或る日


ある日の古城の夜。
水差しが空になったことに気がついたリヴァイは、そっと部屋をあとにして食堂へと向かった。
僅かに明かりが漏れていることに不審に思い中を見ると、そこにはペトラを除いたリヴァイ班の男たちが揃っていた。

「…オイ、お前ら」

「へ、兵長!!」

一斉に立ち上がって敬礼をした彼らは、リヴァイの低い声音に冷や汗を流している。

「お前ら…せっかく早く解散したのにこんなところで何してやがる」

「す、すみません…!ちょっと眠れなくて水を取りにきたら、グンタとエレンがいまして…」

「今日のエレンの見張りは俺なんですが、エレンの奴、食堂に長距離索敵陣形の図を忘れたから取りに行きたいと…」

「兵長すみませんっ!オレ、どうしても復習したくて…!」

「お、俺はこいつらがこんなところで油を売っているのを見て注意を…」

「…もういい」

必死になって言葉を続ける彼らに呆れたようにため息をついたリヴァイが、机に置かれた四つへのティーカップへとチラリと目を遣った。
たまたまタイミングよく集まったことをいいことに、夜のお茶会と洒落込んでいたらしい。
それに目敏く気がついたグンタが、「兵長もよろしければ…」と恐る恐る声を掛ける。
一瞬部屋の様子を思い浮かべたリヴァイだが、そこまで時間を取らなければ大丈夫だろうと一つ頷いた。

「ああ…じゃあ頼めるか」

「っ、兵長!オレ、淹れてきます!」

「…エレン。下手なモン淹れたら承知しねぇぞ」

「了解です!」

再び敬礼をしたエレンが足音も荒く紅茶を淹れに行ったのを見送り、リヴァイが席についた。
それに従って腰を下ろしたエルドとグンタ、オルオの顔に安堵の色が広がる。

「にしてもガキは元気だな…」

「今日も一日ハンジさんの実験に付き合っていたのに…やる気は十分ですね」

リヴァイの呟きに答えたエルドが苦笑を溢す。
「ペトラは?」と聞くと、「グンタと交換でエレンの見張りなので部屋にいるかと」とオルオが丁寧に答えた。

「そういえば兵長はどうしてこちらに…?」

「…水が足りなくなってな」

次いでグンタの問い掛けにリヴァイが静かに答えれば、「あとでお持ちしますか」と律儀な返答が返ってきた。
いくら業務時間外、プライベートに近い時間だとはいえこんな古城の中で上官と一緒では気も休まないだろう。
そう考えたリヴァイはグンタの言葉に首を振り、エレンの淹れた紅茶を飲んだらすぐ戻るかと改めて考える。

「兵長、お待たせしました!」

そこへエレンが緊張した顔で紅茶をリヴァイの元へと運んできた。今まで何度か淹れさせたが、中々ひどいものだったことを思い出し眉を寄せてしまう。
が、今回のこれは香りといい色といい、満点には遠く及ばないものの格段に上達している。

「おいエレン…随分マシなモン淹れられるようになったじゃねぇか」

「ほ、ほんとですか!」

「味は分からねぇが…少なくとも今までの泥水みたいな飲み物より大分飲めそうだ」

「泥水…」

「エレン!泥水と思いながらも飲んでくださった兵長に感謝しろよ!」

ショックを受けたエレンは、彼が褒められたのが気に食わないのか敵意を剥き出しにするオルオに「はあ」とおざなりに返答して肩を落とした。
が、すぐに気を取り直したように椅子に座ったエレンが、どこか得意げに表情を明るくした。

「実は先日、なまえさんに教わったんです」

「なまえ?」

「この前なまえさんが書類を届けに来た時に…エレンの奴、何とか兵長の好みの紅茶を淹れたいのでって泣きついたんですよ」

「ちょ、グンタさんっ、泣いてないですよ!」

「ほう…中々良い心掛けだな」

「兵長補佐のなまえさんなら、きっと兵長好みの淹れ方を知っていると思いまして…すごく丁寧に教えてくれました」

「なまえさんはお前だけに優しいんじゃないんだからな!リヴァイ班みんなのなまえさんだぞ!」

自分でも今までで一番上手く淹れられたと自信があるのか、エレンの声も表情も明るい。
オルオは突っかかりながらも口を尖らせ、それを揶揄うグンタとエルドの顔つきもどこか優しげで、エレンがこの班に着実に馴染んでいることを表していた。

