傷痕に浮いた愛


※R15程度の描写あり



ふ、と唐突に浮上する意識に任せてうっすらとなまえは目を開けた。
室内は柔らかいロウソクの光でぼんやりと照らされている。ゆっくりと隣を見れば、穏やかに眠るリヴァイの横顔があった。

(珍しい…)

規則正しく上下する胸元から毛布がずれていく。少しずつ露わになるその逞しい腹筋に、昨夜の情事を思い出して、じわじわと頬が赤くなるのを感じた。
色々と立て込んでいたこの数週間、リヴァイと二人の時間が中々取れず、昨日は久しぶりの夜だったのだ。飢えた獣のように瞳をギラつかせたリヴァイに、文字通り貪り喰われたといっていい。

(喉渇いた…)

ヒリヒリする喉と鈍痛を訴える腰に、明日が休みで良かった…としみじみ実感する。リヴァイの向こう側にある水差しを取りたいが、動けば彼を起こしてしまいそうで身動きが出来ない。
仕方なくずれてしまった毛布を直そうと慎重にゆっくりと手を伸ばしたなまえの目にリヴァイの均整の取れた、しかしいくつもの傷痕が刻まれた身体が目に入った。

(この傷は部下を巨人の口から引っ張り上げた時のもの…こっちは訓練中に木から落下した兵士を助ける為に出来たもの…これは…確か、地下街にいた時に出来たものだって言ってたっけ)

起こさないように、と思う気持ちとは裏腹に、なまえの指先は刻まれたいくつもの傷を辿っていく。
初めて身体を重ねた日からもう何年経つのか、なまえがリヴァイの身体で見たことが無い場所は最早皆無だろう。それと同時に、彼に刻まれた傷痕一つひとつの理由すらもきちんと憶えている。

(そしてこれは…)

左肩あたりにある十センチほどの傷痕、それはリヴァイがなまえを助けた時に出来た傷だ。
まだ恋人同士になる前、部下を庇って巨人の掌に捕まったなまえをリヴァイが救い出した際に抉られたものだった。傷を見て悲壮な顔をするなまえに、「こんなの傷のうちに入りやしねぇよ」と言って自分で手当てをしようとしたリヴァイを無理やり押さえ、震える手でなまえがその傷を覆ったのだ。
あれをきっかけに、なまえとリヴァイの距離は急速に縮まった。

「ん…なまえ、どうした…」

肩の傷をそっと撫でれば、擽ったさを覚えたらしいリヴァイが目を覚まして掠れた声を出す。
やっぱり起こしてしまったと少しの罪悪感を感じたものの、その瞳が自分を写していることに素直に嬉しさを感じた。

「ごめんね、起こしちゃった」

「ああ…構わねぇよ」

欠伸を噛み殺す様子を見せたリヴァイが半身を起こしながら水差しに手を伸ばし、それを口に含んでなまえを横目で見遣った。
次に水を貰おうとぼんやりとした頭で考えていたなまえだが、不意に近付いてきたリヴァイの顔に目を瞬き、次いで重ねられた唇に瞑目する。そのままゆっくり入ってきたぬるい水を思わずこくり、と嚥下した。

「んっ……リヴァイ…?」

「喉、渇いてたんだろ」

「もう…自分で飲めるよ」

しれっとそう宣いつつ、今度は自分の為に水を飲んだリヴァイに恥ずかしそうに言った。
潔癖症の彼がこういう風に深い触れ合いを好むことに最初は驚いたものだし、今も完全に慣れることは無い。とにかく恥ずかしく、どんな顔をすれば良いか分からなくなる。

「…お前にしかやんねぇよ、こんなこと」

「誰にでもやってたら大問題です」

なまえの不服そうな顔をどう思ったのか、見当外れのことを真面目な顔で言うリヴァイに今度は呆れてしまう。
そのまま完全にずり下がってしまった毛布で胸元を隠すなまえの目に、再びあの傷痕が飛び込んできて思わず目蓋を伏せた。

「…んな顔すんな。昔のことだろうが」

「だって…」

「こんなの負傷にすらならねぇって言ったろ」

なまえが顔を曇らせた理由に気がついたリヴァイはその髪を乱暴に撫でて、そのままグイッと己の元に引き寄せる。
お互い素肌の感触が気持ちいいと同時に照れくさくなって、なまえは逞しい胸元に顔を埋めた。

「…傷一つでお前を縛れるなら安いモンだ」

「…え?」

「この傷を負った時…お前、かなり責任感じて治るまで俺の世話をするって譲らなかっただろ」

「うん…だって私のせいだし」

「…傷が長引くのも悪くねぇって思った」

「え…?」

ボソリと呟かれた言葉に、なまえはばっと顔を上げた。
思い出すのは、やたら傷の治りが遅く、なまえがほぼ毎日リヴァイの元に通っていたあの頃のことだ。利き手ではないから日常に支障はないと言うリヴァイを無視して、公私ともにサポートを買って出た。流石に訓練は出来なかったので、書類仕事を手伝ったり食事を持ってきたり、勿論包帯を変えたり消毒をしたりと、かなり甲斐甲斐しく世話をした覚えがある。
傷は思いの外早く塞がったが、まだ痛みが残ると言ったリヴァイを心配して、暫くは行動を共にしていた。

「待って…まさかもっと早く治ってたの…!?」

なまえの素っ頓狂な声に無言でリヴァイが視線を逸らした。
おかしいとは思っていたのだ。見た目はどんどん良くなって、医者通いも終わっていたのに調子が戻らないと主張するリヴァイに、何度もちゃんともう一度医者に見せた方が良いと訴えた。が、結局リヴァイが再度医者にかかることはなく、気が付いたら傷は良くなっていて、その頃にはあれよあれよという間に恋人同士だ。

