに縋り付きたくなってしまう。

「へ、いちょ…う、…」

「話を聞いて欲しい。ちゃんと話をしてぇ」

小さく頷いたなまえを腕の中に抱えたまま、リヴァイは大きく息を吐く。
どうすれば彼女がこの腕から離れていかないか、それすらも分からない。だが今自分に出来ることは、ただ素直に言葉を紡ぐことだけなのだとそれだけは理解していた。

「ここ最近お前に触れなかったのは…なまえに嫌な気持ちをさせたくなかったからだ」

「え…?」

「エルヴィンに聞かれたろ?俺たちの関係を」

「は、はい…」

「その時、恋人同士じゃねぇと答えたと聞いている」

「え、はい…もちろん…」

「…俺はそのつもりだったんだが」

「え、と…そのつもり、とは…?」

「だから…なまえとは恋人ってやつだと思ってたんだが」

「…はい?」

照れ臭いのかなんなのか、はたから見ればものすごく凶悪な面でボソリと呟くリヴァイに、なまえは衝撃のあまり涙も引っ込んだ目を大きく見開いた。

「恋人、とは…」

「…ああ」

「誰と、誰がでしょうか…?」

「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ。お前と俺に決まってんだろうが」

「いてっ」

ぺちり、となまえの額を軽く叩いたリヴァイの表情は不服そうだ。咄嗟に額を押さえたなまえは未だ信じられないというように、その顔を凝視している。

「だがお前はそうじゃねぇと言っているとエルヴィンから聞いた。考えてみれば…ちゃんと言葉にもしてねぇし会えるのは夜だけで、しかもお前を抱いてばかりだと気付いてな。今さらだが、その…恋人らしい時間を取ればなまえにも分かってもらえるんじゃねぇかと…」

そう思ったんだが、と気まずそうに視線を逸らしながら言ったリヴァイを見て、また涙が溢れてくる。

「兵長っ、わた、し…兵長が全然触れてくれなく、なって…もう飽きちゃったのかな、って…、恋人とか出来たのかなって思って…」

「…悪かった。お前が側にいるとどうしても触れたくなるし、触れれば抱きたくなる。だからなるべく近くにいねぇようにしてたのに…まさかなまえからキスされるとは思わねぇだろうが」

「っ、ごめんなさ…い」

「謝る必要はねぇ。…あれがなまえの気持ちだと思っていいのか」

「あ…」

なまえを再び抱き締めながら、リヴァイが耳元で囁いた。熱が篭ったその声音にぞくりと背筋に震えが走る。

「兵長…兵長は、その…私のことを…」

「…好きだ。順番は逆になっちまったが、お前のことがずっと好きだった」

真っ直ぐに伝えてくれた言葉。
ジワリと滲む視界を何とか拭ってリヴァイの胸からそっと距離を取り、しっかりと顔を見上げた。
触れたいと、触れて欲しいと願うのはただ一人だけだ。

「大好きです、リヴァイ兵長」

「っ、なまえ…」

性急に降ってきた口付けに必死に応える。
ちろりとリヴァイの舌がなまえの上唇をなぞった。咄嗟に開いた口内に侵入してきた舌が、好き放題に歯列をなぞり、上顎を撫でる。

「ふ、ぅ…ン…ぅ」

「はっ…なまえ、閉じるな」

「へいちょっ…」

流石に苦しくなって唇を閉じようとしたなまえを制し、リヴァイの舌が再び口内を荒らす。飲み込めきれなかった唾液が首筋まで伝い、ひんやりとした空気を伝えてきた。

「ん、ふ…んぅ…、はっ…」

「っ、クソ…」

とろんとした瞳でリヴァイを見上げたなまえの頬が赤く染まっている。濡れた唇と首筋がなんとも官能的で、リヴァイは昂る熱を抑える事が出来ない。

「チッ…エロい顔してんじゃねぇよっ…」

「へ、いちょう…すき、です」

「…煽んな。抱きたくなるっつったろ」

掠れた声で答えながらなんとかなまえから視線を逸らしたリヴァイの手を取る。
そのまま自らの頬をその手に擦り寄せたなまえは、激しい口付けのせいで潤んだ瞳を瞬いた。

「抱いて、欲しいです、」

「お前っ、」

「兵長、寂しかった…です」

「クソっ…手加減出来ねぇからな」

一筋流れた涙を舌で拭い、リヴァイはギラギラとした目をなまえに向けた。
そのまま再び降ってきた口付けに必死に応えながら、二人で床にもつれ込むのだった。



「ひぁっ、待って、へいちょ、やァ…!」

「っ、なまえ、」

「だ、め、イッちゃ…い、く…!ン、ア、ああぁ!」

「っ、う…!」

びくんと大きく身体をしならせたなまえのナカが急激に締まったのに一瞬遅れて、リヴァイも素早く引き抜いたモノから白濁を吐き出した。
あのまま床で一度、ベッドに変えて一度、甘く声を上げるなまえにとどまることのない欲を感じて愛し尽くした。

「は、あ…ん…」

「なまえ、大丈夫か」

「は、い…」

ちゅ、と小さくキスを落としたリヴァイが優しく髪を撫でる。心地良い気怠さがなまえの全身を覆い、今は指一本動かせる気がしない。

「寝ていいぞ。あとは俺がやる」

「で、も…兵長に、いつも…」

「…眠るお前を好き勝手弄れるのは俺の特権だからな」

「え、兵長…なにしてんですかっ…」

「冗談だ」

思わずがばりと身体を起こしたなまえを即座に布団に押し込み、リヴァイが平然と答える。
今までよりも距離の近いやり取りに頬が緩んだ。

「リヴァイ兵長…キス、したいです」

だから甘えてみたくなった。
少しだけ驚いたように目尻を上げる彼の姿も、すぐに表情を和らげてキスをしてくれるその優しさも、実は最初から全て自分のものだったのだと感じたくなった。

「ふふ…嬉しい」

「…俺はキツいぞ」

「え?なにがです?」

深々溜息をついたリヴァイが無言で押しつけてきたモノの熱さに、ビクッと腰が震えてしまう。
まさか、と恐る恐る見上げると切れ長の瞳に隠しきれない欲情を湛えたリヴァイと目が合った。

「へ、兵長…寝てていいって…」

「ああ。だが余裕そうだからな」

「いえっ、全然っ!あ、明日も仕事で…」

「奇遇だな。俺もだ」

「兵長の体力と一緒にしないでください…!」

「なまえ」


観念して一ヶ月分、俺に抱かれろ。


そう言って降ってきた何度目かの熱い口付けに翻弄されて、なまえは諦めたようにそっとリヴァイの背中に手を回したのだった。


-fin



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