「しかしエレン…お前、疲れてないのか?実験続きだし覚えることも多いだろ」

「は、はい…疲れていないこともないですが、それよりも早く巨人化の力を自分のものにして兵団の役に立ちたいです」

エルドの気遣うような言葉を聞きながら、リヴァイは黙って紅茶を啜る。全く好みの味では無いが、これなら最後まで飲めそうだ。
気にするようにリヴァイの様子を見るエレンに一瞥をくれてから、「…飲めんこともない」と小さく呟く。あからさまにホッとしたエレンから視線を逸らすと、もう一口口に含んだ。

「それにしても…ここにきて急激に色々進んだな…」

「そうだなエルド…お前、恋人にも久しく会えてないんじゃないか」

「え、エルドさん、恋人がいるんですか!」

「ああ、まぁなかなかな…だが調査兵をしてる以上仕方がないと、彼女の方がそう言ってるさ」

リヴァイに気遣うように曖昧に答えるエルド。
カチャン、とカップを置いたリヴァイは椅子の背もたれに手を掛けて寛いだ様子を見せながら口を開いた。

「…理解ある恋人じゃねぇか。大事にしろよ」

「っ!はい!ありがとうございます」

意外なリヴァイの言葉に驚いた様子のエルドだったが、嬉しそうに笑って頷いた。
色恋にとんと疎そうなエレンが、無邪気に聞く。

「グンタさんは?恋人とかいるんですか?」

「…いねぇよ」

「へぇー…」

苦虫を噛み潰したようなグンタに、エルドがにやにやしながら「こいつ、最近振られたんだよ」と突っついた。曰く、あまりに会えない日々に愛想を尽かされたらしい。

「オイ、エレン。そんなに俺の恋人の有無が気になるか?それなら仕方がない。俺は…」

「あ、オルオさんのは大丈夫です」

「なんでだよ!」

サラッとオルオを流したエレンが、不思議そうな顔つきでグンタの方へ顔を向けた。

「…その、そんな会えるとか会えないとか、そういうの大事なんですかね」

「エレン…お前にもいつかわかる」

訳がわからないという表情のエレンに疲れたようなグンタ。
それを笑いながら眺めるエルドが、ふとリヴァイへと視線を向けた。

「そういえば兵長…今日なまえさんが来る日でしたよね?」

「ああ」

「え、そうなんですか?でも姿が…」

「俺たちが解散してから到着したからな。もう部屋で寝てるだろうよ」

エレンの疑問に素っ気なく言ったリヴァイに納得したらしい彼らを横目に、リヴァイは静かに紅茶を飲んでいる。大分緊張が解れたらしい四人は、会話を弾ませていた。

「そういえばオレ、なまえさんの討伐数と討伐補佐数を聞いて驚きました…」

「ははっ。あの人の戦い方はすごいぞ。なんというか…風みたいだ。な、エルド」

「そうだな…ぱっと飛び上がったと思ったら次の瞬間には巨人が倒れている…そんな感じだ」

「ふん。お前なんかじゃ逆立ちしたって無理だ。あの人の討伐数は兵長に次ぐんだからな」

「はあー…すげえ…」

「真似すんじゃねぇぞエレン。あいつのアレは無鉄砲と紙一重だ」

「えっ…」

「いっつも兵長に絞られてますもんね、なまえさん…」

エルドの苦笑混じりの笑みと、苦虫を噛み潰したようなリヴァイの顔を交互に見たエレンが首を捻る。
エルドと同じ笑みを浮かべたグンタが補足した。

「なまえさんな、実力は折り紙付きなんだが兵長の言う通りちょっと向こう見ずなところがあってな…。兵長や部下を守る気持ちが強くて、一人で突っ走ることも少なくないんだ」