「…治ったって言ったらお前はあっさり離れてただろうが」

「はあ…?」

「チッ…本当はずっと黙っているつもりだったが…お前が未だに気に病むのは我慢ならねぇ。
…ああ、本当は包帯が取れた頃にはすっかり良くなってたし、お前の助けを必要とするほどじゃなかった」

「じゃあなに…怪我をしたのをいいことに、私のことこき使おうと思ったってこと?」

「は?ちげぇよ馬鹿か」

リヴァイがこの怪我を負ったのはもう数年前のことで、それはつまり恋人同士になってからの年月を示している。
今更そんな小さな嘘をどうこう言うつもりは無いが、怪我を負わせて傷を残してしまったことはずっと心のしこりになっていたことに間違いはない。あまり言うとリヴァイが怒るので口に出したことは殆ど無いが、やはり傷が目に入ると心のどこかがチクッと痛んでいた。

「…だから。怪我が治らなきゃてめぇはずっと俺の傍にいるだろうが」

「…それってつまり…」

「チッ…最後まで言わせんな」

つまり、なまえを何とか傍に置いておきたくて、怪我が長引いている振りをしていたということか。
ぽかんとして僅かに口を開けたままリヴァイを見つめるなまえの視線に居心地が悪そうに眉を寄せた彼が、再びその身体を引き寄せた。

「わっ…」

「だからなまえ。お前が気にすることなんて何もねぇよ。こっちはこの怪我のおかげで、お前を手に入れることができたようなもんなんだからな」

「…不器用すぎるし遠回りすぎるでしょ」

「うるせぇ、鈍すぎるてめぇが悪い。大体包帯変えるためとはいえ、何の躊躇いも無く男の身体触ってんじゃねぇよ」

俺がどんな気持ちで耐えてたか分かるか、と何年か越しの不満を何故か今になってぶつけられて、なまえは唖然としてしまった。
まさかあの時そういう思惑があったなんて全く気が付いておらず、とにかくリヴァイの怪我が早く良くなるように必死だったのだ。

「もう…あの時の私の心配を返してよ!」

「はっ…もう時効だ」

「あーあ…まんまとリヴァイの思惑にはまっちゃってたのね」

「ふん…結果オーライだろ。惚れた女を助けられて、そいつが甲斐甲斐しくてめぇの世話してんだ。正に怪我の功名だな」

「…違うと思う」

「まぁだから…お前がずっと気にするようなことじゃねぇよ」

「…うん。ありがとう」

色々言いたいことはあるが、それでもリヴァイから与えられる愛情に勝るものなど何もない。
それに、本当はなまえだってずっとリヴァイのことを想っていたのだ。怪我をさせてしまって申し訳なく、何か力になりたいと真剣に思った気持ちに嘘はないが、これを口実に傍にいられると仄暗い喜びを抱いたのも事実だ。だがそれを伝えるのは、いつかのお楽しみにしておくとしよう。



擦り寄せた胸元から規則正しい心音が聞こえてくる。それが嬉しくて、なまえはそこにそっと唇を寄せた。
するといきなりリヴァイに両腕を引かれ、そのままベッドへと縫い付けられた。

「っ、きゃ…リヴァイっ…?」

「…煽ってんな」

「あ、おってな…んっ…」

捻じ込まれた舌に必死に応えると、リヴァイの掌が剥き出しの胸に触れる。
確かめるようなその動きにビクンッと身体が跳ねた。

「リ、リヴァ…イ…!もう無理…!」

「無理じゃねぇよ。明日、いやもう今日か…は、休みだろ」

「そ、そうだけど…もうっ…アッ…ん!」

捏ねくり回すように敏感な先端を触る指先に、急速に身体が熱くなってくる。昨日散々拓かれた身体は、すぐに潤ってリヴァイへ熱を伝えた。
すぐに固くなったその先端をそっと口に含むと、ピリリとした快感がなまえの背中を走る。

「あの時…お前は次同じことがあっても、絶対に自分のことは助けるなと言ったな」

「あんッ、や、ぁ…!そこ、で喋らなっ…あっ」

「だがな。同じ場面になったら俺は必ずお前を助けるぞ」

「リヴァッ…やだぁ…!ン、はぁっ…」

「怪我をしようが死のうが関係ねぇ。お前のことは俺が必ず守ると決めている」

ぴちゃぴちゃと水音が響く中、リヴァイの言葉を熱に浮かされる頭でぼんやりと聞いていた。
何か答えようと思っても口から出るのは甘ったるい嬌声だけで、なまえは縋るようにリヴァイの頭に腕を回した。

「ふっ…あぁッ…リヴァイ…」

「…ぐちゃぐちゃだな」

「んッ…や、あっ…!」


グチュリ、といとも簡単に侵入してきたリヴァイの節くれだった指が内壁の柔らかいところをじっくりと擦る。昨日の名残りと共にナカがいやらしく蠢いていて、なまえはひくりと喉をのけぞらせた。

「アッ…ン、ぁ…」

「…なまえ」

「ンッ、は、ん…リヴァイ…」

ぐりっと押しつけられたリヴァイ自身の硬い熱に、身体の中心が疼くのを感じる。
ゆっくりと手を伸ばしたなまえの腕の中に大人しく収まったリヴァイが、優しくキスを落とした。

「…なまえよ。お前の髪の毛一本まで俺のものだ。例え巨人にだろうと触れさせるな」

「んっ、」

そう言ってちゅうっとなまえの首元に吸い付き、そこに新しい赤い跡を残す。
言葉でも行動でも、独占欲を露わにするリヴァイに応える代わりに、なまえは肩に残る傷痕に甘く噛み付いたのだった。


-fin



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