「チッ…それで怪我してちゃ元も子もねぇだろうが」

「怪我…あ、それで今回の壁外調査には参加されないんですね」

兵長補佐のなまえが第57回壁外調査には参加しないと聞いていたエレンが納得したように頷いた。
なんでも前回の壁外調査で新兵を巨人の口から引っ張り上げ、その際に肩を痛めたらしい。今はほぼ全快に近いらしいが、今回の作戦の性格上、大事をとって壁内警護につくという。

「まあ…それも納得させるまでに時間が掛かったがな」

「はは…普段は飄々としてるなまえさんがあんなに怒った顔、初めて見ました」

「確かに…恐ろしかったな…」

「俺、初めて、オルオ黙っててって言われました…」

「そんなに…」

げんなりとしたリヴァイ、ぶるりと身体を震わせたエルドとグンタ、その時を思い出したのか涙目になるオルオに、エレンは唾を呑み込んだ。
いつもにこにこ笑っていて、エレンにも気さくに話し掛けてくれるなまえが怒るところは想像出来ない。
曰く兵長補佐の自分が壁外調査に参加出来ないなんて、とエルヴィンにまで直談判をしたらしいが、リヴァイの淡々とした説得と「これ以上駄々捏ねるならハンジの手伝いをさせるぞ」という脅しに渋々折れたらしい。それを聞いたハンジが「色々とひどすぎるよ!」と騒いでいたという。
ぼんやりとなまえのことを考えていたエレンは、ふと思いついたようにリヴァイを見た。

「…そういえば、リヴァイ兵長は恋人っていらっしゃらないんですか」

「お、おいエレン!」

「なんだクソガキ…一丁前に色気づきやがって」

「ち、違いますよ!グンタさんが中々会えなくて振られたって言うなら…兵長やなまえさんみたいに休みもなさそうな人たちってどうなんだろうと…」

「ほう…いい度胸だ」

「エレン、お前兵長になんてこと聞いてやがる!」

ぶんぶんと手を振るエレンに低い声で答えるリヴァイ、それをグンタが青白い顔で止めに入り、オルオはエレンの胸倉を掴む勢いだ。
エルドは面白そうな、興味深そうな顔でカップを啜りながら成り行きを見ていた。

「…時間がねぇ中でも会う努力をするのが恋人っつうもんだろ。少ねぇなりにも会える時間作ってんのに、それでも理解出来ねぇと騒ぐ女はやめておけ」

「兵長…」

グンタに向けた言葉だったらしい。
感極まったようなグンタが涙ぐんで乱暴に目元を擦っている。
言っていることはよく分からないが、今日の兵長はよく喋るな…とエレンは感心したようにその様子を見ていた。そしてはたと気がつき慌てて声を上げる。

「へ、兵長!オレの質問の答えになってな…」

「なんで俺がてめぇの質問に答えなきゃならねぇんだよ。女子か、てめぇは」

「じゃあ…じゃあせめて、好きなタイプとか…!」

「…気持ち悪ィな。んなもん知ってどうすんだ」

「いやその…兵長もいち男というか普通の人間だと思いたいというか…」

「そうかそんなに削がれたいか。望み通り今から稽古をつけてやろう」

夜中のテンションなのか、普段なら絶対に言わないであろう発言を次々と発するエレンに、他の三人はもはや黙って茶を啜っていた。それに確かにものすごく気になる話題ではある。

「ちょっとくらいいいじゃないですか兵長…こういう普通の会話、久しぶりなんです…」

「チッ…」

こんな背中がむず痒くなりそうな話題が普通かどうかは置いておいて、肩を落としたエレンの様子に不機嫌に舌打ちをしたリヴァイが渋々口を開く。

「…どんな時でも笑ってる女」

「えっ…」

「自分が辛い時も苦しい時も、泣きゃいいのに歯食いしばって不細工な顔で笑ってやがる。絶対に挫けねぇし折れないが…そいつが弱ってる時はそばにいてやりてぇと思う」

「え…それって…」

「よーし、エレン。さすがにそろそろ寝ないと明日に響くぞ。兵長もすみません」

「え、え?エルドさん…?」

目を大きく見開いたエレンの言葉をパンっと手を叩いて遮ったエルドが、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。それに倣ったグンタがエレンの首根っこを掴み、「クソガキは寝る時間だ」とオルオが発破を掛けた。

「地下室に戻るぞ」

「ちょ、グンタさん!一人で歩けますって!」

「片付けはしときますんで、そのままにしてください、兵長」

「…ああ、頼んだ」

素直に頷いて水差しに水を追加し、扉へと向かったリヴァイを四人分の目が見送った。エレンはまだ何か聞きたげに口を開いたが、それをグンタの手が遮る。

「ひょ、ぐんははんっ…!?」

「では兵長おやすみなさい」

「明日もよろしくお願いします」

「いい夢を、兵長!」

「ああ。お前らも早く寝ろよ」

敬礼をした三人と口を覆われたままのエレンの見送りを背に、食堂の扉がパタンと閉まる。
足音が遠ざかっていくのを確認したグンタが大きく息を吐いてやっとエレンを解放した。

「っぷは…グンタさん!」

「お前はほんと…生き急いでるっつーか考えなしっつーか…」

「ま、そこがエレンのいいところだろ」

「けっ…馬鹿かお前は!兵長が珍しく答えてくれるからって調子乗ってんじゃねぇぞ新兵が!」

呆れたような感心したような、そんな顔で見交わすエルドとグンタ、焦った様子のオルオの様子に、エレンは不思議そうな表情で閉まった扉に目を遣った。

「なんか…兵長の話、いやに具体的でしたね」

「…まあそうなるだろうよ」

「やっぱりそういうことだよな、エルド」

「だろうな」

「え、何の話ですか?」

「お前にはわからないだろう…何故だかわかるか?それはお前がまだ…」

「ちょっと…先輩方だけわかってて不公平じゃないですか!?」

今度こそはっきりとした不満の色を浮かべたエレンの言葉に、年長者三人の声が重なる。


「「「生き残ったら教えてやるよ」」」



随分長居をしてしまった、と部屋の様子を思い浮かべながらリヴァイはやや足を早めた。
すると曲がり角からペトラが顔を出し、驚いたように目を見開く。

「兵長!どうされたんですか」

「…食堂に野暮用だ」

「まさか…まだオルオたちいました?」

「ああ。むさ苦しいお茶会とやらを開催してたぞ」

自分もそこに参加したことを棚に上げつつそういうと、大きく溜息をついたペトラがキッと眉を吊り上げた。

「早く解散するように言ってきます。お騒がせして申し訳ありません」

「…程々にな」

なまえといいペトラといい、リヴァイ班の女は笑顔の裏の意思の強さが際立っている。
これからペトラの説教を受けるだろう彼らにほんの少しだけ同情しつつ、リヴァイは彼女に背を向けた。

「あ、兵長」

「なんだ」

「おやすみなさい。それと、なまえさんに明日の朝はゆっくりで大丈夫だとお伝えください」

「…伝えよう」

にっこり笑ってそう告げたペトラが今度こそ食堂へと向かうのを横目に、リヴァイは先ほどのペトラよりも大きな溜息をついた。

(バレてんじゃねぇか)

やはりリヴァイ班の女は侮れない。
リヴァイの部屋で深い眠りについているだろうなまえを思い浮かべ、どこか気まずげな思いを抱きながら部屋へと向かう足を更に早める。
久しぶりの恋人との再会に喜色をあらわにしたなまえを早々にベッドに引き摺り込み、その可愛らしいリヴァイだけの姿を堪能した後だと、何故か罪悪感が湧いてくる気がした。

起きた時に喉が痛いと眉を下げるであろう愛しい恋人の姿を想像して、リヴァイは水差しを軽く握り締めるのだった。



ガラン、とした古城に己の足音だけが響き渡る。
彼らと男だけのお茶会をした食堂、ペトラの気遣いに気恥ずかしい思いをした廊下、彼らが真っ直ぐに前を向いて旅立った扉。
短い間だったが、この古城にはリヴァイ班の生きた思い出が色濃く残っている。
食堂の椅子へ座り込んだリヴァイは、息苦しさを感じて胸元のクラバットを少し緩めた。

「リヴァイ兵長」

「…なまえか」

「エレンは地下室の片付けをしています。とりあえず見張りは必要ないかと」

「ああ。なら…なまえ、今は二人きりだ」

「…うん、リヴァイさん」

ピンっと背筋を伸ばしたなまえの顔に涙の色はない。リヴァイ班の壊滅を聞いた時も、その後リヴァイと顔を合わせた時も、彼らの遺品を整理した時も、なまえは涙ひとつ流さなかった。

「…ここであいつらにお前の話をしたことがある」

「え…?」

「エレンの野郎が俺に恋人はいるのかと聞いてきやがったから、詳細はぼかして話をした。その時のあいつらの顔は今でも思い出せる」

なまえとリヴァイの関係はエルヴィンとハンジ、ミケ以外には公にしていないことだった。が、ペトラを含む彼らはきっと気がついていたのだろう。
エルドの見守るような優しげな瞳、グンタの少しでもなまえとリヴァイの負担を少なくさせようとする実直な働き、オルオがワザらしくエレンを引っ張っていってなまえとリヴァイを二人きりにさせようとした必死の気遣い、そしてペトラの全てを包み込むようなさりげないフォロー。
それに気がついた時、リヴァイはむず痒いようなくすぐったいような、そんな不思議な感覚に襲われた。だが決して不快では無かった。

「みんな、が…」

「ああ。あいつらにはとっくにバレていたらしいな」

「ふふっ…なんか恥ずかしいなあ…」

クスクス笑うなまえはやはり穏やかで、そこに表立った哀しみの色は見えない。
だがリヴァイには、なまえが誰よりも傷つき自分を責めていることはわかっていた。


自分がもし怪我をしていなければ。
壁外調査に参加していれば。
エレンのそばに、リヴァイ班のそばについていれば。
リヴァイが離脱した後、自分が班を率いていれば。


そんなたらればを考えても仕方がないと、なまえもリヴァイもとうに理解している。だからこそなまえは自分の中だけで自分を責め続け、表面にはそれを全く見せない。それはリヴァイの前ですら。

「そっかあ…。みんな知ってたなら、相談出来たなぁ色々と」

「何を相談するってんだ」

「えー?ペトラにはリヴァイさんへのプレゼントの相談でしょ。エルドには喧嘩した時の仲直りの仕方で、グンタとはリヴァイさんを休ませる方法!
オルオとは…うーん、リヴァイさんのかっこよさについて?」

「オイ、最後おかしいだろ」

「あははっ!そっかぁ…みんな知ってたんだ…」

おかしそうに笑ったなまえが、ふと遠い目で食堂の椅子にゆっくりと目を走らせる。
ついこの間までそこで賑やかな姿を見せていた彼らがそこに座ることは、もう二度とない。
「そっか…もったいないことしたな」と寂しそうに呟いたなまえを思わず抱き寄せて、リヴァイはその髪に顔を埋めた。

「…なまえ」

「はい、リヴァイさん」

「お前は…お前だけは何があっても死ぬんじゃねぇぞ」

「もちろんです。リヴァイさんを置いて死んだりしません」

エレンには彼女が挫けた時にそばにいてやりたいと言ったが、本当は支えられているのはリヴァイの方だ。
公私ともに背中も心も、そして心臓さえも預けられるのはなまえの他をおいていない。

「リヴァイさん…リヴァイさんがいれば、私はどこまでも前に進めます」

「ああ」

「でもやっぱり疲れることもあるから…そしたら一緒に休んでくれますか?」

「ああ…そうだな。悪くない」

くぐもったリヴァイの声に目を閉じたなまえの瞳から、一筋だけ涙が流れた。するりと頬を滑ったそれが床に落ちる前に、リヴァイの唇が落ちてくる。
目を閉じたままそれを受けたなまえの瞼の裏に、リヴァイ班の笑顔がまざまざと蘇ってきた。

(またね、みんな…そこで見ていて)

リヴァイの彼らへのたくさんの想いが、唇を通して伝わってくる。
なまえも彼らへの祈りを込めて、そっと唇を寄せたのだった。



-fin



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